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Withコロナのブラジル・サンパウロから(5/9)

ブラジルのCOVID-19感染者数は15万5千人、死亡者はとうとう1万人を超えてしまった。

いずれも州別では、サンパウロ州が感染者数4万4千人、死亡者3,600人と最も多くなっている。また人口10万人あたりで見ると、いずれも赤道直下のアマパー州とアマゾナス州がそれぞれ感染者数が294人・287人で、死亡者数は医療崩壊を起しているマナウス市を抱えたアマゾナス州が10万人あたり23人と、それに続くセアラー州のほぼ倍の割合となっており、深刻さが際立っている。

赤道に近い州での感染拡大が深刻化している点については、5/6の記事で「深刻な感染拡大が続くアマゾナス州とマナウス市」として触れているので、そちらも参照いただきたい。

また、次の記事で触れられている公立・私立病院の格差についても、5/7の記事で「格差社会を襲う新型コロナウイルス」として触れているので参考までにどうぞ。

COVID-19が月間の死因の上位に

ブラジル国内でCOVID-19の初の死亡者が出たのは3月16日。感染拡大が明らかとなり、4月は多くの州で丸々1ヶ月間、外出自粛要請が出された月でもあった。新型コロナウイルスがブラジルに「居座わる」ことになったこの月の死亡原因で、COVID-19は5位となった。

この記事では触れられていないが、他の報道では肺炎を死因とした死亡件数が過去5年間の10倍近くまで増えているというものもあり、実際にはこれよりも多い可能性がある。

教育分野での社会格差が一層如実に

今回のコロナショックは、教育分野にもまた大きな影響を与えている。それも、激しい社会格差というブラジルが慢性的に抱える問題点を突いてきている。

サンパウロ市内の貧民街の子どもたちの場合、例えば経済的理由から親が子供に文具を与えられない、幼稚園や公立学校が遠隔教育を行なっているのを親が知らされていないために勉強させられていない、あるいはネット環境やデバイスがなく遠隔教育にアクセスできないといったケースがあることが、次の記事で紹介されている。

デバイスが用意できる、ある程度の階層の家庭でも、兄弟姉妹で学年が異なると同じ時間に遠隔授業が行われる場合に誰にデバイスを使わせるのかを親が考えなければならなかったり、他の家族と部屋を共有するので集中できないといった問題もある。学校に通えないために給食が食べられず、栄養が偏っているという懸念も指摘されている。

多くの場合は技術での解決を試みるが、その際に、公共教育の平等性を追求するあまり、ブラジルで特に根深い問題である不平等性が軽視されつつあるという、この記事の後半に出てくる幼児教育の専門家の指摘が実に鋭い。

つまり在宅学習用の教材を子どもたち全員に配ったところで、その家庭に学習に必要な文具が揃えられるのかという話になる。またネット上で授業をすることで平等性は確保できるが、それは接続する環境やデバイスを皆が持っているあるという前提に立っており、それを乗り越えるには不平等性を考慮した設計に配慮すべきではないか、というものだ。

ここまで来ると、在宅勤務の費用を誰が持つのかの話にも似ているのかもしれない。教育はユニバーサルに提供されても、それを受ける環境は誰が整備するのかは、Withコロナの時代には考えなければならない課題だ。

外出自粛の新たな訴求方法としての車両ナンバー規制

サンパウロ市は、外出自粛要請による接触率の7割減を目指しているが、自粛疲れからその割合が5割を割り込む日も出てきた中で、5月11日から新しい車両ナンバー規制を導入する。

奇数日には車両ナンバーの下1桁が奇数、偶数日には偶数ナンバーの車のみ市内の走行を認めるもので、市全域で24時間、平日週末関係なく実施される。普段は平日朝夕のラッシュ時間帯のみに採られている措置なので、より厳しい措置に踏み切ると言える。

当初は医療従事者のみは例外とすると発表されていたのみで、詳しい運用方法は後から発表するという、関係者がヤキモキするいつものパターンであった。

最終的には、ナンバー規制を適用しない業種のリストは、緊急車両やタクシー・バス、必要不可欠なサービスを提供する業種の会社の従業員が通勤するための車など、膨大なものとなった。例外措置が適用される場合は、予め市役所のサイトで登録を行なう必要があるということだが、これを会社が申請するのか従業員が申請するのかなどで、最初は混乱をきたしそうである。

ブラジルで最大の都市・サンパウロで導入されるこうした政策は、人口も多く、多様性に富み、そしてブラジル人の行動特性を考慮して導入されるものだけに、ブラジル国内の他の都市で導入する際の参考とされることが多い。

実際に、ブラジルで初めてロックダウンを実施しているマラニョン州サンルイス都市圏では、この車両ナンバーの奇数・偶数による規制を導入することを追加的に決めている。

さて、実際の運用がどうなるかは見ものである。

母の日、延期ならず

商業部門の1年の間での稼ぎ時と言えばクリスマスが最大のイベントとなるが、ブラジルでは続く商戦期は「母の日」だ。

今年は5月10日にあたる「母の日」商戦が、ちょうど外出自粛要請に基づくショッピングセンターの営業停止期間に被ってしまったことで、ショッピングセンターなどの業界団体からは。外出自粛要請を4月いっぱいで終えてほしいとの要望がサンパウロ州政府に出されていた。

それに対し、サンパウロ州知事はなんと「母の日」の延期を提案していた。

これには商業部門からは歓迎の声もあった。しかし、全土で一斉に、それもショッピングセンターだけでなく商業部門全体としての延期ができるのかが課題となっていた。やはり、皆が一斉に「母の日」を迎えてこその「母の日」なのだ。

COVID-19の感染拡大は州によって差があり、例えばブラジル南部では比較的感染者数の増加が緩やかだ。そして外出自粛措置の適用は、ブラジル全土で適用される政策を決める連邦政府ではなく、州政府や市自治体に権限が与えられている(だから大統領がいくら外出自粛措置の撤回を求めて声高に叫んでも、実際に撤回させられない)。

結局、商業施設の営業再開に早く踏み込んだ自治体が出てきたために、母の日を全国一律で延期することは不可能、との結論に至った模様だ。

外出自粛措置の最中にこの大事な商戦期を迎えざるを得なくなったサンパウロ州やリオデジャネイロ州のショッピングセンターでは、営業形態を変えて対応している。

どうぞよい母の日を!

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