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不登校先生

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2021年の春に「うつ病」になりました。 15年間小学校の講師として働き、 この年もそのまま働くだろうと思っていた時に 突然自分にやってきた「うつ病、退職、療養の日々」について、…
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不登校先生 (1)

不登校先生 (1)

・・・・まもなく、貨物列車が通過します

      黄色い線の内側にお入りください・・・・

まもなく、貨物列車が通過します・・・・・

    ・・・黄色い線の内側にお入りください・・・

沈み始めた夕焼けの色が、貨物列車の赤色と重なる美しさで、

「もう思い残すこともないな、この駅に」

そんな思いが湧いてきて、体がどう動いていたか、覚えていない。

赤が紅になって、目の前一面が真っ赤になり

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不登校先生 (42)

不登校先生 (42)

「いらっしゃいませ!3番へどうぞ!

カットのオーダーの券を買うと、その音に反応して威勢の良い案内の声。

もう10年以上お世話になっている、1000円カットの理髪店。

いつも短髪もしくは丸刈りでお願いするけれど、

ここで顔そりと洗髪までしてもらうのが、一番気持ちがいい。

オールで1800円。月に一度は髪を切りたい気持ちになる僕には、

ありがたい値段とサービスのお店だ。

だが今回は4か月

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不登校先生 (44)

不登校先生 (44)

7月31日土曜日。

真夏の暑さが世界を包んでいるような晴天の夏日に、

礼服のスーツと、白のネクタイ。

今日は、あーさんの結婚式と披露宴だ。

あーさんは、本当に奇麗で。幸せそうで。

職場で相棒の時のあーさんの顔しか見ていなかった僕は、

「あーさんは、そっかまだ20代の女の子だったんよね。」

相棒としてのしっかり者で、頼もしいあーさんの印象が当たり前すぎて、

夫さんと一緒に式を挙げる彼

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不登校先生 (45)

不登校先生 (45)

「ではいきましょうか、ととろんさん。」

たてなくんが車で家まで来てくれた。

8月1日。日曜日。無職になった初日。

校長先生と打ち合わせて決めた今日、元職場に残った荷物を取りに行く。

荷物の量はどれくらいだっただろうか。

たてなくんの、車には、息子君もついてきてくれている。

後部座席を全部、まっ平にできるファミリータイプの車で。

果たして運べるかどうか。それぐらいの荷物だ。

僕は車を

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不登校先生 (46)

不登校先生 (46)

「荷物は、もともと置いてあった教室から廊下にまとめておきました。

 あと、ととろん先生の退職について、昨日付で辞令書が出ているので

 お渡ししますね。」

辞令書を受け取ると、初めて正式にもらったその内容は

【退職について承認する。】

という簡単なものだった。

「ありがとうございます。」

受け取ると、たてなくんと、たてなくんの息子君と3人で、

荷物を車に運び込む。自分で考えていたより

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不登校先生 (47)

不登校先生 (47)

「ととろんのおじちゃん、またね。」

「じゃあ、ととろんさんまた夏休みの間に顔見に来ますね。」

たてなくんとたてなくんの息子君は、

自宅の部屋の中に荷物を運びこむところまで付き合ってくれて、

帰って行った。本当にありがとう。

運び込まれた荷物を見る。隣の部屋の半分3畳ほどを占めている。

本当に、沢山あったなぁ。しみじみと眺める。

あの時使ったもの、あの時楽しんだもの、ほぼ毎日使っていた

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不登校先生 (48)

不登校先生 (48)

「ととろん先生、お加減大丈夫ですか?」

そんな連絡があったのは、退職の数日前。7年前に受け持って、

卒業して送り出した教え子のSちゃんからだった。

毎年暑中見舞いと年賀状を受け持った教え子には送らせてもらっている。

その時に、何かあった時に思い出したならと連絡先も載せているのだが、

このSちゃんは、本当に、賢く、そして前向きな子で、

卒業した後も、中学校で生徒会長をしたり、高校生になっ

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不登校先生 (49)

不登校先生 (49)

うつの状態で退職する。

はっきりと、退職を決めた時から、頭に居座り続けている問題。

やはり生活のためのお金の問題だ。

非正規で15年、ここまで給料で貯金などはできたことはない。

先月までの給与と、夏の賞与だけが、今の手持ちの全財産。

月末までに引き落とされるものが引き落され、

このまま何もしないでおくとあと2か月、持たない。

まずは、自分の状態で出来ることを一つずつ、抜かりなく。

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不登校先生 (52)

不登校先生 (52)

一枚のはがきの繋がりが、自分を助けてくれるかけがえのない繋がりになる

そんなことを、今年ほど感じたことはなかっただろう。

退職をして、自分の生活を維持する準備もあらかた整理がついてきた頃、

Sちゃんのお母さんから、3度目の畑のお誘いがある。

退職直後の週に、二度一緒させてもらってから、

3週間ほどたったお盆明けの八月下旬。

台風などもあり気になっていた畑へのお誘いが嬉しくて、

待ち合

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不登校先生 (53)

不登校先生 (53)

「ととろん兄さん、お久しぶりです。先生ご退職されたんですか?」

8月の終わりの頃、懐かしい人からLINEが入った。

船長や、姉さんと過ごした一番楽しかった職場で、二度目の同僚になった

のりちゃん先生からの、LINEだった。返信でなく電話をかける。

「うん、退職したよ。だいぶ心をやられてね。今月から無職だよ。」

「いや、インスタに、季節外れな引っ越しの写真が上がっていたので。でもよく見たら

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不登校先生 (64)

不登校先生 (64)

「ととろんは、帰ってきてみんなで話をしている時も、ずっと子どもとのことしか話をしないから、心配していた。ととろんは人生の100%を教員の仕事に注ぎ込んでいるから、今回のようなことになると大きく折れてしまうんだよ。」

帰郷二日目、たけっさんと足を運んだのは、

高校時代3年間担任だった恩師の家。

恩師の体調の話などを伺ってから、

今年の状況について聞いてもらうと、そのような応えが返ってきた。

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不登校先生 (65)

不登校先生 (65)

「ととろんくん、おかえりー。私はなんも変わってないでしょ。」

帰郷の三日目。日曜日と勤労感謝の日の間の平日。

たけっさんは、有休をとってくれて、僕のやりたかったことの予定に

一日付き合ってくれた。本当にありがたい。

恩師に会うのと同じくらいに大事な、今回の帰郷のイベント

【母校の小学校に行く】

たけっさんの住んでいる鹿児島市から、薩摩川内市へ。

僕が子どもの頃は、川内市だったが、合併

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不登校先生 (68)

不登校先生 (68)

鹿児島から帰宅すると、いつもの自分の部屋では、

やはり2時間おきに目が覚めてしまう。

それだけ、鹿児島での自分の心の状態が良好だったのだなと、

改めて実感しながらも、やはり帰郷で心の回復度合いはぐんと上がった。

友と、その家族に、感謝しかない。

そんな感謝の気持ちを、心が生み出せるようになってきたところで、

もう一つ、足を運ぼうかという気持ちになったのは12月の半ばだった。

4月に病

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不登校先生 (69)

不登校先生 (69)

「若先生のおかげで、本当に回復の具合が格段に良くなりました。」

「いえいえ、ととろん先生が、しっかり療養に専念しようと取り組んでいるからですよ。」

揉んでもらいながら、若先生と交わす会話には、

日常のことを話すこともあれば、体調のことを伝えることもある。

「で、最近睡眠とかはどうですか?」

「それがですね鹿児島から帰ってから、眠剤を全然飲んでないんですよ。」

「おお、それはすごくいいで

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