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(番外編)「もののけ姫=後醍醐落胤」説から何を学ぶべきか

先日、Twitterでこんな投稿が話題になった。

5月29日現在、始まりのtweetには13万以上のいいねを集めており、「凄い考察」「感動した」といった反応がよせられている。

遊びや冗談として楽しんでいる人なら大丈夫だ。しかし、もし本気で上記の考察に感動したなら、貴方は詐欺や悪質商法の被害にあったり、デマを意図せず拡散したりする可能性が高いので、十分注意されたい

「後醍醐落胤説」の突っ込みどころ

こういった偽史や都市伝説、トンデモ説の類は、「事実の誤認」「論理展開のおかしさ」を(たいていは両方)含んでいる。本事例も同様だ。

①事実の誤認

後醍醐天皇の即位年は、元応元年(1319年)ではなく文保2年(1318年)である。後醍醐天皇の即位年とサンの生年の一致から関係を見いだそうという論理は、ここで破綻する。

また、サンの年齢が15歳ということから、1334年から15を引いて生年を1319年としている。もっとも、これは満年齢での計算だ。前近代を舞台とした作品なので、年齢も数え年にしている可能性が高く、その場合のサンの生年は1320年となる。後醍醐天皇即位の年からはますます離れてしまう。

(なお、私は「もののけ姫」に詳しいわけではないので、「そもそも時代設定は本当に1334年なのか」については掘り下げない)

②論理展開のおかしさ

冷静に考えてみれば、サンの生年と後醍醐天皇の即位年が一致したとして(実際は一致すらしていないが)、両者に関係があるということにはならない。関係があったとして、血のつながりがあったとするのもおかしい。

即位することになったから、隠し子を作ろうとしたのだろうか。

なぜ大勢の人がのせられた?

もっとも、私はツイ主の方を「デマを振りまく悪人だ!」と告発したいわけではない。彼は講談師であり、大言壮語をさも本当かのように語るプロである。その技能を使って人々を楽しませただけの話で、倫理的に悪だとは思っていない。

むしろ、上記のような穴だらけの「考察」が、なぜあれほど「ウケて」しまったのかに興味を抱いている。

それは、驚嘆すべき「かたりの技術」によるものだろう。

①「○○という説」で始めている

「エボシとサンが母娘であるという説がある」という始め方が巧みだ。別に公式設定ではないのだが、「説がある」と書くと、何か客観的な裏付けがありそうな説得力がある(実際には、客観的な裏付けがあるとは限らない)。

②論理が怪しくても畳みかけるように語る

全体の語り口は、次々と畳みかけるようで、相手に考える隙を与えない。相手に考える時間があれば、変だと気付けるとしても、その暇がないので騙せてしまうのだ。

優れた歴史作家は、史実と虚構の境目をあいまいにしてしまう。それに似た「かたり(「語り」であり「騙り」)」の技術を持っているといえよう。

トンデモ説を見分ける目を鍛えよう

もののけ姫がどうこう、というのが広まったとして、実害はないだろう。しかし、世の中にはエセ医学をはじめ、健康被害のような実害をもたらすトンデモ学説が横行している。

すべての人が騙されたり、嘘を拡散したりするリスクがある。いい加減な情報に踊らされないためにも、上記で紹介した「かたりの技術」を知っておくことは有益ではないだろうか。


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