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【街とその不確かな壁】【方舟】【泣き虫】の感想

6月は村上春樹さんの『街とその不確かな壁』と夕木春央さんの『方舟』と金子達仁さんの『泣き虫』を読ませて頂きました。今回は、その3冊の感想を書いていきたいと思います。まずは、『街とその不確かな壁』ですが、本書は村上さんが1980年に執筆された『街と、その不確かな壁』という中編小説のリメイクで、(旧作と新作のタイトルでは読点の有無が違います)1985年に執筆された『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の続編的な作品です。この新作は3部構成になっており、第1部では幻想的な世界と現実世界の話が交錯し、第2部では現実世界の話が、第3部では幻想的な世界の話が描かれています。そして、第2部では福島県にある小さな図書館の館長に就任する事となった40代の男性の主人公と、前図書館館長の不思議な老人と、コーヒーショップの30代の女性店主と、10代後半のサヴァン症候群の少年が主な登場人物です。不思議な老人と女性店主には悲しい過去がありますが、彼等はその過去を乗り越え、活力ある生活を送っています。また、サヴァン症候群の少年はその性質故に周りから疎外された生活を送っていますが、彼は本を読むのが好きで、そこに悲壮感はありません。第2部では主人公を含むこの4人が終始丁寧に描写されており、僕は本書の中で第2部が1番好きなパートでした。また、冒頭で本書は『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の続編的な作品と書きましたが、本書は世界の終わりの街を脱出した後の影の物語だったのだと思われます。そして、本書は全体を通しても飽きるところが皆無で、最後まで楽しく読み進める事が出来ました。村上さんは今年で74歳になられたそうですが、村上さんに衰えは微塵も感じられず、本書は令和の時代でも瑞々しく跳動しており、10代や20代の若者が読んでも楽しめると思います。僕は50手前のオジサンですが、本書は若者にもお勧めしたい1冊です。因みに、本書を読了後に僕の誕生日を検索してみたところ、僕は木曜日生まれでした。さて、次は『方舟』の感想です。本書はクローズドサークルミステリーもので、地下施設に閉じ込められる事となった10人の男女の物語が描かれています。閉じ込められた原因は地震の発生なのですが、その地震は地下施設を徐々に水没させて行くという更なる悲劇も招きます。その後も悪夢は続き、タイムリミットが迫る地下施設の中では連続殺人事件が発生し、それに対し主人公柊一の従兄である翔太郎が、即席の探偵として犯人を追い詰めて行く事になります。見事な洞察力で的確な推理を展開する翔太郎ですが、以外な結末が彼等を待ち受けます。本書はオチが秀逸過ぎて脱帽ものでした。このオチは今年読んだ本の中で1番の衝撃であったので、多くの小説ファンにも、この衝撃を体験して欲しいと思います。ですので、本書も皆さんにお勧めしたい1冊です。そして、最後は金子達仁さんが高田延彦さんを取材して書かれた『泣き虫』という高田さんの半世記の感想を書いて行きたいと思います。高田さんのプロフィールを簡単に紹介しますと、高田さんは最初はプロレスラーとしてデビューしましたが、キャリア晩年はPRIDEという格闘技団体で戦っておられた方です。さて、本書は小説ではありませんが、かと言ってノンフィクション本かと問われると難しいところです。と言いますのも本書には、高田延彦さんの言い訳がつらつらと書かれており、どこまでが真実であるのか僕には判別が付かないからです。高田さんは本書の中で、ヒクソン戦には怪我だらけで臨んだとか、ヒクソン戦ではコーチの指示が適切ではなかったとか、情けない事ばかり言っています。また、コールマン戦の八百長にも一切触れていません。本書では高田延彦という人物の矮小さが、手に取るように伝わって来るので、高田さんの事が嫌いな人には、お勧め出来る1冊です。と6月に読んだ3冊は全部当たりの作品ばかりで、皆さんにも胸を張ってお勧め出来る作品ばかりです。皆さんも宜しければ手に取って読んでみて下さい。そして、長々と書いて参りましたが、この辺りで3冊の感想文は終わりにしたいと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。

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