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Withコロナのブラジル・サンパウロから(5/10)

ブラジルのCOVID-19感染者数は、5月10日時点で16万2千人超。また、死亡者は1万1千人を超えた。

例によって、EUの2倍の国土を誇るブラジル一国として見ようとすると捉えどころがなくなるため、サンパウロ州のデータを見てみる。

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サンパウロ州は、感染確認数が4万5千人。州の人口が4,500万人のため、千人に1人に感染が確認された計算になる。死亡者数は3,709人で、ブラジル全体の死亡者数の3割強がサンパウロ州で占められている。

なお、日本人も多く住むサンパウロ市の感染者数は2万7千人で、死者数は2,200人を超えている。サンパウロ市の人口は州人口の27%を占めるのに対し、感染者数・死亡者数ともに6割がこの市内に集中している。

外出自粛要請が緩和された場合の優先業種

3月24日から外出自粛措置が続くサンパウロ州では、「サンパウロ・プラン」と呼ばれる経済活動の段階的な正常化へ向けた計画の策定が進む。

その担当チームが、業界団体や企業へのヒアリングを通じて、経済的打撃を大きく被り、所得や雇用の確保の点で早急な再開が求められている業種をマッピングした。外出自粛措置を今後緩和する際に、クリティカル業種を優先的に考慮するということだ。

ここで「家事サービス」が最初に挙がってくるのが、見る人によっては意外かもしれない。所得格差が激しいブラジル、特にサンパウロのような都市部では、高所得層のほとんどが家政婦やベビーシッターを雇う。中間層でもサービス利用者は少なくない。

そうしたサービスの提供側は、社会保障が利く住み込みの人もいるものの、多くは日雇いで、COVID-19のパンデミックで人との接触率を下げる政策が措置された際に仕事を失った人が多い。ジム・美容、芸術創作・イベントで自由に活動できなくなったのは、ブラジルに限らず日本でも同じだろう。

他にも、一般商店、ホテル・宿泊施設、レストラン、空輸など15業種がクリティカル業種として挙げられている。これらの業種は、感染防止策との兼ね合いはあるにせよ、優先的に緩和検討が進められるということのようだ。

なおサンパウロ州政府によると、外出自粛要請の緩和は、新規感染確認数の減少、接触率の削減目標達成、地域の医療システムにおける集中治療用ベッドの占有率などにおける目標達成が前提となる。外出自粛要請は5月31日まで延長されており、今後3週間の推移こそがその鍵となりそうだ。

コロナショックに対処する中小企業・スタートアップ

ビジネスの分野を問わずに襲った今回のコロナショックに、大きな変化を強いられつつも踏ん張って対応している企業がこの記事で紹介されている。

変化に対応せざるを得なくなった経営者の苦悩は計り知れないが、その中から面白い付加価値が生まれるものだと思う。

ここで紹介されている人材紹介会社は、民間企業の求人が止まったと見るや、人手不足の医療機関向けの紹介に注力。Uber等の配車アプリの車内でお菓子や飲み物を販売していたサービスは、人の移動が激減し配車アプリ利用者が激減したと見るや、今度は場所を集合住宅の共用部に移し、そこに駄菓子コーナーを設置して生き残りを図っている。

学びも得るだけでなく、勇気づけられる話が並んでいる。

ど真ん中のペイン=COVID-19検査に参入したスタートアップも

ブラジルには、連邦・州・市の公共部門が運営するユニバーサルな医療部門と並行して、民間部医療部門が存在する。

前者が税金で運営されているのに対し、後者は経済的余裕のある人が加入する民間医療保険からの支払いで運営される。民間医療保険の加入者は4,700万人で、ざっくりと民間医療部門の利用者は国民の4人に1人に限られると言える。現実として享受できる医療に差があることは、5/7の記事「格差社会を襲う新型コロナウイルス」でも触れた。

COVID-19の検査は、トリアージにかけられ感染の疑いありと判断されれば誰でも受けることができる。また、連邦政府は感染状況の把握を目的とした数千万人規模の検査を行なうことを表明しているが、詳細は未定だ。

そのような大規模な検査となるると、検査キット自体の確保やその実施方法も検討・構築が必要で時間がかかる。その点では民間医療部門が先行しており、政府の検査実施を待たずとも、民間検査会社がサービスとして提供しているものを利用することができる。もちろん有償でだ。

検査数が足りないという、最も「旬な」ペインを解決するために、スタートアップも参入している。

この記事で紹介されているTestfyは、PCR検査・抗体検査の両方とも提供しており、キットのみを購入するか、もしくは看護士が自宅までサンプルの採取に来るサービスも提供している。

PCR検査の場合、専用のアプリをスマホにインストールし、個人情報の入力後に検査キット上のQRコードを読み取り本人情報とキットをリンクさせる。自らサンプルを採取した場合は指定場所にキットを返却。その数日後に、アプリを通じて結果が確認できるようになるという。その手順を紹介したビデオも用意されている。

ブラジルでの、こうした民間が率先しての物事の展開の速さは、いつものことながら感心してしまう。

COVID-19だけではない感染症拡大の懸念も

こうした状況下では、日々COVID-19への感染の不安でいっぱいになるが、それ以外の感染症の拡大もブラジル国内では懸念が広がっている。

すでに予防接種が用意されている感染症であっても、毎年の接種キャンペーンでは接種率が目標に届かず低くとどまっているというのに、COVID-19の感染懸念で、ワクチンを接種する公営の診療所に出向く人が減っている。新型インフルエンザに加えて、この記事にある麻疹もそうだ。

ブラジル国内では、大抵の感染症は公共医療(統一医療システム=SUS)の範疇でワクチンが提供されている。

特に今の30~50代は、このSUS下でのワクチン接種が義務化された世代なので幼児期に適切な予防接種を受けてきている。そのようにして免疫が高まった結果、いくつかの感染症は罹患する人が減り存在が薄れてしまい、そこまでは政策として成功だった。しかし、今度は接種の重要性に対する認識が低くなり、若年層ほど接種率が下がっているという問題が出てきている。

コロナショックを経験した今の世代は、COVID-19ワクチンが実現しようものなら必ずや打っておこうと思うことに、違いないのだが。

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