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1000のおむすびを食す男 第4話【漫画原作部門】

第4話 船橋市場 50年間 市場で働く人々を支えてきたメニューに載っていない"お母さんのおむすび"



日本を代表する文豪太宰治は、有名な「斜陽」の中でこのようにおむすびを語っている。

「おむすびがどうしておいしいのか、知っていますか。あれはね、人間の指で、握りしめて作るからですよ。」

おむすびは、人の手から人の手へ渡っていく食べ物だ。
その中には、美味しさだけでなく作り手や食べ手の想いも入っている。

今回は、そんなおむすびの温もりが感じられる話です。


第4話本編

スーパーの野菜売場に掲出するPOPの撮影で、早朝の船橋市場(船橋市地方卸売市場)へやってきた。
撮影はスムーズに終わり、機材も撤収。
今日の午前中の予定はこれで終わり。


時計を見るとまだ9時だ。

そういえば、朝ごはんを食べていなかった。
市場の中にごはんが食べられるお店はないかなあ。


船橋市場(船橋市地方卸売市場)
全国各地から集められた新鮮な魚介類や野菜などが集まる、まさに千葉の台所的な存在。

実は、自分にとって、とても懐かしい場所でもあった。



幼い頃、このすぐ近くにある大きな団地に住んでいたことがあった。

数年前に団地は取り壊されていたみたいで、その団地の姿はなくなっていたけれど。

この市場の光景は、子どもの頃の記憶をどんどん呼び起こさせる。




かくれんぼをしたり、大きな発泡スチロールで基地を作ったり。

市場は、当時の団地の子供たちにとって、よき遊び場だった。



そんなノスタルジーな思い出に浸りながら、市場の中を歩いていく。


そうだ。この先にあのお店があったはず。


船橋市場の中では、深夜や早朝に働いている多くの人がいる。


そしてその市場で働いている多くの人を50年以上支えているおむすびを作っている食堂がある。

その食堂の名前は、「大乃家食堂」


この食堂は市場の中の人だけでなく、一般の人も利用することができる。


土日は早朝から大行列ができるほどの人気だ。
(海鮮丼やお刺身定食を目当てに来る方も多いらしい)


この日は平日ということもあって、並ばずにお店に入ることができた。


店内はとてもにぎやかだった。

カウンターに並ぶ焼き魚や魚の煮付け。
どれも美味しそうで、食べてみたい。

市場での仕事終わりの方も多く、この魚や揚げ物を定食にしてビールをグビっとしている姿も見られる。

常連さんに長く愛されているお店。
素敵だ。

さて、おむすびはどこかなあ。

あれっ。
ない。

メニュー札を何度も何度も見たけれど、おむすびの文字がない。


すみません。おむすびはありますか?

「ありますよ。どの具にします?」

どうやらメニューにはないけれど、注文は受け付けてくれるみたいだ。

では、鮭のおむすびをお願いします!

これまでの経験上、そのお店のおむすびのことを1番知ることができる具は「鮭」

「鮭」おむすびが美味しいお店は、他のおむすびも美味しい法則があるんだ。

おむすびを握ってくれたのは、好江お母さん。
この好江お母さんは、50年以上ほぼ毎日、市場の人向けにおむすびを握り配達をしてきているとのこと。

1日で500個も作ったときもあるらしい。

これまで作ってきた数を合わせると450万個以上にもなるとのこと。


好江お母さんは、炊き立てアツアツのごはんを、そのまま素手で手際よく素手で握ってくれた。

最近、アツアツのおむすびを握る料理人がYoutubeなどでも人気らしいけれど、この好江お母さんはそれをずっと続けている。


温かいうちに。

いっただきまーす。


ふぉう!

アツアツだ。手で持てないくらい熱々だ。


ふはぁ。
ふはぁ。

かぶりっ。

このおむすびは、すごくふっくらしていた。
塩の効き具合もちょうどいい。

鮭も甘塩の鮭を丁寧にほぐされていて、これがまたごはんと絶妙に合う。

旨いなあ。

でも、ただ旨いだけではない。
ホッとするような、懐かしいような。

やっぱり、人の手でむすんでいるからだろうなあ。


太宰治が斜陽の中に書いていた言葉が、頭の中に浮かぶ。

「おむすびがどうしておいしいのか、知っていますか。あれはね、人間の指で、握りしめて作るからですよ。」

おむすびは、人の手から人の手へ渡っていく食べ物だ。
その中には、美味しさだけでなく作り手や食べ手の想いも入っている。

大乃家食堂のおむすびは、この言葉を体現したものだと思う。

それは、おむすびの本質とも言えるだろう。



ごちそうさまでした!
ああ、旨かった。

ここで、ある事実に気づいてしまう。
この大乃家食堂のおむすび。メニューに載っていないため、値段がわからないのだ。

最近のおむすびブームの中、1個500円くらいするおむすび専門店もあったりする。

もしかしたら・・
ちょっと不安になりながら、レジに向かう。

えっ!

ぜんぜん、そんなことはなかった。
あまりにもリーズナブルな価格設定すぎて、逆にびっくり!

これなら、おかずも頼めばよかったかな。


大乃家食堂では、煮物や揚げ物、お刺身など美味しい料理がたくさんある。ぜひおむすびと合わせて頼んで、いろいろな味を楽しみながら食べるのが良さそうだ。



50年以上、市場で働く人を支えてきたメニューに載っていないおむすび。


ご馳走たまでした!


(続く)



※noteで5年間に渡って書き上げた、1300本以上のおむすびリポートの中から、選りすぐりの話を漫画にしていきますー


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ファンベースデザイナー、地域創生プロデューサーなどしてます。 おむすびnoteを毎日書いてたり、浦和レッズを応援したり… みんなが、好きなこと、応援したいことを素直に言える世の中にしたいなあ。 皆さんと、いろいろなコラボをしたいです! ぜひぜひご連絡ください!