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【書評】ジョン・リード「世界を揺るがした10日間」(光文社文庫)

 1917年、ロシア革命が勃発し、史上初の社会主義政権が誕生しました。アメリカのジャーナリストであるジョン・リードが、ロシア革命の模様を記録したルポルタージュが「世界を揺るがした10日間」です。 

 ロシア革命は、二月革命と十月革命の二段階に分かれています。第一次世界大戦による食糧不足等を原因として首都ペトログラードで暴動が起き、皇帝ニコライ2世が退位。自由主義の臨時政府が成立しました。これが二月革命です。

 その後、レーニン率いるボリシェヴィキ(後のロシア共産党)が臨時政府を武力で打倒し、社会主義のソヴィエト政権を成立させたのが十月革命です。

「世界を揺るがした10日間」は、十月革命の模様を描いています。レーニンやトロツキーといった革命の指導者たちも登場しますが、革命に期待する無名の兵士や労働者たちの模様も活写されています。

 窓の向こうではくぐもった砲撃音が途切れることなく整然と響いており、義浄の代表者たちは互いに怒鳴り声を浴びせていた……。こうして、火砲の衝撃音と同時に、暗闇の中、憎しみ、恐れ、そして向こう見ずな大胆さとともに、新しいロシアが生まれようとしていたのである。

196ページ

 革命の指導者レーニンはこう描写されています。

 歴史上これほど敬愛された群衆の偶像(アイドル)もそうそういないはずだが、それにしては地味な印象だ。大衆の奇妙なリーダーだ――純粋に知性のおかげでリーダーになった男。華がなく、ユーモアに欠け、不屈で超然とし、気質的にとても絵になる男とは言い難い。だが深遠な考えをやさしい言葉で説明する才能があり、状況を具体的に分析できる。そして明敏な能力に裏打ちされた、とてつもない知的な豪胆さを持っている。

253~254ページ

 リードは社会主義者であり、革命側に肩入れした描写が目立ちます。その意味では、歴史を公平に記述しているとは言えないかもしれません。

 しかし、革命を実体験した者でなければ書けないものがあります。本書を読めば、ロシア革命という動乱の熱気を肌で感じ取ることができます。

 大粛清、第二次大戦、冷戦、ソ連崩壊と、ソ連のたどった苦難の多い道のりを私たちは知っています。それでも、純粋に理想郷の建設を信じて革命を牽引した人々の思いには胸を打たれるものがあります。

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