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待ち時間

きっと到着する便を僕は待っていた。
左手の薬指を見ながら

あの日、僕は遅刻をした。
いつもの寝坊。それを君はいつも笑って許してくれた。今思えば、守っておけば君とあんな喧嘩はしないで済んだんだと後悔している。
きっかけは、あの時の僕からすれば些細な事だった。いつも通りの寝坊。でもその日は特別だった。2人が出会った日であり、2人が惹かれあった日。そして僕らの大切な記念日だった。
それをわかっていたのにも関わらず、僕は寝坊してしまった。でも、いつも通り許してくれる。また笑って「仕方ないな」って言ってくれる。そんな君に甘え過ぎていた。
君は怒った。そして拗ねた。突然のことである。でもあの時の僕は、それを些細だと思っていた僕には、謝罪の気持ちより疑問や苛立ちが先に来ていた。
「いつものことだろ」
僕は最低だ。何故こんなことを言ってしまったのか、今では到底理解できない。きっと、いつものあの言葉を言ってくれない君に怒りを覚えたのだろう。ただの子どもの駄々である。
これがきっかけで、君は去っていった。
「実家に帰ってる間に頭冷やして」
こんな言葉を残して。
僕が謝るまでそんなに時間はかからなかった。
いつも居てくれて当たり前だったのが、居なくなってしまった事への喪失感に耐えられなかったのだ。君は出てくれた。そして、僕はすぐに謝った。片耳だけで君の声を聞くのが、1年ぶりなのをその時は忘れていた。
そこから何時間話したのだろう。気づけば君の声は明るくなり、笑い声が1人の部屋に響いていた。この人と一緒にいたいと思い返せたのも、あの言葉を言ってくれた君のおかげだった。

君が帰ってくる日。

そのはずなのに、君から連絡が来ない。
到着予定の便はもう過ぎていた。
初めての遅刻。
君にあの言葉を言って一緒に帰りたかった。
不安はあるけど、きっと大丈夫。きっと寝坊。
そして最後の熊本からの便は過ぎていった。
僕は、怖くなって何度も連絡した。
それでも君からの返事は無く、仕方なく携帯をしまい、「おかえり」の文字と装飾された家へと車を走らせた。きっと大丈夫。そう想って。

そんな時、彼の携帯の画面が光った。
「新着メッセージがあります。」