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文章を書いて生きていくなんて夢物語をさ


「これお願いします」
「確認、報告待ってます」
「◯◯は何日までにお願いしますね」

 きっとそんな内容が朝からSlackとLINEに届いている。開くのは出勤してからにしようと思い、電車内でつらつらと文章を書いている。

 文章を、エッセイを書いていたいのに、朝から仕事のことで頭がいっぱいだ。
 それでも私は書いて生きたいから。誰かに決めてもらったわけでもなく、何か報酬があるわけでもないのに、ここnoteの更新を続けている。

 世には働きながら資格を取ったりしている人もいるようだが、どんな強靭な身体と心を持っているのだろう。
 仕事が終わって家に帰ったら、ごはんを食べて風呂に入り、あとは眠るくらいしかできっこないじゃないか。


 手が重い、体全体も重い。

 それでも昔に比べたらどれほど"良い環境"だろうと思う。


 現在私の年齢はゆうに30を越えた。

 成人を過ぎた頃から、私はずっと文章を書いてきた。誰もほとんど見ていないのに、ひたすらブログを更新してきた。誰でもない、けれど必ず私がここにいるという証明をするかのように拙い日記、エッセイを書き続けていた。

 どうして広く読まれずとも続けられたかと聞かれれば、それは文章を書くことが好きだったからだ。

 頭の中で考えていたことを、ぐっぐっと脳を圧縮して滲ませていく。想いを濾過していくような感じだ。とろとろと溶け出した透明で煌めいた水は、そのまま私の文章になった。それが気持ちよかった。生きていると感じられる時間だった。

 これが仕事になったら、どれほど幸福だろうと思った。ごはんを食べながら書いた。風呂に入りながら考え、頭の中で書いた。書いて書いて書いて、そうして眠った。そういえばそうだったのだ。

 ただ気づけば、私は文章を書くのをやめていた。怖くなったのだ。永遠にこの暗闇が続いてしまいそうで。

 今こうして書いていてやっと気づいた。書いて書いて書き続けて、希望に満ちているかと思っていたのに。

 暗くて淋しくて、狭くて寒くて。だからやめてしまった。

 noteを書いていても、そんな感覚がまた蘇ってきた。書くとき人は孤独だ。ただそれを完成させ、世に発信したとき、わずかに救われるのだ。

 だが前回更新したnoteが、いままで自分が書いてきた中で比較するとスキがあまり伸びなかった。
 承認欲求というか、そもそも「読まれたい!」と強く思いすぎるあまり、それだけのことで私は落胆した。昔はそんなこと気にせず書き続けていたのに。

 ただその分、伸びなかったnoteが愛おしく見えた。もっと読まれるような書き方をすればよかった。。ごめんねと私は声に出して呟いてしまった。丹精込めて書いた文章ほど読まれなかったりするのは、何かちゃんと理由があるのだろう。

 投稿した後ずっと、私はぼんやりとその伸びなかったnoteを眺めていた。眺めていても何も変わらないのに。

 そんなとき、ひとつ、またひとつと通知が光った。そのnoteにコメントがつき始めたのだ。

 あたたかいコメントだった。あまり私のnoteにすぐコメントがつくことはなかったから、胸にくっと湧き上がってくるものがあった。私は普通に、ごく普通に涙を流してしまった。



 全然、いけるじゃないか。

 何をそんなに暗い顔をしている。

 私は私の人生を、想いを文章にのせる。まずそれが幸せだったのだ。

 どんなに笑われようと、これが私の幸福だった。発信して、"届く"というのは心の内からの喜びだった。


 ・・・


 私がこうして文章をもう一度書き始めたきっかけは、私の恋人だった。



「私が必ず読むから安心して」

 その言葉を聴いて、私の心がどれほど救われただろう。勇気づけられただろう。誰にも全く読まれないというのは至極怖い。モチベーションが上がらないとかではなく、怖いのだ。

 noteはあらゆる工夫もしてくれている。ハッシュタグや、企画までも。私はそんな環境にも少し安心してこの世界に飛び込んだ。誰かが今日も必ず読んでくれると信じて——


 まずはスキの数よりも「継続」だ。

 そして私が創作を楽しむことだ。


 ・・・


 恋人に伝えた。

 きっと何度も伝える。

 私、これからも書くね、と。

 恋人はもう一度奮起した私にLINEでメッセージを、言葉をくれた。

 また私は落ち込んだり、悩んだりするだろうけれど、それでも何度も前を向き直したい。

 こんなに支えてくれる恋人がいて、noteがあって、あたたかいコメントを送ってくれる人がいて、頑張れないなんて嘘じゃないか。

 明日も会社で仕事をして、そしてnoteを書こう。文章を書いて生きていくなんて夢物語をさ、夢で終わらせないために。



恋人より



詩旅つむぎ


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