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不登校先生

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2021年の春に「うつ病」になりました。 15年間小学校の講師として働き、 この年もそのまま働くだろうと思っていた時に 突然自分にやってきた「うつ病、退職、療養の日々」について、…
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#私小説

不登校先生 (1)

不登校先生 (1)

・・・・まもなく、貨物列車が通過します

      黄色い線の内側にお入りください・・・・

まもなく、貨物列車が通過します・・・・・

    ・・・黄色い線の内側にお入りください・・・

沈み始めた夕焼けの色が、貨物列車の赤色と重なる美しさで、

「もう思い残すこともないな、この駅に」

そんな思いが湧いてきて、体がどう動いていたか、覚えていない。

赤が紅になって、目の前一面が真っ赤になり

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不登校先生 (14)

不登校先生 (14)

それでも時間は流れる。

何にもしなくても、時間は流れる。

こんな状況になって、何にもしない時間。

それでもそんな時間も、止まってはくれない。

朝になるとカーテン越しでも真っ暗な部屋は薄暗がりになり、

昼を過ぎると、紺のカーテンを突き抜けて日差しは入り込んでくる。

夕方になると部屋はオレンジ色に染まり。

夜になれば真っ暗な闇が、部屋中を占拠する。

そんな一日を、ただ、何もせず、眺める

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不登校先生 (15)

不登校先生 (15)

助けてくれたのはもう一人の自分だけか。

実際に、一人でここまで何とか踏みとどまるのは、

本当に一人だけでは、無理な事だった。

3人の親友。

3人の親友に助けられた。落ちそうになる自分の腕を

引っ張り上げて落ちていくのを何とか救ってくれた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一人目のゆかさんは、僕に心療内科を紹介してくれた親友。

昨年度1年間一緒の学校で働いた、栄養教諭の

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不登校先生 (16)

不登校先生 (16)

救ってくれた二人目の親友は、ケンちゃん。

大学時代の同級生で、こちらは20年来の付き合いがある長い友人。

ケンちゃんは僕と同じく、学校の現場で働いている教員だったが、

僕が病んで不登校になる半年前に、

赴任校の管理職からのパワハラで、相当なストレスの末、

うつ病診断で病休→休職中の、不登校先生仲間でもあり、

不登校の先輩でもあるともいえる親友だ。

「ホームから飛び込みそうになったよ。

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不登校先生 (17)

不登校先生 (17)

不登校先生になっちゃうかもしれん。

家に帰って最初に冷静に電話をかけたのは、

実は、ゆかさんでもなく、ケンちゃんでもなく、3人目の親友。

たてなくんだ。

彼は大学生時代に出会った親友。説明するとなんだか不思議で縁深い。

大学時代は一つ下の後輩だった。

学部は違ったのだが、僕がアルバイトをしていたコンビニエンスストアで

深夜勤務をしていた同僚の部活の後輩でもあり、

アルバイトの後輩と

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不登校先生 (18)

不登校先生 (18)

無気力になった僕が、かろうじて毎週1回の診察と、

校長先生への連絡ができたのは、だいぶ元気を回復して、

振り返ってみると、

なかなかに頑張ったなと思ってしまう。

無気力の状態でも、かろうじて僕を日常とつないでいてくれたのは

わずかばかりのスケジュールと、

もともとの自分の神経質のせいなのかもしれない。

行く気も起きないなら、病院にすらいかなかっただろうし、

校長先生への連絡も、どん

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不登校先生 (19)

不登校先生 (19)

二回目の診察、そして病休生活は本格的に。

二度のゴミ出しを数えて、もう学校は始まっている8時半過ぎに

ようやく、自転車に乗って家を出る。

行き先は、初診を受け付けてもらえた心療内科だ。

初診後の一週間、とにかく、何もできなかった。

ひとまずの管理職への連絡と、病休開始申請のための診断書の提出

それだけが終わると、もう、何もする気が起きない無気力状態と、

眠いのに寝付けないの繰り返しで

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不登校先生 (20)

不登校先生 (20)

薬の効果は絶大で、でも一時だけのものだった。

処方された日、正直もう病院に向った時から、

すごく眠いのに眠れない。

朝まで起きていたのかねていたのかわからない。

そんな状態だったので、

家に帰りつくや否や、台所で、処方された薬を飲んだ。

喉は大きい方だが、それでも割らないと飲めない位の大きさで。

ガリッ、ガリッ。と口の中で3かけらに割ると、

一気に飲み込む。

薬特有の苦みなどはな

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不登校先生 (21)

不登校先生 (21)

ドボドボドボドボドドドド・・・・・・・・

湯船にお湯を貯めながら

ずーっと蛇口からお湯が出てくる様子を眺めていた。

二週間ぶりに入るお風呂。

あったかくなってきた時期なのに、

あの日以来。お風呂に入っていなかった。

お風呂に入る気持ちすらわかなかった。

入らなきゃという意識すら向かなかった。

そういえば、自分の体の匂いがだいぶ強い。

家に引きこもっていたとはいえ、顔も洗っていない

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不登校先生 (22)

不登校先生 (22)

お風呂に入る。日常生活の普通のことを、

自分の無気力のせいでしばらくできなかったことは。

そういうものかという納得よりも、

そんなことにも無気力は影響するのかという驚きと恐怖で、

自分自身のこれからの時間について

見通しが真っ暗なことが明瞭とされたようで、

なんだか落ちた落とし穴の深さが本当にとんでもなく深いのだということを

実感させられたような気がした。

湯船につかり、体が清潔に

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不登校先生 (23)

不登校先生 (23)

しばらく湯船でぶくぶくした後に、ようやくお風呂から上がると、

気持ちのいいさっぱり感は、何とも言えない心地よさで、

ああ、なんだかちょっと生き返ったな。

そんな気持ちを久しぶりに自覚できた。

全身をバスタオルでよく拭いて、ユニットバスの湿った壁も

体をふいた後に、良く拭き上げて水滴をしっかりとって。

【お風呂の湿気には気を付けて。】

アパートに入った時にもらった注意事項に書いてあった

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不登校先生 (24)

不登校先生 (24)

よく眠れた心地よさ、眠っている間の汗の気持ち悪さ。

お風呂に入ろうという気持ち。お風呂が気持ちいいという感覚。

お腹が減った音、何か食べようと思う食欲。

考えなくても勝手に湧いてきた生きるために必要な、

心のデフォルトさえ、砕け散っていたことに改めて気づかされた。

睡眠を促す薬によって、2番目にひどい状態から、

はいつくばってもう一段。

心の再構築にたどり着けた気がした。

「薬の効

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不登校先生(26)

不登校先生(26)

船長と、姐さんからの、励ましの連絡があった次の日。

4月も末になると、心配してくれる方には何かしらの形で

自分の現状は明るみになっていく。

『先生お元気ですか?先日先生が移動された学校に行ったのですが、

 お休みされているということでいらっしゃらなかったので、お体の具合が

 よくないのかと心配しています。大丈夫ですか?』

4年前に受け持たせてもらったお子さんのお母さんからの連絡だった。

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不登校先生 (27)

不登校先生 (27)

毎朝5時ごろに、

ショートメールが入る。

「ととろん、おはよう。」

一言のショートメール。

母からだ。

人生で、自分が本当にどうしようもなくなった時に、

親に自分の生き恥をさらけ出せるかどうか。

実はけっこう大きな問題で。

それは自分によるところではなく、親の側の感覚によるところも大きくて。

高校入学から親元を離れて27年。

それでも何か一番つらいときに僕は、

母に必ず伝えて

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