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#毎日note

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のり子は念願の売り場異動が叶い、嬉しくてたまらなかった。


たまたま退職の方がいらっしゃってその補充という形でおもちゃ売り場に配属になった。

売り場初日にチーフのイシタさんに挨拶に行った。
イシタさんはフランクな方で一緒に売り場を廻りながら商品の簡単な説明をしてくださった。


そしてリカちゃん人形が陳列されているところに来て、
「ゆりちゃんには女児玩具を担当してもらうから。今日からここはゆり

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のり子にとっては、「服」「髪」「靴」、この3つが揃い、会社では堂々といられるようになり意欲的に仕事をしていった。


のり子が入社して4~5年位の頃に、会社では「業務改革」という言葉が使われ始めた。

時代はどんどん変わっている。だからこれまでの成功が今後も続くとは限らない。過去の成果にこだわっていては時代の波に乗られないと考えられ、社内の組織が劇的に変わり業務もどんどん新しくなっていった。


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会社の同期の女性社員は入社と同時にパーマをかけ、大人びて見えていた。
それに比べのり子は相変わらず床屋さんで髪を切ってもらっていたから、「美容院」や「パーマ」にとても憧れを抱いていた。

「いつか私もパーマを」と憧れていた。



のり子は意を決して美容院に入り、そして生まれて初めてパーマをかけてみた。


髪をくるくるに巻かれ、炊飯器の釜を逆さまにしたようなものが頭上にあった。

数十分待ち、ド

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どうしたら自信を持てるか。
それには次の3つが確立したら自信を持てるとのり子は過去の経験から思う。

その3つとは、服と靴と髪。



貧乏な家に育ったのり子はいつも姉のおさがりを着るのが当たり前で、服は与えられるものであり自分で選んだり買ったりできるものではなかった。

休日、街に買い物に行くときも学生服で行くこと。
そんな厳しい校則があった高校時代は、その校則のお陰で休日の服装に困ることは無か

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入社したての頃ののり子は通勤着にどんな服装をしていけばいいか分からず困っていた。

のり子の勤務先は衣料品も扱っているから最初、売り場の方が勧めて下さったものを購入していた。

しかし、「あれは〇〇円の服だ」とすぐに分かってしまうのが恥ずかしく感じてその内、社外のお店から買うようになった。

貧乏な家に育ち、いつもおさがりの服しか着ていなかったのり子は自分で服を選ぶことができず、お休みの日に探し

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のり子は食事も喉に通らないほどになっていた。

縁談を破談させてしまった人。

そのセルフイメージを自分で勝手に作ってしまい、その世界から抜け出せずにいたのり子は、ある日、温泉の体重計の数字を見て目が覚めた。

30kg台の自分。

大きな鏡に映る姿は頬がこけて目がくぼみ、骨と皮だけの貧相な体形の女性がいた。




自分の感情に流されていて、それが体中の雰囲気に溢れていた。

これではいけない。

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お見合いをしてその後2回だけその方と喫茶店でお話したりドライブしただけ。


紹介してくださったおば様から「どう?」と言われ、数回あっただけでは分からないとお答えしたのり子は、先方が言う「キメザケ」をしたら次回も会えるという条件を飲んで、またその方と会うことになった。

これまでは喫茶店でお話をしていたが当日は先方のお宅に招待された。


通された座敷を見てのり子は驚いた。

なんと、結納のセット

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高卒で入社したのり子の勤務先は毎年人事異動があり、都会から男性社員が異動してきた。

行動範囲が狭いのり子だったが、その都会的雰囲気の男性達を何人も見るうちに、理想の男性像はどんどんレベルアップしていった。




のり子が20代前半の頃、ご近所の方で着物販売の会社に勤めている方がいた。その方はのり子の母親と同じくらいの年代の女性で、時々、お見合いの話を持って来た。

毎日仕事が面白くて結婚なんて

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入学したら部活動は必ず入るもので、入部したら絶対に辞めずに卒業まで続ける事。

のり子の当時の常識はそうだった。
だからのり子は部活に入ることは当たり前だった。


校門に入ると上級生が待ち構えていた。「合唱部に入りませんか?」
漫画でこういう「部員の客引き」の図を見たことはあったが、その光景を実際に目にすることは、のり子は今までなかったので、「へー、高校って大人の世界だなぁ」と感じた。

部活の

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やりたくもないのに無理やり多数決でクラス委員長をすることになったのり子は高校に入学して半年間、迷走しきっていた。

学活の時の議長の時は会の運行をうまくまわせなかった。
話をどう持って行って結論を出せばいいのか分からなかった。

もしかしたらそれを文章にして静かに考えていたらできたのかもしれない。

しかし、人と話をすることが苦手で、ましてや皆さんの前に出て話をしなければいけない状況で、脳内はグ

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高校に進学して初回の授業はどの教科も先生の自己紹介や雑談で終わっていから
「高校ってそういうものなんだ」と、のり子は油断してしまった。


まさか、大好きな数学の初日に授業が始まるなんて思ってもみなかった。先生が自己紹介もせずに突然黒板に問題と解き方を書き始めたのには驚いた。

のり子達は慌ててその数式をノートに写し始めた。先生の説明はもう頭の中で素通りしていた。
とにかく早く書き写さなければいけ

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自分から人に声を掛けられず独りぼっちの中学三年間を過ごし、勉強するしかなかったののり子は地域でも有名な進学校に入学した。


そこは百数十年の歴史がある、地域でも有名な女子高だった。

その学校は自転車で片道45分位の「街なか」にあった。
これまで周りが田んぼだけの小中学校だったのり子にとって、「大人の世界」へ飛び込んだような気がした。


同じ中学からはのり子を入れて2~3人しか入学していない、

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中学に進学したのり子は、いじめをしていた彼とは別クラスになりいじめは自然消滅した。

彼はボンタンの恰好をして他校の番長と喧嘩沙汰を繰り返すようになっていった。


小6の一年間、他の女子に被害が及ばないようにと思い、のり子はひとりになることを選んだ。


いじめが終わったのにのり子は自分から人に話しかけるのが怖いと感じる子になり、結局、中学の時も独りぼっちだった。


友達がほしい
誰か私を助

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入学式の早朝、のり子は自転車に乗り、中学校の玄関に貼られたクラス分けの表を確認しにいった。

「どうか、A君と違うクラスでありますように」

番長的立場のA君から1年間いじめを受けたのり子は小学校を卒業してから今日まで、指を組んで神さまに拝む姿勢を何度もしていた。

眠る時もその祈りは眠りに入るまで続けていた。

そして、彼とは別クラスになったことを知った時、初めて眼鏡をかけたあの瞬間のように、世

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