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楽天とのタッグで急成長を遂げる西友の「OMO戦略」とは

コロナ禍でニーズが急拡大した“ネットスーパー”。西友では20年以上に渡りそのサービス事業に取り組んでいます。
今回は、2018年に開始した楽天西友ネットスーパーに注目し、ECに強みを持つ楽天と、食品スーパーという実店舗を持つ西友がお互いの強みを生かして、お客様により便利な買物を提供するためどのようなOMO戦略を推進していこうとしているのか?「食品商業」副編集長の三浦慶太さんにレポート頂きました。

(写真:西友深沢目黒通り店)

西友と楽天が共同で事業展開する「楽天西友ネットスーパー」が絶好調です。西友は、ネットスーパーと実店舗の両方をテコ入れすることで「日本を代表するOMOリテーラー」を目指しています。西友が推進する「OMO戦略」とはどういったものなのか? ネットスーパーの取り組みを中心に見ていきたいと思います。

西友の歴史と現在の姿

最初に、西友のこれまでの歩みを振り返ってみましょう。
西友は1963年に創業し、かつては西武百貨店とともに旧セゾングループの中核企業でした。1978年にはフランチャイズ・システムによるコンビニエンスストアの「ファミリーマート」事業を開始、1980年にはプライベートブランド(PB)「無印良品」を開発しました。ネットスーパーにも早くから取り組み、2000年に事業を開始しています。
セゾングループの解体後、2002年にウォルマートと包括的業務提携を締結し、2008年には上場廃止、完全子会社になりました。

2012年にPB「みなさまのお墨付き」をスタート。2018年には楽天グループと合弁会社を設立して「楽天西友ネットスーパー」を開始。2010年代はPB開発とネットスーパー事業の強化を図ってきました。
そして、2021年にはウォルマートが保有していた株式を米国の投資ファンドKKRが65%、楽天子会社の楽天DXソリューションが20%それぞれ取得し、新株主になりました(ウォルマートは引き続き15%を保有)。

こうして経営体制が大きく変わった2021年3月1日、大久保恒夫氏が西友の最高経営責任者(CEO)に就任しました。なお、2022年1月に合同会社西友から株式会社西友へ改組し、現在は代表取締役社長です。
 大久保氏は大学卒業後イトーヨーカ堂に入社し、業務改革の事務局を8年間担当。その後独立し、小売流通業のコンサルティングと情報システム構築を行う株式会社リテイルサイエンスを設立。ユニクロ、無印良品の経営改革に携わり、劇的な業績回復を果たしました。社長を務めたドラッグイレブンでは営業利益を15億円の赤字から15億円の黒字に転換。成城石井でも就任時8億円だった営業利益を30億円に伸ばしました。

こうした経営コンサルタント、経営者としての実績に加え、リテイルサイエンスのファウンダーとして、現在も「AI流通革命3.0研究会」(デジタルマーケティング研究会含む)、分科会としての「ネットスーパー実行研究会」を主宰しています。

大久保恒夫氏が目指す「OMOリテーラー」

ここまで西友の沿革を追ってきましたが、近年の流れを整理すると、

  1. 他社に先駆けて20年以上に渡りネットスーパー事業を継続(2000年)

  2. EC流通総額国内トップの楽天グループと「楽天西友ネットスーパー」を開始(2018年)

  3. 流通企業のコンサルティングや経営において屈指の実績を誇り、同時にデジタルマーケティングやネットスーパーに優れた知見を持つ大久保氏を経営者に起用(2021年)

という3つのポイントを挙げることができます。こうした土台に立って、現在の西友が目指しているのが「日本を代表するOMOリテーラー」です。

大久保氏は2021年3月の西友CEO就任時に、次のようにコメントしています。

西友の歴史の中で今回のような重要な節目に経営に参画できることを光栄に思います。KKR、楽天、ウォルマートと協業し、西友のビジネスを次の段階に押し上げることができるよう尽力します。ネットショッピングを充実させながらお客様の購買ニーズの変化に迅速に対応すると同時に、全国の実店舗の運営もさらに強化することで、西友を新たな成長軌道に乗せることができると確信しています。これまでCEOを務めてきたリオネル・デスクリーのたゆまぬリーダーシップに感謝します。今後は才能あふれるアソシエイトとともに、日本を代表するOMOリテーラーになるよう邁進してまいります。

(2022年3月1日プレスリリースより引用)

ここで、「ネットショッピングを充実させながら」「全国の実店舗の運営もさらに強化する」と明言しています。どちらも既存事業のさらなる発展を目指すもので、当たり前といえば当たり前の発言ですが、それが「日本を代表するOMOリテーラーになる」というビジョンにつながっていることに注目したいと思います。

ただし、「OMOリテーラー」と聞いてピンとくる方はそれほど多くないかもしれません。そもそも「OMO」とは何なのでしょうか。西友のホームページでは次のように注釈を付けています。

OMO(Online Merges with Offline):オンラインとオフライン(実店舗)の垣根をなくすことで、顧客がより効率の良い購買体験ができるようにするためのマーケティング施策のこと。

オンラインはネットスーパーで、オフラインは実店舗。その垣根をなくして、お客様により便利な買物体験を提供することがOMOだといえます。

西友は北海道から九州まで全国に330店舗(2022年6月23日時点)を展開するナショナルチェーン。楽天は売上収益1兆円を超える国内ナンバーワンのEC企業。お互いのリソースや強みを活かしてより便利な買物体験を提供することが、西友のOMO戦略です。

ネットスーパーの数値目標を一年前倒しで達成見込み

西友は2021年6月に中期経営計画を発表し、次の2つの目標を掲げました。

  1. 食品スーパーとして業界ナンバーワンになる

  2. ネットスーパーで業界ナンバーワンになる

一見壮大な目標に感じますが、実はすでに手の届く範囲のものであることが分かります。西友の2021年度の売上は7,373億円で、食品スーパー最大手のライフコーポレーションの営業収益7,673億円に匹敵しています。また、正確な数字は分かりませんが、ネットスーパーの流通金額では業界で最高水準であることは間違いないと推測されます。
具体的な数値目標としては、2025年に下記の達成を目指しています。

  1. 流通総額(西友の店頭売上と楽天西友ネットスーパーの売上合計)を現状からプラス1000 億円

  2. 営業利益を現状比2倍

  3. ネットスーパーの流通総額の構成比二桁到達

これらのうち、(3)については一年前倒しで2024年に達成できる見込みだそうです。「流通総額の構成比二桁」ということは、2021年の売上で推計すると、売上7,373億円の10%、つまり700億円強をネットスーパーで稼ぐということです。2022年6月に公表されたネットスーパーに関する2021年の数値では、流通総額は前年比26%の伸長。「店舗出荷型」と「倉庫出荷型」の成長率の内訳では、「倉庫出荷型」の流通総額が前年比79%という大幅な伸びを示しています(「店舗出荷型」の数値は非公表)。こうした急激な成長スピードによって、一年前倒しで目標を達成できるとのことです。

「店舗出荷」と「倉庫出荷」のハイブリッド型が大きな強み

ここでネットスーパーの基本知識として、「店舗出荷型」と「倉庫出荷型」について説明します。

西友にかぎらず、日本の食品スーパーが展開しているネットスーパーには、主に「店舗出荷型」と「倉庫出荷型(センター出荷型)」があります。
先述の通り、西友は2000年にネットスーパー事業を開始し、2018年に楽天と合弁会社を作って「楽天西友ネットスーパー」を開始しました。楽天との共同事業を始めるまでは、西友のネットスーパーは「店舗出荷型」でした。楽天と組んで「倉庫出荷型」を開始し、その後は「店舗出荷型」と「倉庫出荷型」のハイブリッド型で展開しています。

「店舗出荷型」は現在124店舗で稼働していて(2022年6月時点)、多くの店舗で黒字化を達成しているそうです。「店舗出荷型」は都市型立地の店舗で実施し、首都圏のエリアはすべて「店舗出荷型」でカバーしています。

「倉庫出荷型」は「店舗出荷型」でカバーできないエリアへの配達に対応しています。2018年に千葉県・柏に最初のセンターを設けて、2021年に神奈川県・港北、今年になって大阪府・茨城、来年は千葉県・松戸で新たなセンターが稼働予定です。
「倉庫出荷型」の仕組みは「ハブ&スポーク」と言います。センターから「幹線便」と呼ばれる大型のトラックで各地域の「デポ」に配達し、「デポ」から小型トラックでお客様の住所へ配達しています。

お客様がネットスーパーで注文をすると、郵便番号をもとに店舗出荷かセンター出荷かを判断して、出荷作業が割り振られる仕組みになっているそうです。
ネットスーパーを黒字化する上で必須なのが物流の効率化で、なるべく“小商圏・高密度”の配送網を構築する必要があります。人口が密集している都市部では、「店舗出荷型」でそれが可能です。しかし、人口密度の低い郊外では「店舗出荷型」だと配送効率が落ちるので、「倉庫出荷型」によってカバーしているのです。

西友の都市型立地の店舗網を活かした「店舗出荷型」と、楽天の物流機能を活かした「倉庫出荷型」というハイブリッド型の仕組みは、楽天西友ネットスーパーの大きな強みといえるでしょう。

楽天ポイントの導入で“楽天経済圏”から集客する

優れた配送の仕組みを備えていても、たくさんのお客様に利用してもらえなければ、ネットスーパーは成功しません。実店舗と同じくネットスーパーにとっても集客が肝心です。

西友にとって集客面で大きな強みとなるのが、“楽天経済圏”の存在です。西友は2022年4月26日から全店舗で「楽天ポイントカード」を導入しました。同時に「楽天ポイントカード」や「楽天ペイ(アプリ決済)」の決済機能を搭載し、店舗のキャンペーンやお得情報も提供する「楽天西友アプリ」をリリースしました。

楽天IDの発行総数は1億を超えていて、楽天ポイントの累計発行数は2022年7月時点で3兆ポイントを突破しています。楽天ポイントをフックにして、西友の店舗やネットスーパーに集客できれば大きなインパクトがあると思われます。楽天ポイントの導入以降、西友はポイント還元のキャンペーンを大々的に展開しています。

加えて、楽天ポイントだけでなく、楽天ペイ、楽天クレジットカード、楽天Edyなど、楽天の決済サービスを利用すれば、すべての購買履歴は楽天IDで紐付けられます。楽天と連携して、こうしたビッグデータを活用したデジタルマーケティングを推進していくことが、西友のOMO戦略の今後の発展のビジョンです。

(出所:筆者のスマートフォンのスクリーンショット)
楽天西友アプリ。楽天ポイントを実店舗でもネットスーパーでも利用できる、
西友のOMO戦略の中核となるツール


(出所:楽天ペイメントのホームページ)
西友は2022年4月26日に楽天ポイントカードを導入。これにより楽天グループが提供するすべての決済サービスが全国の西友店舗で利用可能になりました

ネットスーパーと実店舗、両方の強みを強化する

最後に、楽天西友ネットスーパーが他社と比べて優れていると思われる点を一つご紹介しておきます。それはネットスーパーの商品画面の情報量の多さです。
コロナ禍によって消費者の健康への関心はますます高まっているといわれています。食品の原材料について関心の高い消費者も多く、食品スーパーの売場で商品を手に取って、裏面に記載されている原材料表示を確認しているお客様もいます。
楽天西友ネットスーパーの各商品の画面では、商品説明に加えて、大半の商品に原材料が表示され、さらには栄養成分アレルギー物質取扱い方法などが記載されています(すべての商品ではありません)。別画面を開く必要はなく、同一画面上でスクロールするだけでストレスなく読むことができます。

(出所:筆者のスマートフォンのスクリーンショット)
楽天西友アプリの商品画面。原材料、栄養成分、アレルギー物質などが詳しく記載され、
画面をスクロールして確認できます

他社のネットスーパーで確認したところ、こうした表示対応を行なっている企業はほとんどありませんでした。他にも画面の見やすさだったり、商品の注文数の変更の仕方だったり、楽天西友ネットスーパーが優れている点がいくつか見て取れました。こうした細部の積み重ねがサービス全体の使いやすさにつながり、結果として大きな差別化につながっていきます。ここでも楽天のECのノウハウが生かされていると感じます。

ネットスーパーの強化と連動して、西友は実店舗の販売力、および、PB「みなさまのお墨付き」「きほんのき」などの商品開発力の強化も進めています。実店舗に行って売場を見てみると、各部門でさまざまな販促企画売り込みを仕掛けていて、かつてのウォルマート時代の画一的な売場とは様変わりしています。ネットスーパーを利用すると、商品検索後の画面では「みなさまのお墨付き」の商品が一番上に表示され、自然に買われやすい仕組みになっています。

実店舗とネットスーパーは車の両輪です。リアルとネット、両面の強みを掛け合わせて業界ナンバーワンを目指す西友のOMO戦略から、今後も目が離せません。


西友と楽天は商品供給でも連携しています。
有機JAS認証を取得している楽天ファームの国産オーガニック冷凍野菜シリーズ
(写真:西友深沢目黒通り店)
長野エリアを皮切りに、ご当地メニューや地元産品の販売にも注力。
実店舗の魅力向上もOMO戦略にとって重要なポイントです
(写真:西友深沢目黒通り店)
「健康サポート」を大きく打ち出した売場。
健康ニーズへの対応は、西友の実店舗でもネットスーパーでも工夫が見られます
(写真:西友深沢目黒通り店)

(文:「食品商業」副編集長 三浦慶太)

西友の歴史の振り返りから「OMOリテーラー」を目指す現在の姿、その背景にある戦略や強みを詳細に渡ってレポートしていただきました。米国小売最大手のウォルマートと連携しつつ、国内で大きな影響力を持つ“楽天経済圏”に参入することで、日本ならではのOMO戦略を展開しているところが印象的です。また、ネットスーパーの使いやすさや利便性を追求したUI/UXにも、EC流通総額国内トップの楽天グループの知見やノウハウが活かされているのかもしれませんね。西友はもちろん、競合他社の動きも含めて日本のOMO戦略がどのように進化していくのか、引き続き注目していきたいと思います。


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