北虎あきら

会社員。短歌をやっています。毎週水曜日「5分で読める現代短歌」評シリーズを中心に、IT…

北虎あきら

会社員。短歌をやっています。毎週水曜日「5分で読める現代短歌」評シリーズを中心に、ITや映画の話もします。誠実と素直。

マガジン

  • 5分で読める現代短歌

    毎週水曜日、北虎あきらが現代短歌を一首ずつ紹介しています。 「そもそも短歌ってどう読むものなの?」から「どんな種類の歌があるの?」くらいのひとに読んでもらえると特にうれしいです。

  • 塔 月詠

    毎月15日ごろ、その月の結社誌「塔」に掲載された北虎あきらの詠草("月詠")を掲載します。結社誌というのは、一種の師弟関係にある短歌をやっているひとたちの集まり(=短歌結社)のなかで師の立場から選ばれた歌が掲載されている紙の本です。毎月十首を送り、三か月後に選歌の結果が掲載されます。

記事一覧

シネマ・コンプレックス /30首

戦争のふりを観ている ポップコーンつまむ指3本を汚して 夜襲が終わって燃える花野の白昼に映えている横顔を盗んだ 複雑な利害関係眺めつつこころは帰路のドラッグ・ス…

北虎あきら
1か月前
6

smooth /30首

交差点むかいの停留所を指して信用しないよう言われおり 寄り道をしていたバスがさっき見た緑の自転車をまた追い抜く 銭湯の帰りのにおい風にとけローソンまでを長いジョ…

北虎あきら
2か月前
13

スタントマン/5分で読める現代短歌27

 うつくしい歌だと思う。哀切の歌だとおもう。  おそらくは映画、のメイキングかもしれない映像の、何かしら火炎のシーン、の終わり、なのだけど〈その後も〉から、もう…

北虎あきら
2か月前
14

塔 月詠/2024.05

月と日の区別のうすい崩し字の付箋から迎える十九月 思い出と心残りが同じだけ積もる数年ぶりの雪夜に 降る雪に見えた雷これからのあなたを信じる私を信じたい 日陰には…

北虎あきら
3か月前
7

塔 月詠/2024.01

五番線、これまでここで交わった出会いと別れのどちらが多い テトリスとオセロばかりがうまくなる触れないように背を捩りつつ ふたりでも程よいベッドに向き合って夜通し…

北虎あきら
7か月前
12

塔 月詠/2023.11

かごに傘挿して車輪を軋ませる雪の予報のあとのぬかるみ ゆうかげも旧駅舎の骨格を抜けあなたの髪の向こうから来る もう空のペットボトルを圧し潰す手応えと世に増える屈…

北虎あきら
8か月前
5

塔 月詠/2023.10

まずバスのサスペンション、それからぼくの体・心が跳ねる隘路に 行く末の山の孤島の指先も見えない霧のホテル(停電) 不文律 場合によってはわたくしが犠牲者にもなり…

北虎あきら
10か月前
4

塔 月詠/2023.09

眼鏡屋にあるサングラス 気づいたら薄ら暗くなっていた日々 あかるさを話していちど閉じかけたドアを夕立ちの駅に出る 眼が雪に焼けることあり 見えすぎるゆえの頭痛を…

北虎あきら
11か月前
7

塔 月詠/2023.08

屋上のいくらかの室外機たちゆるくまわっている春の月 ほとんど底のポップコーンに手を伸ばす 長い夢 まだ何かあるなら した後悔がいちばんこわい 国道の中央分離帯に…

3

天景 /10首

 天景 小島、あるいは筏のようにレジャーシートの浮かぶ草原 中腰に追いかけるときマルチーズだったろう伊勢丹のビニール お喋りの代わりにしゃぼんだまができる 風に…

5

塔 月詠/2023.06

部屋にひとり思い出すとき夕やみのところどころを灯る白梅 全員をぼんやり好きだ 取り壊し現場も日曜日には休んで Aのキートップが外れぼくの言海を喃語はただよってい…

3

塔 月詠/2023.05

鈍色の犬になっていた冬のモノポリーでは周回遅れに 友人を夫婦に変える証人の任意の朱肉 少し擦れた 新宿のエジンバラでも珈琲が飲める こちらは二十四時間 ひと駅…

2

塔 月詠/2023.04

待ち合わすたびに真っ直ぐ歩き来る ぼくはあの冬に間違えて すれ違うひとの多くが祇園から八坂へ向かう角を左へ 対岸の高い凧あげ 励ましがある 視界には途切れていて…

5

ベランダ /13首

橋梁とおもうゆっくりその指がテーブルの滴をぬぐうとき 川底をながれるみずを置き去りにずっと進んでいたんだ川は イメージとメッセージ 紙ナプキンに声は滲んでもう蓮…

5

さらり /07首

どうかしている思想を逸らす猛暑日も空には届かない水平線 みぎわまで話しつつゆく浜辺から僅かにさらわれる足のうら 白む夜の路端のレジ袋は子猫 お城とラブホで韻が踏…

4

この頭に手を/5分で読める現代短歌26

 初読はインターネットだった。  わたしのTwitterには短歌の話題がときどき流れ、いくらかは歌そのものだったりする。掲出歌はそのうちのひとつで、わたしの目にしたツイ…

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シネマ・コンプレックス /30首

戦争のふりを観ている ポップコーンつまむ指3本を汚して

夜襲が終わって燃える花野の白昼に映えている横顔を盗んだ

複雑な利害関係眺めつつこころは帰路のドラッグ・ストアに

ひとりひとり働いたから順番に名前が昇っては消えてゆく

ぼくも誰かの利権構造かもしれず映画館では静かに座る

いっせいに積みあがる通知を順に消してゆく仄かに暗いなか

隣ではラブ・コメディの真っ最中だったのか 僅かな下り坂

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smooth /30首

smooth /30首

交差点むかいの停留所を指して信用しないよう言われおり

寄り道をしていたバスがさっき見た緑の自転車をまた追い抜く

銭湯の帰りのにおい風にとけローソンまでを長いジョークに

春の河口に振り向けばふいに見せてくるラバー・ペンシル・イリュージョン 遥か

ミニチュアのように芝生の家族たち凧をあげ対岸の鉄塔

ちょっとずつ追いぬかれつつ特急と日差しの橋を普通わたっていく

就活の話をしないしばらくを迂闊

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スタントマン/5分で読める現代短歌27

スタントマン/5分で読める現代短歌27

 うつくしい歌だと思う。哀切の歌だとおもう。
 おそらくは映画、のメイキングかもしれない映像の、何かしら火炎のシーン、の終わり、なのだけど〈その後も〉から、もういちど時間が動き出す感覚がある。そして、その時間には終わりが無い。
 映像作品には始まりと終わりがあって、私たちはそれを外から観ることができる。けれど、その時間のなかにいる限りは、自身の始まりと終わりを視ることができない。主体的に生きる限り

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塔 月詠/2024.05

塔 月詠/2024.05

月と日の区別のうすい崩し字の付箋から迎える十九月

思い出と心残りが同じだけ積もる数年ぶりの雪夜に

降る雪に見えた雷これからのあなたを信じる私を信じたい

日陰には昨夜の名残 雪踏めば梨のひかりを還してくれる

死にかけの蛍光灯が思い出す清流に飛び交った前世を

ゆうかげを受けて耀う大川のようやくことばから遠ざかる

 気づけばもう2024年も折り返しが見え始めていて慄く。
 この塔月詠のnot

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塔 月詠/2024.01

塔 月詠/2024.01

五番線、これまでここで交わった出会いと別れのどちらが多い

テトリスとオセロばかりがうまくなる触れないように背を捩りつつ

ふたりでも程よいベッドに向き合って夜通しまばたきを聴いていた

風はつねに音から雨は匂いからきみを見つけるのは角度から

こぼれないように詰め替えボトルから移すのは一筋の光だ

smoothの鼻濁音教わりながらまたひとつ賢くなってしまう

いまどこを走っているかわからないから

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塔 月詠/2023.11

塔 月詠/2023.11

かごに傘挿して車輪を軋ませる雪の予報のあとのぬかるみ

ゆうかげも旧駅舎の骨格を抜けあなたの髪の向こうから来る

もう空のペットボトルを圧し潰す手応えと世に増える屈折

冬枯れの手指だったから絡ませるというより縋りあう肉売り場

外そうと眼鏡にかざす手のひらが覆う視界はいっときを死ぬ

ニュアンスをそろえてえらぶ絵文字その日暮れから僅かに後ろめたい

 鍵内七首、ありがとうございました。三か月ぶり

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塔 月詠/2023.10

塔 月詠/2023.10

まずバスのサスペンション、それからぼくの体・心が跳ねる隘路に

行く末の山の孤島の指先も見えない霧のホテル(停電)

不文律 場合によってはわたくしが犠牲者にもなりえたOVA

告解をゆるせずに聞く食卓に固形燃料ゆるく燃えおり

罪を軽く話したいのか上がる語尾、気づきつつ折る鮎の背骨を

言いづらいからとめどなく出ることば シャワーヘッドをシャワーに洗う

鏡に湯かけた一瞬にあらわれる顔へ沿わせて

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塔 月詠/2023.09

塔 月詠/2023.09

眼鏡屋にあるサングラス 気づいたら薄ら暗くなっていた日々

あかるさを話していちど閉じかけたドアを夕立ちの駅に出る

眼が雪に焼けることあり 見えすぎるゆえの頭痛を心配されて

深く長い呼吸のための猫背だろう枯木立その胸に抱えて

傷跡にもういちど針落とすたび音楽は再現されてゆく

そこにいる エピソードから遠ざかるほどにミモザは仄光りだす

文脈と背景 みんな目を閉じた信号 歩行者天国へいく

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塔 月詠/2023.08

塔 月詠/2023.08

屋上のいくらかの室外機たちゆるくまわっている春の月

ほとんど底のポップコーンに手を伸ばす 長い夢 まだ何かあるなら

した後悔がいちばんこわい 国道の中央分離帯には百合がゆれ

右耳の輪郭を撫でながら立つぼくはぼく自身の虚のふち

アレクサに話しかければ昨夜との差を告げられる ひとり減った

ごみ箱を開ければ饐えたチーズ、肉、あなたは歌にしかならないが

 今月の「塔」から六首。鍵の外、ありがと

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天景 /10首

天景 /10首

 天景

小島、あるいは筏のようにレジャーシートの浮かぶ草原

中腰に追いかけるときマルチーズだったろう伊勢丹のビニール

お喋りの代わりにしゃぼんだまができる 風に向かって走れば多く

ドラクエ3みたいですね、って言いかけて……おもいだせないのが思い出に

ちいさいほど赤くおおきいほど淡いしゃぼんだまにすこしは映ってる

写りこむ私の背中が全員のしあわせの一部であるように

恋人の子どもの親の友

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塔 月詠/2023.06

塔 月詠/2023.06

部屋にひとり思い出すとき夕やみのところどころを灯る白梅

全員をぼんやり好きだ 取り壊し現場も日曜日には休んで

Aのキートップが外れぼくの言海を喃語はただよっている

靴下の神経衰弱 花冷えをあなたと歩いたはずだったけど

おみくじの端に火をつけ薄曇る冬のおわりにすべてよくなる

 今月の塔に掲載された5首。
 どんな歌出したっけ? と全然覚えていない月で、なんとか投函前の詠草紙を撮ったらしき写

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塔 月詠/2023.05

塔 月詠/2023.05



鈍色の犬になっていた冬のモノポリーでは周回遅れに

友人を夫婦に変える証人の任意の朱肉 少し擦れた

新宿のエジンバラでも珈琲が飲める こちらは二十四時間

ひと駅を歩いたあとはその分を乗って帰った散歩の寒梅

ポケットの深くを順に探りつつ私の鍵が落とされていく

信号のむこうの白い交番と視線の繋がったまま向かった

行先のほかは委ねるタクシーの仄明かり ほんとうに正しい

 今月の塔に掲載さ

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塔 月詠/2023.04

塔 月詠/2023.04

待ち合わすたびに真っ直ぐ歩き来る ぼくはあの冬に間違えて

すれ違うひとの多くが祇園から八坂へ向かう角を左へ

対岸の高い凧あげ 励ましがある 視界には途切れていても

参道の復路には無くなっていた露天商いちおしの百合根も

東京へ送った荷物を東京で受け取っている すべては時差のなか

買わなかったお守りも思い出になるかなあ、川面を光が撫でる

ひさびさの月詠。6首掲載でした。ありがとうございまし

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ベランダ /13首

ベランダ /13首

橋梁とおもうゆっくりその指がテーブルの滴をぬぐうとき

川底をながれるみずを置き去りにずっと進んでいたんだ川は

イメージとメッセージ 紙ナプキンに声は滲んでもう蓮の花

ゆうぐれるまでが引き延ばされている御幸通りをまっすぐ帰る

吸いながら右折するひとから残るけむりがあとの鳩に絡んだ

紫陽花のなしくずされる七月のしずかな別れ話のはじめ

すごく月おおきいなって気がついて、たぶん満月だった昨日が

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さらり /07首

さらり /07首

どうかしている思想を逸らす猛暑日も空には届かない水平線

みぎわまで話しつつゆく浜辺から僅かにさらわれる足のうら

白む夜の路端のレジ袋は子猫 お城とラブホで韻が踏める

しゃわわ、と歌ってみれば脱衣所にあなたが笑ってくれて落ちつく

くやしさを保てずにいる研修の暮れにしずかな皿を洗えば

底知れずあなたをさらいたいまひる視野を緑の河が流れて

みなとみらいは夏にふくらむ オフィスから影のみが見ゆ

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この頭に手を/5分で読める現代短歌26

この頭に手を/5分で読める現代短歌26

 初読はインターネットだった。
 わたしのTwitterには短歌の話題がときどき流れ、いくらかは歌そのものだったりする。掲出歌はそのうちのひとつで、わたしの目にしたツイートが誰のそれだったかは、もう定かでない。けれど一読したときから初句〈シャンプー〉と一字空けが印象に残り、およそ一年ぶりにこの一首評「5分で読める現代短歌」を書けそうだ、書こうと考えたとき、触れたくなったのはこの歌だった。
 
 作

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