久逸文庫主人

一労久逸。苦あれば楽あり。 現在宇津保物語を読んでいます。本文は「小学館新編日本古典文…

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一労久逸。苦あれば楽あり。 現在宇津保物語を読んでいます。本文は「小学館新編日本古典文学全集」から引用しています。訳は時には意訳やとんでも訳をするかもしれません。トップの写真は散歩の途中で見つけたものです。

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宇津保物語を読む9 内侍のかみ#13

仲忠、母に相撲のことを語り、御前に誘う 訳  こうして、宰相の中将仲忠は母北の方のいる三条殿に戻った。  北の方は衣を引き掛けたまま髪を洗い、端近くで乾かしていた。そこに仲忠が来訪する。 北の方「どうでしたか。相撲はどちらが勝ちましたか。」 仲忠「左の勝ちです。」 北の方「それは張り合いがないこと。もしや右が勝つのではかいかと、人々が集まっておりましたのに。残念だわ。」 仲忠「ひどいことをおっしゃる。私の方が勝ったが嬉しいんですよ。母上にとっては父上の方が大事なので

    • 宇津保物語を読む9 内侍のかみ#12

      帝、仲忠と賭け碁をして、仲忠の母を召す(後半) 訳  その後も仲忠は、決して琴は弾けないことを申し上げ、その思いを詩に託して申し上げなどして、ひたすら断り続けた。  帝は(わけのわからんことを言うやつめ。こいつに言い負かされるのはしゃくだ)とお思いになるが、ふと、仲忠の母に、長年何とかして会いたいものだと思い続け、昔から入内を打診して、何とかして女御にとばかり思っていたが、消息不明となりがっかりしていたことを思い出す。 今その健在が知れるのみならず当世の趣味人・美

      • 宇津保物語を読む9 内侍のかみ#11

        帝仲忠と賭け碁をして仲忠の母を召す(前半) 訳  こうしているうちに、帝はどうやって仲忠にいうことを聞かせようかと考え、遠くにいる仲忠を呼び、帝は碁盤を用意し、仲忠と碁を打つことにした。 帝は「何を賭けようか。あまり大切なものを賭けるのはようそう。相手の言うものを賭けようか。」 とおっしゃって、三番勝負をする。 帝は数多くの才をお持ちだが、その中でも碁は一番得意としているのに加えて、仲忠に何とかして琴を弾かせようと考えている。仲忠はそんなことともつゆ知らず、ただ藤壺であ

        • 宇津保物語を読む9 内侍のかみ#10

          東宮、藤壺に参内を促す歌を贈る訳  帝は東宮の御座所にお越しになり 「どうして藤壺はいないのだ?」と尋ねる。 小宮「物足りないことです。あの方がいらっしゃってこそ今日の相撲の節会よりも盛り上がりますのにね。」 東宮は「『我が面影に恥づ』というほどやつれてはいないでしょうに」といって御前にある、石や貝が着いたままの生の海藻の海松をお取りになって、 (東宮)「どうして参上しないのだ。こちらには皆いらっしゃっているのに。   浦に海藻の「みる」が打ち寄せられているとも知らない

        宇津保物語を読む9 内侍のかみ#13

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        • 宇津保物語を読む
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        • Cue's Cafe
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          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#9

          帝、仲忠をお探しになる。涼、藤壺に参る訳  帝は右大将(兼雅)に 「仲忠の朝臣にぜひ会いたいことがあるのだが、どこにもいないということだ。そなた、居場所を知らんか。」 右大将「たった今までお仕えしておりましたが、帰ったのでしょうか。どこにもおりません。」 帝「それならば、呼び戻せ。」 右大将「退出したとしても、どうも見当たりませんで。不思議にも消え失せたようでございます。涼の中将もご同席のようですが、もしや琴の演奏をご所望だったのでしょうか。さてはそれを察して逃げ隠れたの

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#9

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#8

          前回はアップの順が前後しましたが、今回は節会の祝勝会の続きです。朱雀帝の琴演奏のお召しから逃げ出した仲忠が、藤壺(あて宮)のところに逃げ込むところからつづけます。 仲忠、帝のお召しを逃れて藤壺に隠れる訳  仲忠は飛び出したのはいいものの、なんとかして人に知られまいと思い、どこに隠れようか、あてもないまま、あて宮のいる藤壺へと向かった。 「これはこれは、なぜお隠れになるのですか?」 などと女房たちに笑われる。 仲忠「ちょっと困ったことになってね。家に帰るわけにも行かず、どこ

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#8

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#6(改)

          #6と#7はアップの順が前後しています。  「正頼、兼雅、相撲の節会の準備をする」の段は省略 いよいよ相撲の節会当日になります 相撲の節会の当日、賄いの人々とその装束訳  こうして、相撲の節会が明日とせまり、内裏では盛大に準備が進められ、陪膳役を勤める御息所や更衣たちも、明日のその日を思い浮かべながら念入りなお化粧をする。  相撲の当日は、仁寿殿で行われた。朝の陪膳役には仁寿殿の女御、昼の陪膳役には承香殿の女御、夜の陪膳役には式部卿の女御があたった。更衣が10名、禁色を許

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#6(改)

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#7

          これは最初に#6としてアップしたものですが、前段を挿入したので、タイトルの番号を変更しました 帝、涼と仲忠に弾琴を所望される訳  管弦の催しは際限なく続く。 帝「近年父嵯峨院の御代においても、また私の治世においても、特にこれという行事は行われなかったが、そうはいっても、今の大将たちは、ほかの者たちよりも優れておるので、その気配りはたいしたものだ。今回の催しについても、今少し趣向を凝らして、あの吹上で行われた重陽の節会に等しい相撲の節会としたいものだ。『仁寿殿の相撲の節、吹

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#7

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#5

          仲忠、正頼にあて宮の琵琶を称賛して語る訳  こうして宴も進み、管弦の演奏が始まる。様々な楽器を奏でられるなかで仲忠が申し上げる。 「私は幾度か箏の琴を他の楽器に合わせて演奏したことがありますが、先日藤壺で演奏した時ほど楽しかったことはありませんでした。あの姫君(あて宮)は琵琶を合わせて演奏なさいましたが、それを拝聴しておりますと、俗世のことなどすべて忘れてしまうほどでした。今、琵琶の第一人者は良少将(良岑行政)ですが、彼とも度々合奏させていただくときもありますが、その少将で

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#5

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#4

          兼雅、正頼を訪れ、相撲のことを語り合う(本文・訳 省略)  ある日、右大将(兼雅)は左大将(正頼)宅を訪問し、来たる相撲の節会についての相談をします。見所のある節会にしようとの朱雀帝の言葉をうけ、二人は知恵を絞ります。どれだけ有力な相撲(選手)を集められるかでお互いに腹を探り合いつつ、やがて話は女性たちからもらった手紙へと移ります。 正頼、兼雅、昔の女の消息文を比べる訳  盃を何度か酌み交わしては、 右大将(兼雅)「このお屋敷にまいりますと、昔は何やら恥ずかしく思ったもの

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#4

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#3

          正頼と大宮、娘たちの婿について話し合う 訳 左大将正頼と妻の大宮の会話  左大将「仁寿殿の女御といろいろ話していたところに帝がお渡りになって『ここにいたのか。話し相手になってくれ』とおっしゃるものだから、帝のお側に集まりいろいろ話していたところ、すっかり夜が更けてしまった。」  大宮「それは、それは。で、藤壺(あて宮)はどんな様子でしたか。」  左大将「上局にいらっしゃったよ。特にお変わりはないようで、いつものように演奏をなさっていたよ。仲忠の中将が御簾のそばで箏の琴を

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#3

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#2

          正頼、帝と東宮の御前で年内の節会を語る訳  こうしているうちに、上達部や親王たちなどもみな仁寿殿に参上なさる。殿上人もその場にいるかぎり参上する。左大将は三条院から果物や酒などを取り寄せてみなで酒盛りとなり、帝も東宮も会話に打ち興じた。 帝「長らくおもしろい催しなどもなかったのう。だんだんと風も涼しくなり時節もまた趣のあるものになってきたのだから、世の憂さも忘れ心ゆくまで満足のする催しをこの秋にはしたいものだ。みなで話し合ってみようではないか。人の寿命という者ははかないも

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#2

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#1

          「ないしのかみ(=尚侍)」とは内侍司の長官。天皇の取り次ぎ、天皇の言葉を伝達する 重要な職である。 源氏物語では、源氏との関係が世間のしることになり女御とすることが出来なくなった朧月夜が、朱雀帝の尚侍となっている。また髭黒の大将の妻になった玉鬘も冷泉帝の尚侍となった。 女御にしたかったんだけどできなかった女性のつくポジション?のイメージがあるなあ。 はたして、尚侍とはだれのことだ? 朱雀帝、仁寿殿の局で女御と物語をなさる(1)訳 さて、七月上旬のある日、朱雀帝は左大将

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#1

          宇津保物語を読む8 あて宮#10(終)

          あて宮物語もいよいよ大詰め あて宮の出産も近づきます。あて宮は里に下がり、東宮との歌のやりとりが描かれた後、いよいよ出産のシーンとなります。 あて宮の皇子誕生と産養 大殿の君の嫉妬訳  こうして、あて宮の出産の準備が行われ、お仕えする女房や女童はみな白い装束を着て、母の大宮などもみなこちらにいらっしゃってお待ちになっていると、10月1日に男宮がお生まれになった。東宮からお祝いの使者が立ち代わりやってくる。東宮の母は右大臣(忠雅)や右大将(兼雅)の妹君でいらっしゃるが、その

          宇津保物語を読む8 あて宮#10(終)

          宇津保物語を読む8 あて宮#9

          真菅、あて宮入内に立腹し愁訴、一族流罪訳  さて、治部卿(真菅)は、あて宮のために家を建て、調度品を整えて勝手に吉日を選んで日取りを決め、あて宮をお迎えしようとご子息や家人たちを引き連れてお出かけになる。それを見たある人が 「あて宮は東宮のもとに入内なさいましたよ。」 と言うと、それを聞いた治部卿は家が揺れるほどに大騒ぎし、激怒して、 「どういうわけだ!たとえ、天下の国王、大臣であったとしても、多くの人が思いを寄せ、結婚を準備して新居を建て、閨を作ってその日を心待ちにして

          宇津保物語を読む8 あて宮#9

          宇津保物語を読む8 あて宮#8

          仲澄、あて宮に贈歌し絶命 あて宮の悲嘆訳  さて、侍従の君(仲澄)も、あて宮が入内なさった日に、命も危ぶまれ、あて宮からの手紙で息を吹き返したものの、思いは日増しに強まり、お体はかえって衰弱するばかりで、もう生きてはいられないようになってしまったので、あて宮へこのようなお手紙を差し上げる   「あなたへの思いを申し上げても、とうとう止むこともなかった   水の泡のような儚い思いは胸に秘めておくのがよかったのかなあ  ここまで申し上げずにはいられず、つい口にしてしまいま

          宇津保物語を読む8 あて宮#8