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不登校先生 (19)

二回目の診察、そして病休生活は本格的に。

二度のゴミ出しを数えて、もう学校は始まっている8時半過ぎに

ようやく、自転車に乗って家を出る。

行き先は、初診を受け付けてもらえた心療内科だ。

初診後の一週間、とにかく、何もできなかった。

ひとまずの管理職への連絡と、病休開始申請のための診断書の提出

それだけが終わると、もう、何もする気が起きない無気力状態と、

眠いのに寝付けないの繰り返しで、今が現実なのや夢なのかわからない

朝七日夜なのかもぼんやりしている日々。

冷蔵庫には、病む前に詰め込んだ食材があるが、決まった時間に料理しよう

という気も起らず、ただただぼんやりしていて、二度目の診察日になった。

出勤時間からずらしての電車での通院の時間は、がらんとした車両で、

気になる事が少なくて済んだのはよかった。

いつもなら、学生さんや出勤の人でぎゅうぎゅうになる車内は、

ほんの2本遅くするだけで、空っぽに近い車両になるのだと、

改めて、自分が「出勤する者」ではないのだということを、

思い知らされた気分にもなったけれど。

先月までは出勤で下りていた駅で降りると、

川沿いの裏道を病院まで歩く。

裏道とはいえ、いつもはちょっとした商店街の様にお店がにぎわうのだが、

何とも中途半端な時間のようで、

シャッターが閉まっているか、開店の準備をしているか。

脇を走る電車の音がやけに大きく聞こえて、

自分の歩いている道が、なんだかおぼろげに感じた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「一週間経ちましたが、どうですか?」

「そうですね…何に対してもやる気がわきません」

「そうだと思います。その他には気になることはありましたか。」

「なんだかちゃんと眠れていないようで。」

「というと、どんなかんじですか?」

「いつ眠りについたのかそしていつ目が覚めたのかがはっきりしなくて、

 眠るぞ、と思ったときに床についても、全然眠れないのです」

「睡眠障害もだいぶ重いですね…。」

「だいぶ・・・ですか。」

「眠れたという感じはありますか?」

「いや、それが全然なくて、気付いたら現実とはちょっと違う夢を見ている

 とは思うのですが、それがそのまま気付いたら現実に戻っているような」

「なるほど、食事の方はどうですか?」

「全然食べる気が起きないのですが、3日くらい何も食べていない状態に

 気付いてから、何とか冷蔵庫のものを口に入れるようにはしました。」

「おなかの調子とかは大丈夫でしたか?」

「いや、たぶん、何も口にせずに、処方してもらった薬を飲むと、

 お腹がキリキリといたくなったので、それだけはつらいと感じて、

 何とか、薬を飲むために食事もしなければ、とそんな感じです。」

「食事自体は、ちゃんとのどを通りますか?」

「なんとか、おかゆみたいな感じにして、すすっていますが。」

「そうですか・・・・では、今日の診察の時に、

 一番伝えておこうと思ったことは何ですか?」

「・・・・・やっぱり睡眠ですかね。ちゃんと眠れていない感じが。」

「わかりました。では先週処方したうつの薬とは別に、眠りやすくなる薬を

 処方しましょう。眠る前で大丈夫ですので、飲まれてください。」

二回目の診察で、薬が二種類に増えた。

診察後、歩いて駅まで戻る間に、校長先生に連絡を入れる。

主治医の先生にお話ししたことと同じく症状、処方された内容も報告する。

「まずは、しっかり睡眠がとれるといいですね。」

校長先生にはそう、励まされた。

駅までの帰り道、露店風のアーケード街のお総菜屋さんが目にとまる。

揚げたてのメンチカツや空揚げが山盛りになっている中で、

出来立てのお惣菜をお目当てにお客さんが並び、

おかみさんが一生懸命袋詰めして接客している。

世界は今日も、盛況に、どこかの誰かが旺盛に。

生きる、働く、買い物をする。

一人だけそんな世界から、放り出された気持ちになって。

帰りの電車のホームにとぼとぼと歩いた。

↓次話



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