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【書評】立石博高『スペイン史10講』(岩波新書)

 大航海時代の主役となり、「太陽の沈まぬ帝国」を築いたスペイン。きわめて興味深い歴史を持っていますが、イギリスやフランスなどと比べると通史に詳しい人は少ないかもしれません。

 本書は250ページほどのコンパクトな新書ですが、原始時代~21世紀までのスペインの通史を扱っています。駆け足のため人名・事件名の羅列になりがちな箇所もありますが、スペイン史の入門としては最適だと思います。

文明の十字路だったイベリア半島

 スペイン史の展開には、地形的・地政学的特徴が深く関わっています。
 ヨーロッパ大陸の西端で、アフリカ大陸と目と鼻の先という関係から、キリスト教勢力とイスラーム教勢力がせめぎ合う場でした。

 8世紀、イベリア半島はジブラルタル海峡を渡ったウマイヤ朝に征服され、イスラームの勢力下に入りました。イスラームは寛容な宗教であり、キリスト教・ユダヤ教の信仰も認められていました。
 しかし、キリスト教徒やユダヤ教徒は人頭税を負担するなど、あくまでムスリムより格下の立場でした。

 スペインはその後、レコンキスタによってキリスト教徒が奪還しますが、異なる文化を持つ住民たちの扱いには苦慮しつづけました。異なる価値観をどこまで受け入れて共存できるか、これは現代にも通じるテーマです。

「地域複合国家」スペインの苦闘

 イベリア半島は山がちな地形のため統一権力が出現しにくく、さまざまな言語や文化が発達しました。
 1469年、カスティーリャ王国の王女イサベルとアラゴン王国の王子フェルナンドが結婚。両王の共同統治によるスペイン王国が誕生した――と、高校の世界史では習います。
 しかし、この時に統一国家が出現したわけではありません。共通の王を戴く「同君連合」にはなっても、法や制度が統一されるには長い時間がかかりました。

 それぞれの地域では自治や自立を求める考えが強く、近代的な中央集権国家をつくりたい統治者は苦労を抱えました。19~20世紀にかけても政治的に不安定で、1930年代には悲惨な内戦を経験しています。

 最近話題になったカタルーニャの独立運動、独裁者フランコ時代の抑圧の記憶など、現代スペインは多くの課題を抱えています。

 多様性の担保、過去の克服――これらは日本に生きる私たちにとっても無視できないテーマです。

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