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「出来たて」と「冷凍食品」 2極化するコンビニの食事メニュー

おいしいものは食べたいけれど、毎日の自炊も大変。そんな時に頼りになるのが「出来たてのお惣菜」や「冷凍食品」ではないでしょうか。

いまやどちらもコンビニで手軽に購入できるようになっていますが、その裏側には様々な工夫がありそうです。今回は、「出来たて」と「冷凍食品」を提供するコンビニ各社の取り組みを、「月刊コンビニ」副編集長、梅澤聡さんにレポート頂きました。


出来たてはおいしいが、求められる高度な運営

出来たてがおいしい」に異論はないと思います。揚げたての唐揚げ、作りたてのおにぎり、焼き上げた直後のパン。工場で生産したパック詰めの弁当や惣菜、パンよりも、おいしさが際立ちます。コンビニ弁当がひと昔前より格段に品質が向上したとはいえ、出来たてと勝負するには、よほどの工夫が求められます。

であれば、コンビニに店内厨房を設けて、全ての弁当、惣菜、ベーカリーを出来たてにすれば、競争に勝てるはずです。店内で炊飯したり、パンを焼いたり、揚げたり、焼いたり、煮込んだりすれば、競争力の強い商品が出来上がります。

しかしながら、現状はそうなっていません。「出来たて」に積極的なチェーンと、消極的なチェーンの二つに分かれます。当たり前ですが、店内で弁当を作るとなると、そこに人員とスペース、設備機器が必要になります。それを500店舗で実施するよりも、単純に1つの工場でまとめた方が効率は良いと考えるのが自然です。

「効率」といえば、提供する側の論理のように聞こえますが、工場生産の方が安定した品質、価格の抑制、品目のバラエティを実現でき、利用者にとってもメリットがあります。

コンビニの「出来たて」を難しくする一つの弱点は、「出来たて」であっても、作り置きをして販売していることです。「ツーオーダー」、すなわち、お客の注文を受けてから作るのではありません。お客が集中するランチタイムに、いちいち注文を聞いていられないため、ピーク前にまとめて作って、「出来たて」とPOPを付けて販売します。

筆者の自宅近隣に、作りたてのおにぎりを販売するコンビニがあります。早朝6時過ぎくらいから、作りたてのおにぎりが棚に並びます。ご飯の温かさが残り、実においしく仕上がっています。ところがピーク時を過ぎた、中途半端な時間に購入すると、そのおいしさが半減すると感じます。

対して、工場で生産するおにぎりは、店舗に納品されてから販売期限まで、ほとんど同じ品質を保ちます。味にブレがなく、お客にとっても安心、店側にとっても扱いが簡単です。

ともあれ、出来たてをおいしく、そして効率よく提供するには、高度な運営が店側に求められます。その高度なハードルを、チェーン本部がどれだけ仕組み化して、引き下げるかは重要なテーマになります。

ローソンまちかど厨房の売れ筋商品「海鮮かき揚げ丼」(税込538円)。
「店内キッチンだから作れるおいしさ」と、器の側面に記している

店内調理を確立した北海道のセイコーマート

その「出来たて」にいち早く取り組んで、成果を出し続けているのが、北海道をドミナントにするコンビニ「セイコーマート」(1,176店舗、2022年6月末現在)です。セイコーマートは1994年に「ホットシェフ事業」を立ち上げて、店内で作ったおにぎりや弁当、惣菜を、道内の約800店舗で提供しています。ホットシェフ事業の売上だけで150億円を超えており、この店内調理を仮に「外食事業」に分類すると、北海道内ではトップクラスになるといいます。

導入当初は、全ての対象店舗で同じ味と仕上がりを求められ、非常に難しいチャレンジでした。その後、製造機器の進化や、食材供給体制の整備などで、商品のブレを根気強く解消していきました。それが一つ目の成功要因です。

二つ目の成功要因は、北海道の立地特性にあります。セイコーマートの出店地周辺には、飲食店が存在しない地域が多く、作りたてのおにぎりや弁当を、店内のイートインコーナーで、飲食店のように利用するお客が多いのです。知り合い同士で食事やお茶を気軽に楽しむ場所を提供しています。

三つ目の成功要因は、長距離輸送の弱点を補ったことです。製造から納品まで長時間を要する僻地や離島では、定温(20度前後)の米飯弁当、おにぎりなどは、店着後の販売時間が非常に短くなります。販売時間が短くなると販売数量が読みにくく、天候の急変で客足が途絶えると、廃棄ロスがかさんでしまいます。

その解決策として、当日の客足を見ながら臨機応変に調理できるホットシェフを「メイン」に据えて、定温の米飯弁当やおにぎりを「サブ」にすれば、廃棄ロスも出さずに、効率的な販売ができるのです。離島であれば海が荒れて、物流が止まってしまうケースもありますが、店内調理の食材はほぼ冷凍食品なので、お米を炊飯すれば最低限の品揃えができる利点があります。

ちなみにセイコーマートでは、電気や都市ガスが止まっても、プロパンガスを備えているので、炊飯して、おにぎりの提供が可能です。自然災害時にも強さを発揮できるのです。

店内厨房の設置を早くから始めて、軌道に乗せたセイコーマートの「ホットシェフ」。
当初は苦労したものの品質の安定化を実現させた
「ホットシェフ」による出来たての丼。
工場生産では提供が難しい、半生の卵を使って差別化を試みている

8,000店舗の店内厨房にゴーストレストランを導入する

セイコーマートのような先行事例があるものの、人員の問題は厳しさを増してきます。条例が定める最低賃金の低さを問題視する向きもあり、また、最低時給すれすれで運営するコンビニは、コロナ禍が本格的に明けると、以前のような人手不足が懸念されます。

出来たてを提供する店内調理の生産性向上は必須であり、売上の拡大が課題になっています。

そこで浮上したのが外販です。店内調理の強みを生かした外販により、売上をプラスオンしていく作戦です。

ローソンは東京都内の店舗「ローソン飯田橋三丁目店」において、デリバリー専用に開発した商品を、店内の厨房(まちかど厨房)で調理して届ける「ゴーストレストラン」を実施しています。

ローソンは、全国の約8,000店舗に店内厨房を導入しています。この厨房を、ゴーストレストランに見立てて、約3,000店舗以上のローソンで稼働しているUber Eats(ウーバーイーツ)などのデリバリーサービスを通じて、配達していきます。店舗では一般の飲食店と同様に、注文を受けた後に調理を行い、出来たての商品を配達員に渡して売上を立てます。

すなわち、店舗販売と、デリバリーの二つのチャネルで生産性を高めているのです。

ローソン事業開発部部長の吉田泰治氏は次のように説明しています。

デリバリーサービスにおけるメインの需要は、一般的には“お食事のメニュー”です。ローソンはそのお食事メニューを、デリバリーサービスにおいて取りきれていない可能性があります。軽食やおつまみのニーズをローソンの商品で満たすと同時に、(本格的な)お食事メニューを、ローソンの店内厨房を活用して提供しようと考えました

一般的に、デリバリーサービスを使って配達してもらえるエリアは、半径3キロから4キロ圏内といわれています。その中に、お気に入りのレストランがなかったり、バリエーションが少なかったりすれば、お客はサービスを受けることができません。

ところが、ローソンがゴーストレストランに参入すれば、いろいろな業態のメニューを1店舗でカバーすることができます。お客にとっては、オーダーできるメニューの選択肢が格段に増えるため、食事の幅を広げることができるメリットがあります。

これはどういうことかというと、ゴーストレストランは、お客からの見え方として、屋号が一つである必要はありません。カレー主力の店にもなり、韓国料理の店にもなります。1店舗に複数の店の入り口を作ることができ、集客導線をネット上で増やしていけるメリットがあります

アプリ上の店舗名表記も「ローソン」ではなく、「NY飯 ! チキンオーバーライス 飯田橋三丁目店」としています。アプリ上で、お客が好みの商品を選びやすいように、商品に合わせたブランド(屋号)にしているのです。

ただし、屋号は異なっても、専用のチキンオーバーライスと共に、ローソンで販売するアルコールや飲料、菓子、雑貨も含めて同時に配達できるようにしています。
ゴーストレストランの1ブランド単体の売上目標は、日販3万円から10万円。複数ブランドを展開することで、キッチン全体の売上は上がり、生産効率も増していきます

ブランドの拡大目標は23年に20ブランド、1ブランドあたり5から6のメニューを想定しており、20ブランドにして100から120のメニューをそろえていきます。人気のメニューを取り入れながら、中国料理店でもハンバーガー専門店でも、それぞれの組み合わせによりブランドを持つことで、エリアや個店ごとのニーズに合わせてメニューを組み立てられます。ローソンでは、飲食店の少ない地域においては町のレストラン代わりにもなると考えているようです。

ローソンの勝算を整理すると、第一に現在3,000店舗でデリバリーサービスを積極活用していること。第二に製造(調理)拠点となる店内厨房を持っていること。 第三にローソン全体の店舗数、エリアカバー率が競合する外食チェーンと比較して圧倒的に多いことです。

最も店舗数の多いマクドナルドにしても約2,900店舗、和風ファストフードの「すき家」でも約1,900店舗に過ぎません。将来を見据えるとローソンのゴーストレストランの可能性は広がってきます。

ローソンが開発している「ゴーストレストラン」のトップ画面。
専門性の強いメニューに特化して、購入動機を高める

セブンは専用工場に特化して冷食のおいしさを追求する

一方、コンビニの店舗数1位のセブン-イレブン、2位のファミリーマートは、他のコンビニと同様に、カウンターフーズを店内で調理するものの、本格的な店内調理には関心を示しません。特にセブン-イレブンが他チェーンとの差別化としているのが、おにぎりや弁当、惣菜など、主にデイリー商品を製造する、セブン-イレブンの「専用工場」の存在です。全国に176の専用工場を持ち、専用化率は100%に近い数字になっています(専用化しないのは、漬物など地域色の強い商品など)。
専用化するからこそ、おいしさを追求した商品を、全国に同時に展開できるという論理です。その専用化と品質の追求を、セブン-イレブンは冷凍食品の分野に拡大しています。

セブン-イレブン・ジャパン商品本部のシニアマーチャンダイザー、園田康清氏は「ドラッグストアや食品スーパーが大きな冷凍食品売場を展開している現状で、どのような差別化を図っていくのか、冷凍食品に新たな付加価値が求められています。冷凍食品“なのに”おいしい、ではなくて、冷凍食品“だから”おいしい、そこまでの品質にレベルを引き上げていきます」と述べます。

2022年4月末時点で全国に冷凍食品の7つの専用工場が稼働しています。フジフーズの秋田、茨城、千葉の3工場、プレミアムキッチン(ニッポンハムグループ)の三重工場、デリカウイングの北広島工場、そして、佐勇(サユウ)の山形第1工場、第2工場です。

フジフーズ、デリカウイングは、もともとセブン-イレブンの調理パンや惣菜など、デイリー商品を製造するベンダーです。佐勇は欧州食材の輸入卸で2013年、池袋に冷凍ピザの工場を新設して以降、セブン-イレブンとの取引が増えて、2019年にはセブン-イレブン専用の冷凍食品マルゲリータの1アイテムで山形に1工場を開設。2022年4月には、もう1アイテムを製造するために、同じ山形に第2工場を新設しました。

その第2工場から全国に向けて、本年4月に出荷したのが、「セブンプレミアムゴールド 金の4種チーズピッツァ」498円(税抜き、以下同)です。

コンビニとしての売場効率はどうなのか、限られた売場において、現状80~90アイテムを拡大していくには限界があります。店全体の中で冷凍食品の品揃えを、しっかりと考えて、他のカテゴリーとの相乗効果、冷凍食品ならではの価値を追求していく必要があります」(園田氏)

出来たてが必要な地域性、および提供チャネルの拡大、冷凍食品の品質追求、コンビニが提供する「おいしい商品」の在り方に、大きな変化が表れているのです。

冷凍食品の「セブンプレミアムゴールド 金の4種チーズピッツァ」498円。
この1品を製造するために、取引先は専用工場を用意した
本年3月発売の「セブンプレミアムゴールド 金の蟹トマトクリーム」398円。
税込みで400円を超える強気の価格帯であるが、蟹の風味が強く、
お値打ち感のある商品に仕上げている

※商品の金額は2022年6月現在のものです。

(文:「月刊コンビニ」」副編集長 梅澤聡)

品質の安定化と立地特性を生かした戦略で店内調理の事業を確立したセイコーマート、複数ブランドを1店舗で展開するゴーストレストランで新たな販売チャネルを開拓しているローソン、専用工場との強力な連携で冷凍食品の品質向上を追求するセブン-イレブン。同じコンビニでも各社異なる戦略で新たな価値を創出しているところが印象的なレポートでした。
コロナ禍をきっかけに昼食や外食のニーズも多様化しているからこそ、「おいしい商品」の選択肢が増えることは、消費者にとっても嬉しい変化の兆しだと捉えることができるのかもしれません。

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