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鳥居をくぐり夢現 [読書旅行記]

vol.2 道中

五条の小さなビジネスホテルを拠点に、京都をめぐる4日間の一人旅。

地下鉄とバスが乗り放題になる乗車券を買った。聞こえてくる駅員さんや運転手さんの声に感動する。イントネーションが、ものすごく京都。なんて素敵な喋り方なんだろう。

駅のホームで道に迷ったときにも車掌さんが助けてくれた。私が迷子だとバレてしまったのか、運転席の窓から顔を出して丁寧に道を教えてくれた。危ない、全く逆方向に歩き出すところだった。

***

伏見は好きな俳優さんが生まれ育った街だ。この橋を渡って、この商店街を駆け回って過ごしていたのだろうか。同じ道を歩けることが嬉しい。

そんなウキウキした気分は、伏見稲荷のてっぺんまでは続かなかった。テレビでよく見るのは千本鳥居のほんの一部にすぎなかった。登っても登っても階段、坂道、連なる朱色の鳥居。軽い登山とは聞いていたけれど…

少し先を歩いていた男性が突然立ち止まり振り返った。

「今サルが出たので気をつけて」

お稲荷さんのほかにもいろんな生き物が住んでいるようだ。

***

水の神様が祀られる貴船神社。
大きな山、緑の木々、透き通った川。永遠に聞いていたい涼やかな水の音。

一番奥の森に囲まれたお社に辿りついたとき、参拝客はほかに誰もいなかった。手を合わせ目を閉じたその瞬間、急に辺りが眩しくなった。空を覆う青もみじの隙間から、強い日差しが私を照らしていた。よく来たね、と言ってくれたのだろうか。

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帰り道、川に沿って歩いていると全速力で走るリスに出会った。
あ!と驚いているうちに山の中へ消えてしまい、写真を撮ろうと思う隙さえなかった。

全てが神聖で、ファンタジーのようで、もしかしたら夢だったかもしれない。
(引っかかるのは水みくじが小吉だったことくらい)

***

どの日も早々とホテルへ戻って大きなベッドに潜り込み、本のページをめくった。
この夫婦はどうなるのか?この画家は?良い人なのか実は腹黒い人なのか?
あれこれ想像しながら、気をつけてゆっくり読む。こんなにおもしろい物語を読み終えたくない。
ある日はルームサービスのサンドイッチと。ある日は近くのマックで買った三角チョコパイと。


物語の舞台で現実を生きていた。


(つづく)

▼旅のお供
『異邦人(いりびと)』 原田マハ [PHP文芸文庫]



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