マガジン

  • スカラベテーブル

    • 18本
  • こちらの窓からは、

    • 3本

    ところどこかに変わっても、窓は必ず、あると思うのです。物理的な窓じゃなくても、映画も本も音楽も、自分の小窓であると思うのです。 ささやくように、つぶやくように、手紙を書くように、こちらの景色を、書こうと思います。 そちらの窓からは、何がみえますか。何が聞こえますか。どんな匂いが、するんでしょう。 ささやくように、つぶやくように、そうして手紙を書くように、風が向いたら教えてください。 拝啓 こちらの窓からは、

最近の記事

0816

午後の仕事が急に休みになったので、自転車を借りることにした。 13kmほど走った海沿いで、夕陽がきれいに見えるらしい。 左手の森から、蝉の声がわんわんと鳴る。 右手の海は、夏の光を反射する。 坂道をくだる。 夏休みみたいだ、と思う。 自転車で海のそばを通ったことなどないはずなのに、なつかしいのはどうしてだろう。 坂道をくだる。 前かごにいれたラジオの音が、耳を過ぎる風にかき消される。帰り道ののぼりのこととか、坂道の先に待ち受けているかもしれないヒヤリハットとか、いったん

    • 0813 さかなのまぶた

      最近の考えごとは、魚のまぶたについて。この一節に出会ってからである。 お盆期間を利用して、島の旅館でバイトを始めた。毎晩お造りが提供されるので、必然的に魚の頭と触れ合う回数が増えている。 今日の頭は、料理長が朝4時半に釣ってきたキジハタとアカハタ。 うっすら口をあけて、開かれた目のまま、板の上に横たわる。まぶたはない。生まれてから何度も魚をみてきたはずなのに、今更まぶたのないことを意識する。 あいた口の向こうから、厨房の冷蔵庫の銀色がみえた。本来ならば通ることのない視線が

      • 0811 俊足のおじさま

        長崎に行ったことがなかったので、無職期間を利用して壱岐に行ってみることにした。 飛行機で福岡にはいり、博多駅から博多港までバス、そこから壱岐へフェリーで向かう旅程である。 福岡空港から博多駅、バス停の発見までとんとん拍子。とりあえず埠頭とかかれたバスをみつけたので、乗ってみた。 しかしバスに乗ったあと念のため調べると、どうやら福岡には中央埠頭と博多埠頭の二つがあるらしい。壱岐にいくには博多埠頭に行く必要があり、くれぐれも中央埠頭には行かないようにと赤字で書いてある。私が乗っ

        • 0806 自分のその手で作るということ

          諏訪にあるリビルディングセンタージャパンというところに行った。解体やお片付けの現場から、行き場を失ってしまったものをレスキューするリサイクルショップ。通称”リビセン”という。 併設されたカフェにはいり、何気なく手にとったコンセプトブックを眺めながら、”つくること”について考えた。 私の日常は、手触りの実感からすごく遠いところにある。誰かが作った椅子に座り、誰かが作った机の上の誰かが作った皿の上の誰かが作ったパンを食べ、誰かが作ったカップから誰かがいれたコーヒーを飲む。 私の

        マガジン

        • スカラベテーブル
          18本
        • こちらの窓からは、
          3本

        記事

          0805 月1休暇制度のこと

          松本の街を歩いていたら、高校時代に導入していた月1休暇制度のことをふと思いだした。 読んで字のごとく、月に1度自主的に学校を休む、という制度だ。大学生になってから自主休講という言葉を知ったけれど、高校生の当時は画期的だと思った。 背景の1つは、10キロの自転車通学にある。ナビの予想到着時間が速度によって変わるように、自転車による通学時間も私の裁量によって大きく変わる。高校前の坂は頑張らずに自転車を押すと決めていたこともあり、平均到着時間は50分〜1時間10分くらい。 急げば

          0805 月1休暇制度のこと

          その道が一人称になるまで

          5月、スペインの巡礼路を歩いた。サンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂を目指す道で、巡礼者の間では「カミーノ」とよばれる。スペイン語で「道」という意味だ。 全長800キロを歩く気合いはなかったので、いくつもある巡礼路のうちのひとつを選び、最後の100キロだけを歩くことにした。 歩き始めることを決めた理由は、自分でもはっきりしない。 どこかできいて気になっていて、たまたま時間があって、航空券を買えるくらいの貯蓄があった。 日付を選んでチケットをおさえたら、行くことが予定にな

          その道が一人称になるまで

          【スペイン巡礼】巡礼宿 後編【カミ―ノ】

          前回の記事では巡礼宿の探し方・泊まるまでの方法を紹介しました。 今回の記事では、私が6日間の巡礼で実際に泊まった宿について書いていきます! 0日目 サリア(Sarria)泊まった宿:Albergue San Lazaro https://www.alberguesanlazaro.com/ 予約方法:Booking.com 値段:12ユーロ 巡礼のスタート地点、サリアでの宿です。到着時刻が19時を過ぎる予定だったので、事前に予約してから行きました。2段ベッド、カーテンなし

          【スペイン巡礼】巡礼宿 後編【カミ―ノ】

          【スペイン巡礼】巡礼宿 前編【カミーノ】

          スペイン巡礼の宿のことを、アルベルゲと呼びます。公営と私営があり、今回私が宿泊したのは、すべて私営のアルベルゲです。 この記事では、アルベルゲの探し方と実際に泊まるまでを書きます。 1.カミーノ便利アプリで検索!アルベルゲを決めるには、まずその日の目的地を決める必要があります。 巡礼経験者の方に教えていただき、2つのアプリを併用して使っていました。 1つめは、Camino Ninja(カミーノニンジャ)です。 アプリの中で現在地以降の都市までの距離、その都市にある施設等

          【スペイン巡礼】巡礼宿 前編【カミーノ】

          【スペイン巡礼】持ち物準備 後編【カミーノ】

          スペイン巡礼持ち物編、後編です! 前回の記事はこちら 1.寝袋って実際いるの? 出発前、最後まで持っていくか迷ったのが寝袋です。かさばるし、毎回しまうの面倒くさそう…と思ったのですが、最悪途中で捨てよう!と覚悟を決めてもっていきました。 実家にあったものだったので、特に購入の決め手等はありません。15度まで対応の、ロゴスの寝袋です。 結果として、持って行ってよかったです! 泊まったのは全て私営のアルベルゲ(巡礼宿)だったのですが、基本的にシーツは貸してくれて、毛布も希望者

          【スペイン巡礼】持ち物準備 後編【カミーノ】

          【スペイン巡礼】持ち物準備 前編【カミーノ】

          2024年5月22日〜27日にかけて、スペインの巡礼ルート(通称カミーノ)を歩きました。 スタート地点はスペインのサリア(Sarria)。そこからゴールのサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)を目指す道のりで、フランス人の道のラスト115キロにあたります。 事前に調べながら悩みながらの荷造りだったので、今回は私が実際に持って行った持ち物を紹介したいと思います! 今後行ってみたい、興味がある方々の参考になれば幸いです☺︎ 1.靴って

          【スペイン巡礼】持ち物準備 前編【カミーノ】

          0704 旅をするのは

          てっくてっくとサンダルを鳴らして 私はクエンカの街を歩く おすすめ観光地を調べて ウィキペディアで歴史をおさらいして Instagramで#クエンカで検索して Googleマップで所要時間を確かめて ついでにレビューもチェックする 転ばないように 後悔しないように でも綺麗な写真の答え合わせにいくような そんな旅ならいらなくて 夕暮れの坂道 向こうに旧市街の街並み 寝床に帰る前の鳥たちが ばさばさと空をいそぐ 夕暮れの飛行機雲は 淡い赤色になること 谷にかかる橋を渡るとき

          0704 旅をするのは

          0628 ジャスミンの香りさえ

          人の顔を覚えるのが苦手だ。あと名前も。 だからこの人のことを覚えておきたいと思ったときは、写真を撮ったりSNSを交換したりを意識的にする。SNSには大概名前も書いてあるので、こっそり復習につかう。 先日、覚えておきたい人と出会った。 過ごしたのは1週間くらいだったけれど、買い物に、湖に、ハイキングに、一緒に出かけた。 植物が好きな彼女は、自然を歩くと、新しい木や花の名前を教えてくれる。たくさん教わったのに、結局覚えられたのは黄色い花の名前ひとつだけだったけれど。 道端でふ

          0628 ジャスミンの香りさえ

          0621 クラウドばあちゃんの鼻歌

          仕事をやめて暇になったので、フランスの農家でホームステイをしている。 ホストマザーの名前は、クラウドばあちゃん。料理が上手で掃除が苦手、右手に松葉杖をついていて、よく笑う。 今朝は、クラウドばあちゃんとラズベリーをつんだ。松葉杖は畑の入り口に放り投げ、左からクラウドばあちゃんが、右から私が、一列に並んだラズベリーを挟み込むようにすすんでいく。作業の合間に雑談をし、雑談の合間にクラウドばあちゃんは鼻歌を歌う。 10才を迎えるラズベリーの木は私の身長より少し低いぐらいの高さで

          0621 クラウドばあちゃんの鼻歌

          0617 分けること、分かること

          フランス語を勉強しようと思いたち、フランスの農家に来た。 思いたった勢いで来たので、全く話せない。 とりあえず、ぼんじゅーるとめるしーは言える。 現在の滞在先はいちご農家で、主な仕事はジャムづくり教室。2-6歳くらいの子どもたちがわらわらとやってきては、いちごを摘んで、ジャムをつくり、瓶に詰めて帰っていくのを日々お手伝いしている。毎日同じ説明がされるため、ジャムづくり限定で認識できる言葉が増えてきた。 ジャム、いちご、砂糖、なべ、瓶、ふた、摘む、待って、混ぜる、あつい、ヘ

          0617 分けること、分かること

          0502 歯医者さんが嫌すぎる

          好きな場所はたくさんあるが、 苦手な場所の断トツ1位は歯医者である。 最近、ふと甘いものがしみることに気づいてしまい、実に2年ぶりに重い腰をあげて歯医者に行った。複数の虫歯が発見された。ショック。通わねばならない。 なすすべなく診察台に寝転がり、永遠にも思われる治療の気を紛らわすべく、なぜそんなに歯医者が嫌なのか、これを機に言語化してみることにした。 ①歯医者さんに対する恐怖 治療の際、まっさきに想像するのは、 “このドリル、喉にささったらどうしよう”ということだ。大小

          0502 歯医者さんが嫌すぎる

          0425

          仕事をやめて、古民家に住み始めた。 築100年の母屋に、日本式の庭園。 小さな紅葉の木と、大きな八重桜が隣り合う。 人が歩けば、ぎしぎしときしむ。 家の裏には、柑橘系の果物がある。名前は知らない。キッチンの窓から覗く、ふくらんだオレンジ色。酸味が強すぎて誰にも食べられることのないまま、ぽたり、ぼたりと重たげに実を落とす。 雨の日は、心地よい雨音をきく。 窓をしめきった部屋できく。雨粒が屋根をたたいて、くぐもったような、柔らかな音がする。 そういえば、ここ数年雨音をきいて