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アパレル業界で急速に進むリユース文化

近年、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の活動が世界規模で活発になる中、リセール(再販)市場が大きな盛り上がりを見せています。特にアパレル業界では古着や消費者同士の再販などを通してリユース(再利用)する文化が定着しています。今回は海外のアパレル業界におけるリユースの潮流や、それに伴うスタートアップの動きを調べてみました。

2030年に向けて急成長が期待される、アパレルのリユース市場

米国Mercari,Inc.が2021年に発表したレポートによると、全米のリセール市場の2020年消費額は1,396億ドルに到達し、5年間(2015〜2020年)で53.3%もの成長を遂げました。本レポートでは2030年までに市場規模が3,539億ドルに達すると予測し、これは2020年対比で153.5%の成長になります。

さらに、電化製品や本、おもちゃなどのカテゴリーと比較して、特にアパレルのカテゴリーにおけるリセールが2020年から2030年にかけて急成長することも示しています。

この潮流の背景には、消費者意識の変化が大きく関係していることは間違いないでしょう。アパレルのEC再販プラットフォームを展開するThredUpとグローバル市場調査会社のGlobalDataが3,500人のアメリカ人を対象に調査した「2021 RESALE REPORT」では、全体の42%(ミレニアル世代とZ世代は53%)が今後5年間で中古品にもっと多くのお金をかけると答えています。

そして、倹約家の人たちの間では、すでにほぼ5分の2の割合でファストファッションの購入を古着に置き換えており、またミレニアル世代とZ世代に関しては45%が持続可能でないブランドや小売業者からの購入を拒否すると述べています。

こうした傾向は日本国内でも同様に起きているようです。環境省が2020年に発表した「ファッションと環境」調査結果によると、アンケート対象者の約6割がサステナブルファッションに関心を持っている、または具体的な取り組みを行なっており、政府としてもファッションと環境へのアクションの一つとして、リユースを積極的に推進しています。

なお、先述したThredUpのレポートでは、3人に1人がパンデミック以前よりも持続可能なアパレルを着ることに関心があり、全体の51%がよりエコ廃棄物に反対し、60%がよりお金の浪費に反対するようになったと、パンデミックがもたらした変化についても触れています。

今後、ますますアパレル業界でリユースのニーズが高まることが予想される中、ブランドや小売業者側ではどのような施策を行なっているのでしょうか?

アパレルブランドの動き:Patagoniaは素材の87%をリサイクル原料に

そもそも、アパレル業界ではすでにリユース文化が根付いており、全く新しいトレンドというわけではありません。古くからリサイクルショップや古着屋などで中古品の売買が行われており、アパレルブランド側からリユースを積極的に推進したり、残布や残糸を再利用したファッションアイテムを展開する企業もありました。

例えばファストファッションのH&Mは、衣料品素材のうち毎年リサイクルされているのは1%にも満たず、何千トンもの繊維製品が埋め立てられているという問題を解決すべく、ファッションのリユース・リサイクルを推進。2013年からは世界中の店舗で衣類回収プログラムを実施しています。

このプログラムでは、H&Mで購入したアイテム以外のものでも、どんなコンディションのものでも回収対象としています。ユーザーは衣類を渡したお礼のクーポン券を受け取ることができ、回収した衣類はリウェア、リユース、リサイクルの3パターンに分類されます。2019年には29,005トンもの衣類や布地を回収し、これは1億4,500万枚のTシャツに相当する量だそうです。

衣類の回収はZARAやユニクロ、GUなどでも展開されているので、今では割と認知度の高い活動だと言えるかもしれません。

Patagoniaは自社製品を回収した上で、まだ使えるものは古着などに再利用し、使えないものはリサイクル素材として製品に活用しています。特筆すべきは、その高いリサイクル率。2022年の公式サイトでは「今シーズンの原材料のうち、リサイクル原料を使用したものの割合」は87%に及ぶと書かれています。

また、Patagoniaは「長く使う」という視点にも注力し、製品の手入れ方法や修理方法を共有するプラットフォーム「Worn Wear」を展開。「衣類の寿命をわずか9カ月延ばすことにより、炭素排出、水の使用のフットプリントを20〜30%も削除できます」と、消費者に衣類を長く使い続けてもらうというアプローチで環境負荷の低減に挑んでいます。

デニムブランドLevi’sも、2020年から「Levi's SecondHand」というジーンズやジャケットの中古販売を行うオンラインストアをオープン。消費者はLevi’sのジーンズやジャケットを店舗に持ち込むと、次回の購入時に使えるギフトカードがもらえます。持ち込まれたアイテムはクリーニングや仕分けを行ったのち、オンラインストアにて割引価格で販売されるなど、ゴミとならないようにリサイクルされます。

近年は国内外で、個人間での中古品売買プラットフォームやオークションサービスなど、インターネットやテクノロジーを掛け合わせたサービスがリユースの促進に貢献していますが、Levi’sのようにブランド側でもオンラインやテクノロジーを活用したサービスが増えてきているようです。

アパレルのリユース・リセールを支えるスタートアップの躍進

こうしたアパレルブランドの取り組みをサポートしているのが、実はスタートアップ企業であるケースも少なくありません。

先述したPatagoniaのWorn WearやLevi’sの中古販売事業を支援しているのが、2012年にアメリカで創業したTroveです。同社はファッションアイテムのリペアやクリーニング、プライシングや商品撮影、オンラインストアでの販売、配送、カスタマーサポート、そしてデータ分析といったリユース・リセールに必要なあらゆる工程をトータルでサポートし、循環型ショッピングの促進を通じて持続可能な社会への貢献を目指しています。

PatagoniaやLevi’sのほか、lululemonやARC’TERYXといったグローバルブランドともパートナーシップを結び、リユースのテクノロジープラットフォームを提供。2021年にはシリーズDで7,750万ドルの資金調達を実施し、2021年8月時点での総資金調達額1億2,250万ドルに上ります。

同様に中古販売プラットフォームを提供するスタートアップが、2017年創業のReflauntです。同社はハイブランドに焦点を当て、ブランドが持つ既存のECサイトに再販システムを導入するサービスを提供。ユーザーはブランドのECサイトで購入した商品を同ECサイト上で再販することができ、認証された商品は中古市場のグローバルネットワークに出品されます。商品が売れるとユーザーは現金またはEC専用のストアクレジットで報酬を受け取れるため、ブランドの再購入にもつながります。配送なども同社のパートナーが請け負うためブランド側は再販業務の負担を負うことなく、顧客データに基づくインサイトを収集することもできます。

なお、出品される商品にはブロックチェーンに裏打ちされたデジタルIDを使用することで、信頼性を担保しています。同社は2021年にシリーズAで270万ドルの資金調達を実施。さらなるビジネス拡大を目指しているようです。

もう一つ紹介したいのが、2014年にイギリスで創業したStuffstrです。同社は衣服の再循環を通して廃棄物の削減を目指す企業。衣料品ブランドと協力して、多くの商品データをプラットフォームに取り込むことにより、Stuffstrの利用者はいらなくなった衣服を検索して、すぐに買取価格などを調べることができます。売りたい時の手続きもWeb上で簡単に完了し、希望する日時に自宅まで回収に来てもらえるので、手間なく「衣服を捨てない」という選択肢を選ぶことができるのです。

Stuffstrは回収したアイテムを選別し、品質に応じて中古販売やリサイクルを行っています。また、ブランド側もユーザーデータのフィードバックを受けることで製品開発などに生かすことができます。

近年は商品のトレーサビリティに関心を持つ消費者も増えつつありますが、トレーサビリティをアパレルに特化した形で展開しているのが、ニューヨークで2015年に設立されたEONです。小売業界のリーダーや専門家たちと協力しながら同社が開発を主導した「Circular Product DataProtocol」は、サーキュラーエコノミーにおけるアパレル製品のグローバルな共通言語。製品の識別(ブランド名、元の価格など)と、材料の識別(使用素材の内容など)をリスト化しており、「Circular Product Data Protocol」を使用するブランドは、これらの重要な情報を再販業者やリサイクル業者と共有することで、製品の透明性と持続可能性を担保することができます。再販時に最適なプライシングを行うための重要な情報となるだけでなく、適切な管理方法や修理、リサイクル方法の手掛かりにもなるため、リユースの促進に大きく貢献しそうです。

気になるリユースの顧客体験は、意外とポジティブ?

このように、市場全体としては活性化しているアパレル業界のリユースですが、再利用やリサイクル製品を使用するユーザー側の体験、すなわち顧客体験も注目すべきポイント。そこで、顧客体験に関する興味深い研究データを紹介したいと思います。

フィンランドのタンペレ大学のArne De Keyser氏、Katrien Verleye氏、SimonHazée氏が2022年に公開した論文では、サーキュラーエコノミーにおける衣服の顧客体験をリサーチすべく、20〜43歳の男女16人にインタビューを行っています。

インタビューでは、5つの顧客体験(感覚体験・感情的な体験・行動体験・認知体験・社会的体験)に基づいて、リユースやリサイクルされた衣料品を購入する際にどのような体験をもたらすのかを調査。このうちの一部を紹介すると、「感覚体験」ではリユース・リサイクルされた衣服の五感(視覚、嗅覚、触覚、聴覚、味覚)に関する感覚的な体験をヒアリングしています。

すると、嗅覚に関しては、ほとんどが匂いについて言及したものの、特に否定的なことは何もないということで満場一致したそうです。とある回答者に至っては、新製品にありがちな化学臭がないことを評価しています。また、触り心地に関しても柔らかくて着心地が良いと、好意的に捉える人が多かったと言います。

視覚に関しては、色・スタイル・美学という3つの特徴が重視され、特にリユース・リサイクル製品に関しては色が保持されていることを重要な要素として挙げています。

また、「感情的な体験」に関しても、新たに天然資源を使用する必要がないことへのポジティブな感情環境負荷への罪悪感や社会的な圧力を克服した気持ちブランド自体への愛着を引き起こすことが分かりました。

なお、本レポートの終わりでは、まだサンプル数が少なく顧客体験全体を網羅した内容とは限らないこと、リユースやリサイクルのビジネスモデルだけでなく、衣服の共有やレンタルなど他のモデルでも検証が必要なことについても言及しており、フィンランドだけでなく他の国にも調査を広げることで、文化の違いなどを見出し、世界中の多様な顧客の間でサーキュラーエコノミーを取り入れる方法をより深く理解できると述べています。あくまでもこの調査に限った話ではありますが、リユース・リサイクル製品の嗅覚や触覚、視覚に関する意見など、新しい発見も多々あるので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。


東芝テックCVCも、リユースを含めたアパレル業界の新たな価値創造を目指して、一緒に取り組んでいただける仲間を探しています。興味のある方はぜひお気軽にお声がけください。