久逸文庫主人

一労久逸。苦あれば楽あり。 現在宇津保物語を読んでいます。本文は「小学館新編日本古典文…

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一労久逸。苦あれば楽あり。 現在宇津保物語を読んでいます。本文は「小学館新編日本古典文学全集」から引用しています。訳は時には意訳やとんでも訳をするかもしれません。トップの写真は散歩の途中で見つけたものです。

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宇津保物語を読む9 内侍のかみ#18

帝、胡笳の音に感じ、胡の后の哀話を語る訳  こうしているうちに、北の方の演奏はますます興にのり、しめやかな音色を奏でる。  帝は楽譜を手に取り、 「この楽譜には、こうあるのだ……」 「ここは、このように演奏するのだ……」 などと指示をする。 その言葉通りに北の方は琴を奏で、譜のとおりに、そしてまた珍しい技法なども披露しする。  一通り、胡笳の調べを楽譜のとおり演奏し、「しをすさ」の音色で演奏する様子、同じ旋律を調子を変えながら演奏する琴の音色は、興深いことこの上なく、また

    • 宇津保物語を読む9 内侍のかみ#17

      見出し仲忠の母、ようやく琴を弾く 人々賞賛 訳  帝が熱心にお勧めするので、北の方はしかたなく小曲をそっと奏でる。 帝「もっと、もっと。このようにさわりだけ聞かされてはいっそうもどかしくなるばかりだ。もうすこし聞き応えのある曲を1、2曲奏でよ」 などとおっしゃるので、しかたなく少し風情のある曲を弾く。 この「せいひん」という琴はあの「なん風」と同類の琴なので、まさにそれらの秘琴に劣らず、すばらしい音色を発する。北の方は何気なく鳴らしただけであったが、琴の名手である俊蔭からそ

      • 宇津保物語を読む9 内侍のかみ#16

        帝、仲忠の母に弾琴を勧めるが従わず1訳  帝は仁寿殿にお出ましになり、廂の間の西方に、屏風や几帳などを立てて 「上達部たちよ、しばらく席を外すように」 と東の方へ移動させ、席にお着きになる。  仲忠は祐澄を誘い、 「さあ行きましょう。私は今日大切な方をお連れしたので、あなたに蔭になっていただきたいのです」 祐澄「それはどなたですか」 仲忠「それは内緒ですけど」 と連れて行く。 たいそう高貴な方々に几帳を持たせ、従者には父右大将の沓を持たせて仲忠は 「さあ、降りてください」

        • 宇津保物語を読む9 内侍のかみ#15

          仲忠、妹の梨壺の局で、女三の宮と語る訳  こうして、人々を待機させたまま、仲忠は参内し、仁寿殿の帝の前に進み出る。 帝はそれをご覧になり 「どうであった。例の件は」とお尋ねになる。 仲忠「車に乗ったまま待っております」 帝は微笑んで「では、交渉成立ということだな」とおっしゃる。  仲忠は帝とのやり取りの後、妹にあたる東宮女御の局に向かった。 女御は東宮のもとに参上して留守であったが、かわりに女御の母宮がいらっしゃった。  この母宮はもともと父右大将とは親密な関係だったのだ

        宇津保物語を読む9 内侍のかみ#18

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          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#14

          仲忠、馬車の用意をさせ、母と共に参内訳  仲忠中将は「今日の相撲は残念なことに右方は勝てませんでした。左方の私にとっては嬉しいことですが、右方の父上はさぞ悔しいことでしょう。それも最後の一番で負けてしまいましたから。 しかし今頃宮中では盛大に祝勝会が行われていることでしょう。ひとりでこんな面白いものを見ていましても何の甲斐もありませんので、母上と一緒にと、お迎えに参ったのです。右方の祝宴準備のために参った人々も母のお供としてぜひ見に行きましょう。私は馬でお供します」 とい

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#14

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#13

          仲忠、母に相撲のことを語り、御前に誘う 訳  こうして、宰相の中将仲忠は母北の方のいる三条殿に戻った。  北の方は衣を引き掛けたまま髪を洗い、端近くで乾かしていた。そこに仲忠が来訪する。 北の方「どうでしたか。相撲はどちらが勝ちましたか。」 仲忠「左の勝ちです。」 北の方「それは張り合いがないこと。もしや右が勝つのではかいかと、人々が集まっておりましたのに。残念だわ。」 仲忠「ひどいことをおっしゃる。私の方が勝ったが嬉しいんですよ。母上にとっては父上の方が大事なので

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#13

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#12

          帝、仲忠と賭け碁をして、仲忠の母を召す(後半) 訳  その後も仲忠は、決して琴は弾けないことを申し上げ、その思いを詩に託して申し上げなどして、ひたすら断り続けた。  帝は(わけのわからんことを言うやつめ。こいつに言い負かされるのはしゃくだ)とお思いになるが、ふと、仲忠の母に、長年何とかして会いたいものだと思い続け、昔から入内を打診して、何とかして女御にとばかり思っていたが、消息不明となりがっかりしていたことを思い出す。 今その健在が知れるのみならず当世の趣味人・美

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#12

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#11

          帝仲忠と賭け碁をして仲忠の母を召す(前半) 訳  こうしているうちに、帝はどうやって仲忠にいうことを聞かせようかと考え、遠くにいる仲忠を呼び、帝は碁盤を用意し、仲忠と碁を打つことにした。 帝は「何を賭けようか。あまり大切なものを賭けるのはようそう。相手の言うものを賭けようか。」 とおっしゃって、三番勝負をする。 帝は数多くの才をお持ちだが、その中でも碁は一番得意としているのに加えて、仲忠に何とかして琴を弾かせようと考えている。仲忠はそんなことともつゆ知らず、ただ藤壺であ

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#11

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#10

          東宮、藤壺に参内を促す歌を贈る訳  帝は東宮の御座所にお越しになり 「どうして藤壺はいないのだ?」と尋ねる。 小宮「物足りないことです。あの方がいらっしゃってこそ今日の相撲の節会よりも盛り上がりますのにね。」 東宮は「『我が面影に恥づ』というほどやつれてはいないでしょうに」といって御前にある、石や貝が着いたままの生の海藻の海松をお取りになって、 (東宮)「どうして参上しないのだ。こちらには皆いらっしゃっているのに。   浦に海藻の「みる」が打ち寄せられているとも知らない

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#10

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#9

          帝、仲忠をお探しになる。涼、藤壺に参る訳  帝は右大将(兼雅)に 「仲忠の朝臣にぜひ会いたいことがあるのだが、どこにもいないということだ。そなた、居場所を知らんか。」 右大将「たった今までお仕えしておりましたが、帰ったのでしょうか。どこにもおりません。」 帝「それならば、呼び戻せ。」 右大将「退出したとしても、どうも見当たりませんで。不思議にも消え失せたようでございます。涼の中将もご同席のようですが、もしや琴の演奏をご所望だったのでしょうか。さてはそれを察して逃げ隠れたの

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#9

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#8

          前回はアップの順が前後しましたが、今回は節会の祝勝会の続きです。朱雀帝の琴演奏のお召しから逃げ出した仲忠が、藤壺(あて宮)のところに逃げ込むところからつづけます。 仲忠、帝のお召しを逃れて藤壺に隠れる訳  仲忠は飛び出したのはいいものの、なんとかして人に知られまいと思い、どこに隠れようか、あてもないまま、あて宮のいる藤壺へと向かった。 「これはこれは、なぜお隠れになるのですか?」 などと女房たちに笑われる。 仲忠「ちょっと困ったことになってね。家に帰るわけにも行かず、どこ

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#8

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#6(改)

          #6と#7はアップの順が前後しています。  「正頼、兼雅、相撲の節会の準備をする」の段は省略 いよいよ相撲の節会当日になります 相撲の節会の当日、賄いの人々とその装束訳  こうして、相撲の節会が明日とせまり、内裏では盛大に準備が進められ、陪膳役を勤める御息所や更衣たちも、明日のその日を思い浮かべながら念入りなお化粧をする。  相撲の当日は、仁寿殿で行われた。朝の陪膳役には仁寿殿の女御、昼の陪膳役には承香殿の女御、夜の陪膳役には式部卿の女御があたった。更衣が10名、禁色を許

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#6(改)

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#7

          これは最初に#6としてアップしたものですが、前段を挿入したので、タイトルの番号を変更しました 帝、涼と仲忠に弾琴を所望される訳  管弦の催しは際限なく続く。 帝「近年父嵯峨院の御代においても、また私の治世においても、特にこれという行事は行われなかったが、そうはいっても、今の大将たちは、ほかの者たちよりも優れておるので、その気配りはたいしたものだ。今回の催しについても、今少し趣向を凝らして、あの吹上で行われた重陽の節会に等しい相撲の節会としたいものだ。『仁寿殿の相撲の節、吹

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#7

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#5

          仲忠、正頼にあて宮の琵琶を称賛して語る訳  こうして宴も進み、管弦の演奏が始まる。様々な楽器を奏でられるなかで仲忠が申し上げる。 「私は幾度か箏の琴を他の楽器に合わせて演奏したことがありますが、先日藤壺で演奏した時ほど楽しかったことはありませんでした。あの姫君(あて宮)は琵琶を合わせて演奏なさいましたが、それを拝聴しておりますと、俗世のことなどすべて忘れてしまうほどでした。今、琵琶の第一人者は良少将(良岑行政)ですが、彼とも度々合奏させていただくときもありますが、その少将で

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#5

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#4

          兼雅、正頼を訪れ、相撲のことを語り合う(本文・訳 省略)  ある日、右大将(兼雅)は左大将(正頼)宅を訪問し、来たる相撲の節会についての相談をします。見所のある節会にしようとの朱雀帝の言葉をうけ、二人は知恵を絞ります。どれだけ有力な相撲(選手)を集められるかでお互いに腹を探り合いつつ、やがて話は女性たちからもらった手紙へと移ります。 正頼、兼雅、昔の女の消息文を比べる訳  盃を何度か酌み交わしては、 右大将(兼雅)「このお屋敷にまいりますと、昔は何やら恥ずかしく思ったもの

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#4

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#3

          正頼と大宮、娘たちの婿について話し合う 訳 左大将正頼と妻の大宮の会話  左大将「仁寿殿の女御といろいろ話していたところに帝がお渡りになって『ここにいたのか。話し相手になってくれ』とおっしゃるものだから、帝のお側に集まりいろいろ話していたところ、すっかり夜が更けてしまった。」  大宮「それは、それは。で、藤壺(あて宮)はどんな様子でしたか。」  左大将「上局にいらっしゃったよ。特にお変わりはないようで、いつものように演奏をなさっていたよ。仲忠の中将が御簾のそばで箏の琴を

          宇津保物語を読む9 内侍のかみ#3