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鳥たちのさがしもの

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dekoさんの『少年のさがしもの』に着想を得た物語。鳥の名前を持つ五人の少年が出てきます。
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#ミステリ

はじめての自分語り-『鳥たちのさがしもの』あとがきに代えて

※物語そのもののネタバレは含みませんので未読の方もお読みいただけます。 はじめに 昨日、鳥たちのさがしもの第26話エピローグを公開した。最初から最後まで読んでくださった方、何話かを読んでくださった方、扉絵を覗いてくださった方、皆様に心から感謝。  この物語はdekoさんの『少年のさがしもの』1話から50話までを元に、私が好き勝手に空想を広げて構築した物語である。素敵な物語の欠片を紡いでくださり、私の気がおもむくままに書くことを許してくださったdekoさんには、感謝という言葉

鳥たちのさがしもの 26 エピローグ

ー僕たちはさがしものを見つけたー **********  厚木で行われた弓道大会の後、鎌倉まで足を延ばして約一年半ぶりに五人で秘密基地へやってきた。雲雀の引退試合だった。主将は後輩に引き継ぎ、これから受験勉強が始まる。先日、孔雀もバスケ部を引退したばかりだった。そんな中、斑鳩は相変わらず軽音部を続けている。  イーグルの墓に手を合わせ、海が見渡せる岩場に腰を下ろすと、雲雀は真っ先に口を開いた。 「俺さ、獣医になろうと思うんだ。だから、大学は外へ出るよ」 「H大目指すの?」

鳥たちのさがしもの 25

**********  鶴岡八幡宮の境内からは海沿いの国道134号線を見下ろすことができる。そこへ真っ直ぐに続く若宮大路。その先の海は凪いでいた。金木犀の香りが緩やかな風に乗って流れていく。すっかり秋だ。  本宮にお参りを終えて急な階段を降りると、舞殿で結婚式をやっていた。それを見てクリスが声を上げる。 「ワオ。ラッキーだね。一度見てみたかったんだ。そうだヨタカ、俺は来月結婚するんだよ」 「クリスにフィアンセが居るなんて初耳だ」 「ずっと友達だったんだけど、少し前にプロポー

鳥たちのさがしもの 24

ー僕はまだ、さがしものをしていたー **********  目の前にはビルの群れ。校舎の最上階のテラスだというのに、空は限りなく狭かった。それでも雲雀は学校の中でこの場所が一番好きだ。  夏休みの後半は予想通り部活に明け暮れた。しかし、どうにも集中できず、成果は芳しくなかった。秋の大会に推してくれた先輩にも心配されたが自分でもどうしようもない。  あっという間に夏は終わってしまった。 「雲雀。やっぱりここに居た。みんな待ってるよ。帰ろう?」  振り返らなくても燕の声だと分

鳥たちのさがしもの 23

**********  受験勉強に飽きた深夜、コンビニまで行くの道の途中で見たオリオン座の三つ星を思い出す。あんなに頑張って勉強したのは、この四人に再会するためだったのだ。未だ戻らない記憶。しかし雲雀は妙に納得していた。ただただ流れていった中学校三年間の時間の中で、唯一必死で頑張ったもの。  五人は夜の海に来ていた。オリオン座の三つ星の代わりに、今は夏の大三角形が輝いている。 「あれが、アルタイル、あっちがデネブ、最後がベガだよ」  燕が指差しながら説明し、斑鳩がふうん、と

鳥たちのさがしもの 13

********** -燕のさがしもの•冬-  二学期が終わる。小学校最後の終業式だ。次は卒業式。燕にとっては、冬休みに入る嬉しさよりも、楽しかった二年間が間もなく終わってしまうことの寂しさの方が大きかった。校長先生の話など全く頭に入らない。  冬休みは、夏休みと違ってあまり仲間たちと会えない予定だった。燕は中学校受験に向けて最後の追い込みの時期だし、そもそも年末年始は家族で過ごすことが多い。孔雀と斑鳩は家族とどこかに出かけるのだと言っていた。  放課後、燕はひとり、体育

鳥たちのさがしもの 12

 ********** -斑鳩のさがしもの・冬-  斑鳩は兄から今年の夏に貰ったギターに夢中になっていた。  少なくとも斑鳩の知る限り、同じ小学校に本格的なギターを持っている生徒は他に居ない。ちょっとした自慢だった。 「サンクチュアリと言えば『ホワイトクリスマス』だよな。音を写真で撮れればいいのに」  窓辺で蹲るフィンチに向かって声に出して呟くと、フィンチはそれに応えるように鼻を鳴らした。  夏から続いているこの遊びは、まだ続いていた。今回、孔雀から回ってきたキーワードは

鳥たちのさがしもの 11

********** 「知らない方がいいってどういうことだよ」  夜鷹の言葉に斑鳩がひきつった笑いを浮かべた。 「そのままの意味だ」 「どういうこと?」  燕が、泣きそうな顔で斑鳩の言葉をもう一度繰り返した。  雲雀は妙に冷静になっていた。自分たちが小学生の頃に一度出会っていたという突拍子もない話。しかしそれは真実であると雲雀の直感が伝えていた。これまで自分自身で想像したどんな”小学校の時の自分の像”よりもそれは確かな気がした。  できることならその記憶をそのまま取り戻した

鳥たちのさがしもの 10

********** -夜鷹のさがしもの・夏-  船の汽笛が聞こえて、夜鷹は海の方を振り返った。石畳の坂道は既に夕方の光を受けてオレンジ色に輝いている。そこに、古い洋館が影を落としていた。この洋館は間もなく取り壊されるのだと母親が嘆いていた。どうせすぐに夜鷹たちは渡米するのに、おかしな話だ。  湘南港を出たばかりの船が小さく見えた。先程の汽笛はあの船だろうか。あの船は、どこへ向かうのだろうか。  アメリカは遠いね、と燕は言った。確かに遠いと夜鷹も思う。しかし重要なのは物理

鳥たちのさがしもの 9

********** -孔雀のさがしもの・夏-  さすがに息が切れている。孔雀は、縁石に腰かけてクールダウンしながら、今上がってきた方の景色を眺めた。  今日はまだ暗いうちから家を出て、いつもよりも長い距離を走った。丁度、海と山の境目辺りが白く霞み始めている。その真上に、明けの明星が輝いていた。何か貰えると思ったのか野良猫が寄ってきて少し手前で座り込み、孔雀の顔を見つめたので、孔雀は何も持っていないというように両の掌を広げて見せた。 「おはよう。ごめんな。何も持ってないん

鳥たちのさがしもの 8

 ********** -雲雀のさがしもの・夏-  雲雀は、ひとりで秘密基地に来ていた。正確に言うと、秘密基地から更に少し上った海の見える場所だ。先端まで行くと真下は海。心地良い海風が木の葉を揺らして、木漏れ日も揺れていた。  それを眺めながら張り出した木の根に座り、来る途中に買ってきたコンビニのおにぎりをひと口齧った。雲雀は夏休みでも両親は仕事だ。稀に前日の夕飯の残りを食べたりもするが、大抵の場合は昼食代を渡され、自分でスーパーやコンビニに行って食料を調達している。家で

鳥たちのさがしもの 7

********** -燕のさがしもの・夏-  夜から嵐になるという予報だったので、仲間たちとは早めに分かれて家に帰った。しかし燕の中にはまだ先程までの興奮が燻っている。  昨日、斑鳩から連絡がきた。いつもの通り急な誘いで「すげえもの見つけた。明日十時、駅に集合」だという。少し呆れながら承諾の返信をした。そして今日、斑鳩の言う”すげえもの”を見に行ってきたのだ。  それは確かにすごかった。鷲宮神社には何度も行ったことがある。いわゆるこの辺りの氏神様だ。しかし、その奥にあん

鳥たちのさがしもの 6

 ********** -斑鳩のさがしもの・夏-  夏休みの課題の絵をつまらないと言ったのは確かに斑鳩だった。しかしそれを楽しいゲームに変えてくれたのは孔雀だ。斑鳩はそれを少しだけ悔しく思う。つまらないからこうしようぜ、と自分が提案できれば良かったのに。  夏休み中に、他の四人からそれぞれひとつずつお題を受け取った。斑鳩が探さなければならない組み合わせは”トンネル・裏山”、”日常・商店街”、”進路・港”、”ベクトル・建設現場”の四組だ。 「ベクトルって何だよ」  とりあえ

鳥たちのさがしもの 5

**********  燕以外の四人は互いに顔を見合わせた。それは、子供でも立ったままでは通れない小さな小さなトンネルだった。 「多分、昔は水路だったんじゃないかな」  燕が微かに首を傾げながら言うと、斑鳩が戸惑ったように口を開いた。 「いや、そういうことじゃないだろ。何なんだよ、これは」 「この向こうが、僕が行きたかった場所だ」 「この向こうに、何があるんだ?」 「秘密基地」 「秘密基地ぃ?!」 「いいからついて来て」  燕は自ら先頭に立って四つ這いになり、小さなトンネル