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「褒めて伸ばす」 自己肯定感に潜む罠。(6min)

一人歩きする「自己肯定感」

思えば、2010年頃から「自己肯定感」という言葉をよく聞くようになった。
なんでも、日本の子どもたちは諸外国の子どもたちに比べて、自己肯定感が低いのだとか。

この自己肯定感が低いと、
些細なことで傷つきやすかったり、対人関係で過剰な気を遣ったり、場合によっては反社会的行動をとりやすかったりするようなので(松尾, 2001)
文部科学省もこれまでにいろんな対策を講じてきている。

ただ最近、この「自己肯定感」という言葉が一人歩きしてしまっているような気がするんだけど、気のせいだろうか。

保護者さんたちとお話していると、こんな言葉をよく聞く。

「子どもに自信や肯定感をつけてあげるために、やっぱり褒めて伸ばすことが大切なんですよね」
「うちの子は自己肯定感が低いので、なるべく褒めるところを見つけるようにしています」

「自分もそう思っていた」という保護者さんがいれば、それは要注意。もしかするとそのやり方では子どもたちの自己肯定感は伸ばせていないかもしれない


自己肯定感とガラスの自信

そもそも自己肯定感とは

自らの潜在能力を信じ,よいもだめも含めて自分 は自分であって大丈夫という感覚(本田, 2007)

と定義されている。

ここで大事になるのは「よいもだめも含めて自分は自分」という部分。
まずは自分の力を信じて精一杯努力すること。その結果、成功すれば「やっぱりやればできる!
もし失敗してしまったら「今回は残念だった。でもしっかり反省して、次こそは成功するぞ!
こう思える気持ちが自己肯定感である。

しかし最近、むやみやたらに褒められ、それに慣れてしまった子どもたちが「根拠のない自信」を持つケースが増えているように思えてならない。
例えば、僕の教室に通ってくれている中学2年生のR君もその一人だ。

R君のお母さんは、勉強が得意ではなく自分に自信のない彼をどうにか机に向かわせようと、以前からとにかく褒めることを大切に子育てしてきた
定期テスト前日のある日、授業の休み時間に教室でスマホゲームをしているR君。僕が「今日くらいはやめといたら?」と声をかけると

いや、大丈夫!おれ『やればできる』し、今回は本当に自信ある!

大丈夫かな、という心配はもちろん的中。結果は惨敗だった。答案用紙を見ながら一緒に反省会をしていると、

もうおれだめ、勉強したくない、勉強してもどうせわからん

僕の教室でもこのようなケースはR君だけではない。
どんぐり倶楽部の糸山泰造先生は、このような根拠がなく、ちょっとした失敗ですぐに折れてしまうような自信のことをガラスの自信と呼んでいたが、まさにその通りだと思う。

子どもを「褒める」ということ

先日、Twitterで「子どもを褒めるのは、自分の思い通りにコントロールしたいという欲求から」というツイートを見かけたが、(多少言い方は極端であるが)僕も同意見である。
社会生活を営む上で、やっていいこととやってはいけないことの区別が曖昧な子どもたちには、褒めることで「その行動は正しいことだよ」を伝え、それを継続して実行してもらう必要がある。
これはある意味、自分の思い通りに動くよう、コントロールしている。

しかし、よくない部分には目をつぶり、よい部分を無理に探して褒めてしまう。あるいは、子どもが期待しているのとは見当違いな部分を褒めてしまうと、ちょっとした失敗で割れてしまうようなガラスの自信を必死に作っていることになる。
これでは子どもたちが困難にぶつかったとき、結果的に自己肯定感を下げることになるかもしれない。

褒める代わりに、感情を伝える

以上の理由から僕は、子どもたちをできるだけ褒めないように心がけている(もちろん最低限は褒めるけれど)
ただその代わりに、子どもたちにはそのときの自分の感情を伝えるようにしている

例えば勉強が苦手だった子が、学校のテストで難しい問題を自分で解き、マルをもらってきたとき。
「すごいね」「よく頑張ったね」ではなく、
「嬉しい!」「誇りに思うよ」「これは感動したなあ」と伝える。

自分から進んでなにかを手伝ってくれた子には「えらいね」ではなく「ありがとう、助かったよ」「困ってたから良かったー」と伝える。

これは叱るときも同じである。あまりにも人に迷惑をかける行為があればしっかり向き合いお説教することもあるが、基本的には「そんなことされたら辛いな」とか「嫌な気持ちになるよ」と伝える。

このように、子どものころから自分の行いによって周りの人の感情が動くことを理解できれていれば、自分の行動にも責任が持てるようになる。さらに「人のために何かする」という福祉的感覚も持てるようになるだろう。

こうして培われた「自分は誰かに必要とされているんだ」「人の力になれるんだ」「居場所があるんだ」という気持ちが、ガラスの自信ではない本当の自己肯定感を作る

「褒めて伸ばす」という言葉は一見理想的で良さそうに見えるけれど、そこに潜んでいるデメリットについても是非考えていただければと思います。

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【出典】

松尾直博 (2001). 中学生の自己価値・他者価値と社 会的不適応との関係 東京学芸大学紀要1部門, 52, 111-114.

本田絢 (2007). 中学生のソーシャルサポート・ネットワークと不適応の関連―自己と他者への肯定感を中心として―日本コミュニティ心理学会 第10回大会発表論文集,100-101.

考えることが好きになれば、算数も国語もぜんぶ好きになる。すべての子どもたちに学ぶ楽しさを感じてもらうべく奮闘中。TRES代表。