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江戸初期の高僧が行った「科学実験」

 沢庵宗彭(たくあんそうほう、1573~1645)は、江戸時代初期の臨済宗の僧侶です。漬物のたくあん漬けを考案した(または広めた)ことで、その名の由来になったと言われています。

 高校日本史の学習としては、後水尾天皇と江戸幕府が対立した紫衣事件(1629)により、出羽国に流罪になったことが知られます(後に赦免)。

 高僧として有名な沢庵ですが、実は極めて科学的な思考法を身に着けていました。彼は、何と日本で初めて実験により「空気」の存在を証明した人物です。

空気の存在証明①

 沢庵の時代には、もちろん現代でいう「空気」の概念はありません。沢庵は、儒学で重視された「気」の存在を、誰でも分かるように説明しようとしたのです。

 沢庵の著作に「沢庵理学捷径」というものがあります。その中では次のように説明されています。

「桶の底に火のついた炭を貼り付け、逆さにして水の中に入れる。まっすぐ押し込めば、火は消えない。これは、桶の中に”気”が充満しているからである。桶を傾けると、”気”が逃げて水が入り、火が消える」

空気の存在証明②

 沢庵の「東海夜話」という著作にも次のような説明があります。

「子どもは竹鉄砲と名づけて、竹の筒に紙を詰め、もう片方からまた紙を詰めて押し込むと、弾が発射される。これは、先の玉と後の玉の間に”気”が満ちているからだ」

「空気」を知った日本人

 江戸時代後期になると西洋の学問(蘭学、洋学)の研究が進み、日本人はかなり進んだ科学にも触れるようになります。

 幕末の蘭学者で、「化学」という言葉を初めて使った川本幸民(1810~1871)の著書「気海観瀾広義」では、空気のことを「大気」と呼んでいます。空気には色・匂い・味がない、空気がなければ動植物は生きていけない、風は空気の流れである、などの記述があります。ほぼ現在の小学校の理科の教科書と変わらないレベルです。

https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ni03/ni03_01391/ni03_01391_0008/ni03_01391_0008.pdf

 江戸時代初期の段階で、「空気」の存在について実証した沢庵の先進性には驚きを禁じ得ません。

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