BAR自宅、フルーツブランデー2
バーには黒猫がいる。
テーブルの向こう側に座る、真っ黒ツヤツヤの毛並みと金色の目、くたくたのやわらかい体が自慢の、ねこが。
「さて!」
と言って彼女は今夜も、シンクの下から保存瓶を取り出す。
先日作ったオレンジのフルーツブランデーは、瓶の底で美しい色をして揺れた。
漬け込んだオレンジは数日で取り出して、砂糖で煮込んで簡単なマーマレードジャムに変身している。アルコールが飛び切っていない風味は、とても朝食のパンに塗れるようなものではないが、夜のアテには最適である。ジャムだけでも淡い酔いを楽しめるような味わいだ。
だいぶ量を減らしたオレンジブランデーをグラスに半分、その上からサイダーを半分。オレンジとサイダーの甘みとアルコールの苦みを十分に堪能する少し濃いめの割り方だ。客の好みはもう少し薄めのはずだが、今夜のバーメイドの判断としてはこれでいいらしい。つまみには例のジャムとクラッカー。それから冷凍庫にアイスがあるのを猫は知っている。洋酒とアイスクリームはよく合うものだ。
酒に甘いものばかりをそろえて、夜からのお楽しみである。
太ったのなんのと嘆くわりに、週末のこの時間だけは絶対に譲らないのだから仕方のないことだ。
淡い間接照明の中、白いテーブルに黄金色の影を落とすグラスと、形よく並んだクラッカーに、小さなジャムの瓶。可愛らしくセッティングされた指定席に腰を下ろすと、バーメイドは客へと早変わり。
ここは開店も閉店も自由自在のバー、自宅である。
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