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不登校先生 (69)

「若先生のおかげで、本当に回復の具合が格段に良くなりました。」

「いえいえ、ととろん先生が、しっかり療養に専念しようと取り組んでいるからですよ。」

揉んでもらいながら、若先生と交わす会話には、

日常のことを話すこともあれば、体調のことを伝えることもある。

「で、最近睡眠とかはどうですか?」

「それがですね鹿児島から帰ってから、眠剤を全然飲んでないんですよ。」

「おお、それはすごくいいですね。薬なしで眠れるようになっているのはそれだけ負荷なく睡眠がとれている事ですから。よかったですね。」

「はい、本当に先生たちのおかげです。」

「心療内科の先生からはなんと言われていますか?」

「いい調子ですが、ようやく療養をフラットにできる心の状態になって、回復に専念できるコンディションが整ってきたということなので、しっかり療養を続けましょうと。」

「うんうん、薬のことはどうですか?」

「先月にもらった分がまだ残っているので、止めて下さいと話して、止めてもらっているようにしています。」

「順調だと思います。僕も」

若先生が笑顔で頷いてくれる。

「ただ、やっぱりまだ2時間か3時間以内で、中途覚醒が起こるんですよね、なかなかぐっすり長時間眠ることができなくて。ただ、その中途覚醒をしても、またすぐ寝るようにはしているんですけどね。」

「ととろん先生、今は療養に専念できる状況になっているので、短時間しか眠れなかった、とか、なかなか寝付けないのはダメだと思わず、いつかは眠くなるんだから寝たいときに寝よう、くらいの気持ちでいいと思います。」

なるほど、そうか、そうだよな。

若先生のアドバイスに思いのほか納得してしまった。

短い時間しか眠れなかった、と落ち込むのではなく。

なかなか寝付けないと、焦ってなおさら眠れなくなるのではなく。

もう眠る。眠りたい。そういうタイミングで眠ればいいんだ。今は。

夜更かしであっても、昼過ぎに部屋を真っ暗にして眠り始めてもいいのだ。

考え方を少しだけポジティブに変えてもらえた施術の日から、

睡眠にルールを意識しないようにしていくと、

睡眠がぐっと長く、すっと寝付けるようになり、

時には日中、午前中いっぱいなど、リズムはずれずれになりながらも、

確実に睡眠の質が良くなった。

課題だと思っている現状に、思考が袋小路になっていた時にも、

身近な人の言葉で見方を変えることができるようになる。

若先生の言葉で、療養の仕方を改善できたのもその一つだった。

嬉しく感じるのは、自分の心が、周りの人の言葉を

しっかりと受け止められるようになってきている。

心の底の空っぽは、気付いたら沢山の人たちの言葉や助けで、

満たされてきているのを感じる。

空っぽの、腐海の底の何もない空洞の様に映っていた心の中は、

いつのまにか、美しい湖の様に、キラキラと満ちてきていた。

↓次話




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