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「戦時の嘘」に描かれた戦争プロパガンダ④~新聞王の「活躍」

前回はこちら。


 第一次世界大戦時のイギリスでは、「新聞王」と呼ばれたノースクリフ卿がプロパガンダに一役買っていた。

「戦時の嘘」で紹介された手法

 ポンソンビーの「戦時の嘘」の中でも、ノースクリフの「活躍」はしばしば言及されている。彼は、ドイツ軍人の文章を引用する形で、ノースクリフのやり口を紹介している。

「前線におけるノースクリフの手法は、飛行士を通じて、多くのリーフレットやパンフレットを継続的に配ることである。最も恥知らずな手段は、ドイツ兵の手紙を偽造することだった。冊子やパンフレットがでっち上げられ、そこにはドイツ人の詩人や作家、政治家の名が騙られている。あるいは、ドイツで印刷されたかのように見せかけられており、例えばレクラム出版(ドイツの出版社)のタイトルを持っている。実際には、一つの目的に向けて日夜働いているノースクリフの印刷所から来たものだ。思慮深い人々にとっては露骨に見えるが、彼の意図と狙いは、これらの偽物が、自己を顧みない人々に、一瞬でも疑いを引き起こすことである。また、彼らのリーダーや、彼ら自身の力や、ドイツの無尽蔵の資源に対する自信を打ち砕くことである」

(Ponsonby;1928,P17)

戦時に流布する嘘の類型

 ポンソンビーが「戦時の嘘」で紹介している事例は多岐にわたる。序章において、ポンソンビーは第一次世界大戦中に広められた嘘の類例を列挙している。

 創意に満ちた頭脳が、故意にでっち上げた嘘。証拠を欠いているにもかかわらず、人々が繰り返し口にするため広まっていく嘘。わざとでない場合もあるが、たいていは故意の誤訳。
 噂話に始まり、繰り返し語るうちに拡大し、集団ヒステリーのうちに精巧になった嘘。公式の文書を紹介する際の省略。事実の隠匿。嘘の写真。プロパガンダ映画。残虐行為についての嘘。当てにならない証言から広まった噂。半分は嘘で半分は本当、というケース。大衆の怒りを利用した政府の嘘。敵国民への侮辱。世間とは違う態度をとる者への攻撃。ある国が別の国に悪事を働いたという告発――(Ponsonby;1928)

 「戦時の嘘」に収集された膨大な「嘘」のうちのいくつかを紹介していこう。さらに、「戦時の嘘」の記述にも実は問題点があることも後の章で触れていきたい。

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