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20240610 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」 007 「ねぼけ人生」水木しげる 伝記文学の最高傑作

 妖怪漫画で有名な水木しげるセンセイの自伝です。
 ぼくは若い人に何かプレゼントするというような時、この本を選ぶことが多いです。人生の教科書と言っても過言ではありません。
 のびのび育った子供時代。
 規格外のマイペース少年だった学校時代。
 それゆえ、毎日ビンタをくらった軍隊時代。
 そして、ラバウルでの生死をさまよう激烈な体験。
 終戦後の混乱の中で出会った奇妙なヒトビト。
 売れない紙芝居、貸本漫画を描く、餓死寸前の日々。
 人気漫画家になってからの、奇妙なアシスタントたち(つげ義春先生もこの中に含まれます。)
 これら波乱万丈の人生が、実にとぼけた味わいのある文体でつづられています。キケロがカエサルの文体に脱帽したように、普通の作家も水木センセイのたくまざるユーモアには適いません。
 水木センセイの魅力は、悲惨な体験もどこか他人事のように眺めるメタ視点にあると思います。戦争をもどこかユーモラスなものにしてしまう。赤貧洗うがごとし苦労も何だか楽しそうに見えてしまう。
 結局、人は自分の好きなことをして生きるのが一番良い。
 人の目を気にせず、(水木先生の場合は気にできない 笑)自分らしく生きるのが一番いい。

 水木先生はマンガも含めて、色んな所でご自分の人生を語っておられます。
 漫画では「水木しげる伝」が一番まとまっているように思います。
 異色な所では、「ラバウル戦記」(ちくま文庫)は、漫画ではなく、センセイの当時のスケッチによる戦争体験記。漫画ではない絵もすごくお上手だと分かります。
 ぼくは水木漫画の大ファンなんですよね。でもあえて、文章による伝記、「ねぼけ人生」をナンバーワンに挙げたいと思います。
 文章なので想像力がかきたてられ、漫画の絵で見るよりも生き生きと情景が浮かびます。そして語りすぎていないところも良い。何より、とぼけたユーモアはマンガより優れていると思います。
 還暦少し前のまだお若い時の伝記なので、半生記と言うべきですけれど、すでに水木先生の全てが語りつくされていると言っても良いですね。
 個人的には伝記文学の最高傑作じゃないかなと思っています。 笑

ちくま文庫「ねぼけ人生」表紙 模写
こちらは新装版の表紙です。ぼくが持っているのは、和田誠さんの表紙の古い方ですけれど。



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