マガジンのカバー画像

コラムなど

30
自由律俳句や現代詩、雑感など
運営しているクリエイター

#小説

むかしの詩

◇さざなみ

午後の宝石に少女はくるまれ身ごもる

ウルトラグリーンの斜面に

秋の最後の虫の声の

ささやかなひび

塔の客はまだ

来ない

◇分裂地帯

夏の夜は子どもの時間

眠りの奥の細胞分裂は

かすかにきしむ虫の声

女たちはオセロを休み

小さくあくびする

(観察は慎重に…)

現れては消え

浮かんでは沈む

みんなが何度も場所を

変えながら

短い執行猶予を

楽しんでいる

もっとみる

だれかの童話

伝記を書こうとすると

思いだす風景がある

住宅地に池がある

街灯で照らされている

ゆっくり話す女は少なく

池の主はいないわよ

咲いているつつじに蜜蜂は

くるのだろうか

蜜蜂に刺された

母が育てていたばらのなか

下唇を刺して蜂は死んだから

ずっと呪文は四捨五入中である

むかし落とし穴を掘りながら思いついた

ある青年が洋館に招かれて

少年の家庭教師を頼まれる

「あなたの役

もっとみる

釣る少年

 小学生のころ、近所に水門があった。←のように三本の用水路が合流するところをせき止めていた。狭い道沿いだった。流れはゆるやかで、水門の全開は見たことがない。下の方はわずかに開いているようだが、だいたい水門の前は幅10メートルほどの水たまりになっていた。晩春から秋のはじめにかけ、大人も子どもも集まり釣りをしていた。釣り堀のようだった。僕たち兄弟もそうだった。あまり釣れた記憶はない。

 弟の一学年上

もっとみる

暴力リリー

終点のバス停で降りると

青と白のしましまTシャツの少女が

大きいでしょうと

ダルマアルマジロのはく製を売りつけようとしてくる

横にいる男の子はパーカーで

弟だろうかガムをかんでいる

終点といっても掘立小屋があるだけで

ふたりのむこうに海が見える

まとまわつく女の子をほどこうとするが

なかなかすばやいししつこいしあせくさく

ザャザャギャッギョと叫びながら

Tシャツには赤いしみが

もっとみる

好きな作家③西村寿行

政財界の大物などのインタビュー記事があるじゃないですか。だいたい「好きな作家は?」「愛読書は?」なんて質問項目もあります。歴史小説や社会派サスペンス、古典、思想書が多いですよね。生き方や哲学を語るうえで、分かりやすいというか便利なんでしょう。

そんな中、思うことがあるんですよ。「好きな作家・西村寿行、作品・鯱シリーズ」なんて答えてくれる人がいれば、もう尊敬ですよ。一生ついて行きます(かもしれない

もっとみる

好きな作家②藤枝静男

ツイッター上で自分の自由律俳句について「でたらめ宣言」なるものをしたことがあります。これは藤枝静男が対談の中での発言「でたらめにも、なんらかの意味がある」(←うろ覚えですが)に、とても納得したからです。感銘といってもいいほどです。

自分は一時期、私小説をよく読んでいました。疲れていたのかもしれません。他人(文士)の生活をのぞき見して、自分のほうがましだな、と思いたかったのかもしれません。近松秋江

もっとみる

いぬもどき

トムのTシャツ。まだしんせんなドラム缶。ペンキのにおい。淡水エイの切り抜き。汚いほど大きい木の下に野良犬が三匹。のびをしたり、たがいの匂いをかいだり、鼻はかわき、ろっ骨は浮き出ている。妹は青、赤、黒とよんでいる。風にあおられたときに見えた地肌の色で区別できるらしい。でも一匹はいぬもどきかもしれないわ。石をぶつけたこともある。犬の片目から虫が落ちてきた。野良犬は食べてしまった。はらがへっているようだ

もっとみる

うた

この断崖はいつから続くのか

母が始まってからずっとである

最後に残るのは

男か女か賭けないか?

さざなみは呪われる

終わりがあるのに可哀そうだ

波打ちぎわに三匹のウミウシ

ホシガタウミウシ

サンカクアメフラシ

シゴセンホロボシ

をつつきながら

羊水の残高を確かめる

モウチョウを手術した

バランスはどうでしょう

雨の日は違和感があるから

綱渡りしてみよう

ちょうど広場

もっとみる