ユダヤ人の受難のパワー（なぜロスチャイルド家が誕生したのか？）④
トルケマーダの異端審問裁判
こうした風潮のなかで１３世紀のイギリスではヘンリー３世（在位１２１６〜７２）はユダヤ人を迫害し、以降ユダヤ人の居住を禁じた。
１３０６年にはフランス王フィリップが高利貸として国民を搾取したという理由でユダヤ人１０万人に国外退去を命じた。
黒死病（ペスト）が流行して、それがユダヤ人のせいだとされて襲われ、多数が虐殺されたのも１４世紀である。
フランスを追われた人々の多くはピレネー山脈を越えてスペインに向かったが、スペインのユダヤ人黄金時代もキリスト教徒勢力がイベリア半島からイスラム勢力を駆遂しようと南下するに従ってかげりが見え、虐殺事件が多発するようになった。
その最後に起きたのが、キリスト教徒への改宗の強制と、スペイン王家の司祭トルケマーダによる異端審問裁判である。
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トルケマーダは１４９２年、イスラムの最後の砦、グラナダのアルハンブラ宮殿を攻め落として国土回復（レコンキスタ）が成ると、同年３月３１日、フェルナンド王とイザベラ女王がコロンブスを新大陸発見の航海に出帆させた同じ年のことだ。
ポルトガルはユダヤ人に寛容だったため多数が隣国に逃れたが、安心していられたのは５年間だけだった。
１４９７年、ポルトガル王マヌエル１世がスペインからフェルナンド王とイサベラ女王の娘を妃にもらおうとすると、スペイン側はポルトガルからユダヤ人をなくすよう注文をつけ、厳しい排斥が始まったからである。
当時のスペインの人口７００万人のうちユダヤ人は２５万人を占めていた。
この迫害で国外に出たのは１４万とも１６万とも言われるが、はっきりしたことは分からない。
ただスペインやポルトガルの枢要な位置にあったユダヤ人を追求したために、両国社会が次第に活力を失って、せっかくの新世界発見による繁栄を案外に短いものにしてしまったことだけは確かだといわれる。
海外に逃れたユダヤ人のある者は東へ向かって北アフリカからオスマン・トルコの国々へ流れ、またある者はオランダ、イギリスへと渡った。
新教のオランダは宗教改革の考えを入れて住民に信仰の自由を認めていたため、最も多くのユダヤ人が集まってアムステルダムに繁栄をもたらした。
またイギリスはヘンリー８世（在位１５０９〜４７年）が妃との離婚問題で関係がこじれたローマ教会と縁を切り、独自にイギリス国教会（１５３４年）を作ってからはユダヤ人敵視政策に同調せず、再びユダヤ人の定住を認めて商業につくことを許したのです。
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宗教改革の時代もユダヤ人にとっては多難だった。
ヨーロッパ全土がカトリックとプロテスタントの争いの場と化した１６世紀には、ユダヤ人は双方からの標的とされました。
１５５５年、教皇にパウルス４世が就任すると、ユダヤ人を金融業から締め出して、質屋と古着屋しか行ってはならないという新たな勅令を出しました。
パウルス４世はまたユダヤ人の男は黄色い帽子、女は黄色い目印をつけるよう命じ、さらにユダヤ人2０００人をローマ市の不潔な一角に強制移住させ、安息日ごとに住民の３分の１を引き立てて改宗者の説教を聞かせました。
居住区の２カ所の出入り口には番兵を配置して夜間には扉を閉めた。
帝都ローマでユダヤ人に対する新たな処遇が始まった事によって、この過酷なユダヤ人対策はたちまちフランクフルトやプラハなどローマ・カトリックの各都市に広がっていった。
ドイツや旧東欧諸国に今日も根強く残るユダヤ人に対する偏見の遠因がここにあるのだ。
ユダヤ人を隔離して住まわせる制度はこれより前、キリスト教徒とユダヤ教徒の混住を禁じたキリスト教の公会議での決定に基づいて、１５１６年にヴェネチア（ベニス）で始まったものである。
その場所が鋳鉄工場だったことから、それを意味する「ゲットー」という言葉がユダヤ人特別居住区を指す言葉となって、これもヨーロッパ中に広がっていった。
ちなみにイギリスの劇作家、ウィリアム・シェークスピア（１５６４〜１６１６）が「ベニスの商人」を書いて「借金３０００ダカットの代わりに肉１ポンド」を要求する非情なユダヤ人高利貸しシャイロックを活写したのは、ユダヤ人への風当たりが一段と強くなる一連の出来事があってしばらく後の１５９０年代のことであった。
日本ではバテレンが踏み絵を踏まされたのも偶然にもこのころで、バテレン追放令が１５８７年、禁教令が１６１４年であった。
・・つづく・・
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【参考文献】『ロスチャイルド家』横山三四郎（講談社現代新書）
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