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宇津保物語を読む9 内侍のかみ#5
仲忠、正頼にあて宮の琵琶を称賛して語る
かくて、御遊び、よろづのものの声かき合はせて遊ぶ時に、仲忠聞こゆる、
「仲忠、ここばくの箏の御琴など、ものにかき合はせて仕うまつる中に、一日藤壺にて仕うまつりしばかり面白きなむ侍らぬ。かの姫君、琵琶合はせて遊ばしし、承りしに、世間のことこそ思ほえざりしか。ただ今の琵琶の一は、良少将こそ侍めれ。それにも合はせて度々仕うまつる時侍れど、えかの手にも出ださぬ手をなむいとめづらかに遊ばしし。あやしかりしはをさをさものの音に合はせがたくせらるるなむ、よになく仕まつりしを、かくして仲忠が上手苦しき手をこそになく弾き合はせたまひしか。それを、かの遊ばす琵琶の飽かず覚えはべりしままに、やむごとなき節会のために残してはべりし手どもを、残さずなむ仕まつりし」。
あるじのおとど、(正頼)「まことに、戯れにてもそこに遊はす箏の琴、あやしくいささかにてもかき合はせ違ひなどもせずと聞きたまへし琵琶なり。さるは、女のせむにうたて憎げなる姿したるものなり。殊に習ふなども見えざりきや。いかでするならむ。まこと、その日そこにやはかはに書きたる文の御懐より見えしを、せちに惜しまれしは誰がぞ。正頼そればかり見たまへまほしきものこそなかりしか。誰がぞ」とのたまへば、
仲忠がいらへ、「あらず。里より要事のものしたまひしなり」。
あるじのおとど、(正頼)「いで、この空言なせられそ。なでふ里よりはさやうの御文は奉れたまはむ。心ばへあるべくこそ見えしか。いとしるかりきや」。仲忠うち笑ひて、
(仲忠)「紙をこそはとりあへず侍りけめ。仲忠はさらに生ひの世に空言をなむ知らずはべる」。
おとど、(正頼)「これを初めにて習ひたまふにこそはあめれ」などのたまへどいはず。
訳
こうして宴も進み、管弦の演奏が始まる。様々な楽器を奏でられるなかで仲忠が申し上げる。
「私は幾度か箏の琴を他の楽器に合わせて演奏したことがありますが、先日藤壺で演奏した時ほど楽しかったことはありませんでした。あの姫君(あて宮)は琵琶を合わせて演奏なさいましたが、それを拝聴しておりますと、俗世のことなどすべて忘れてしまうほどでした。今、琵琶の第一人者は良少将(良岑行政)ですが、彼とも度々合奏させていただくときもありますが、その少将でさえ奏でることの出来ない手を姫はすばらしく演奏なさいました。さらには、名人でさえなかなか合わせることが難しい、高難度の私の演奏に、難なく合わせたのにはたいそう驚きました。その琵琶の演奏があまりにもすばらしいので、特別な節会のために取っておきました手なども、ついつい残らず披露してしまうほどでした。」
左大将「そうでしたなあ。あなたの箏の演奏に少しも外さずに合わせていたのは、私もきいていて感心しました。それにしても、琵琶というのは女が演奏するには不格好に見え、またたいそう難しいので、あまり普通の女子は弾かないものです。ですからあの子が習っていたとも聞いておりませんでしたが、どこで習ったのでしょう。」
左大将「それはそうと、その日、はたからでも恋文とわかる文があなたの懐からチラリと見えておりましたのを、私が何度お願いしても、決して見せてくれませんでしたね。あれはどなたからの文ですか。私はそればかりが気になって仕方がなかったのです。教えてくださいよ」
仲忠「そんなんじゃありませんよ。実家から急用があって送ってきた手紙です。」
左大将「いや、嘘おっしゃい。どうして実家からあんなしゃれた手紙が送られてくるのです。ずいぶんと心がこもっているように見えましたよ。恋文であることは明白。」
仲忠「あり合わせの紙で書いてよこしたのですよ。私は生まれてこの方、嘘を申したことはありません。」
左大将「じゃあ、これが初めての嘘というわけですな。」などとずいぶんと絡んでくるが、仲忠は口を割らなかった。
仲忠とあて宮の合奏と、懐の手紙については、左大将と大宮の会話でも触れられていた。
まああて宮からの手紙で間違いないでしょうな。
音楽を通じた心の触れあい。
高度な技をお互いに駆使してのピタリと息のあったセッション。
「結婚」という駆け引きがなくなって、あて宮も自然と素直な心を出せるようになったのでしょう。
しかし、これで何組目でしょう。不倫もどきのペアリング。
やはり、これがこの巻のテーマか?
兼雅、雎鳩を射止め、正頼の情に感ずる
(本文・訳 省略)
宴はすすみ、弓の余興となり、庭のマサゴを射止めることとなった。左大将はわざと負け、右大将に馬を贈る。右大将も鷹を返礼として贈り、その日の宴はお開きとなる。
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