好きな作家③西村寿行

政財界の大物などのインタビュー記事があるじゃないですか。だいたい「好きな作家は?」「愛読書は?」なんて質問項目もあります。歴史小説や社会派サスペンス、古典、思想書が多いですよね。生き方や哲学を語るうえで、分かりやすいというか便利なんでしょう。

そんな中、思うことがあるんですよ。「好きな作家・西村寿行、作品・鯱シリーズ」なんて答えてくれる人がいれば、もう尊敬ですよ。一生ついて行きます(かもしれない)!

最初の西村寿行体験は「魔の牙」でした。まぼろしのニホンオオカミに取り囲まれ、絶望の山中で、本能むき出しのまま生きようとする登場人物。設定は高校生の自分にも面白いものがありました。でも、それ以上に興奮したのは「濡れ場」でした。人間は追いつめられると、ここまで獣になるのか―なんて深いことは考えませんでした。刺激が強すぎましたね。

はまる作家じゃないと思いながら、次になぜか買ってしまったのが「老人と狩りをしない猟犬物語」。これにはやられました。野生との死闘、動物との交流、異世界との交錯…。西村寿行作品のバイオレンス性(とくに女性の扱い方)に眉を顰める人は多いでしょう。でも、この作品を読めば、印象はかなり変わると思います。ファンタジックな世界も西村寿行の持ち味なのです。

「鬼」もよかったです。伝奇小説として楽しめますし、西村寿行のハードバイオレンス、というかハードポルノも満喫できます。 

「鯱」「鷲」といったシリーズものや、「滅びの笛」「蒼茫の大地、滅ぶ」といったパニックものも嫌いじゃないですけど、前述した三作品はとくに思い出深く、お気に入りの小説です。 

閑話休題。自分の知り合いでアルコール依存症の漁師さんがいました。病院でふと、彼が手にしている文庫本が見えました。西村寿行の本でした。「こいつは酒好きだったんだよな。だから西村寿行の本は全部読んでいるよ。この本も何度も読んだな」。口数はすくなく、どこか寂しそうな人でしたが、うれしそうに西村寿行と自分の“共通点”を語ってくれました。この漁師さんは、風の便りで、孤独死したと聞きました。

自由律俳句とまったく関係ないですね。自分の俳句にも、まったく影響されていません。でも「好きな作家」シリーズには外せない作家として取り上げました。青春時代の作家でありました。

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