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【美容整形】 統失2級男が書いた超ショート小説

高村秀雄は大手芸能事務所のオーナー社長を務めており、事務所の名前は何の捻りもなく高村芸能と言った。その芸能事務所は秀雄が立ち上げた会社ではなく、演歌歌手をやっていた父親が42年前に立ち上げた会社で、父親は6年前に他界しており、会社の舵取りは秀雄の思うがままだった。しかし、秀雄は無能な2代目などではなく、タレントの才能を見抜く眼力も1流だったし、プロデュース能力も悪くなかった。また秀雄はコンプライアンス意識も高く、高村芸能は芸能界の宿命とも言えるパワハラやセクハラとは、ほぼ無縁の存在だった。秀雄自身も人当たりの良い人物でテレビ局幹部からの覚えめでたく、高村芸能の所属タレントたちは連日連夜各テレビ局の番組に出演していた。そんな、秀雄の元に中高時代の同級生、笠屋弥一から電話があったのは、暑さも収まり掛けた9月下旬の事だった。「今年で16歳になる娘、真菜に会って欲しい」と弥一は言った。「実は真菜が女優になりたいと言っていて、俺も父親としてその夢を応援したい。親バカな目ではなく客観的に見ても真菜は美少女だ、お前も一目見れば気に入る筈だ、どうか力になってくれ」と弥一は続けた。「分かったよ、必ず採用するとは今の時点では約束出来ないけど、取り敢えず会ってみよう」と秀雄は返した。

4日後の14時に弥一は、学生服姿の真菜を連れて事務所にやって来た。真菜を一目見て秀雄はその容姿に感激してしまった。芸能界には美しい女が多いが、真菜の美しさはその中でも頭2つ分抜けていた。また、真菜は利発な娘で受け答えも確りしており、秀雄はここでも感心せずにはいられなかった。「真菜君はダイヤの原石だ、是非内で預かりたい。しかし、それには条件がある、今すぐ学校を辞めて女優の特訓を積んで貰いたい。了承してくれますか?」と秀雄は弥一と真菜に尋ねた。最初は難色を示していた弥一だったが、秀雄と真菜に説得され結局、その提案を受け入れる事にした。

半年後、高村芸能の社長室で秀雄と弥一と真菜は会談を持っていた。「弥一君、君の娘は百年に1人の逸材だよ、こんな逸材に日本の芸能界は狭すぎる、真菜君は世界に通用する日本の宝だよ、演技力と佇まいは超1流だし、何より英語力が完璧だ。私は真菜君をハリウッドに売り込みたい」秀雄の言葉に弥一も真菜も頬を綻ばせる。「しかし、それには真菜君の顔を少し弄る必要がある、真菜君は日本人から見ると絶世の美少女だが、外国人の美的感覚は日本人とは少し違う。なので外国人好みの顔に作り変える必要がある、勿論、整形費用は事務所で全額持つ。弥一君、真菜君、了承してくれますか?」秀雄の思いがけない提案に最初は戸惑っていた弥一だったが、結局ここでも秀雄と真菜に説得されその提案を受け入れる事にした。

秀雄は整形後の真菜を熱心にハリウッドで売り込んで回った。すると1人の白人プロデューサーが、真菜の顔に興味を持ち映画に出演させてくれる事になった。脚本上での真菜の役柄は白人の容姿に憧れる不美人の日本人少女が、売春で得た金で整形を繰り返した結果、モンスター呼ばわりされる様になり、自殺してしまうという物だった。しかし真菜は整形後の自分の顔に絶大な自信を持っていたし、また秀雄も「美しい、美し過ぎる。これは世界に通用する本物の美貌だ」と真菜の顔を称賛していた。なので真菜は(この脚本も日本人である私の美貌に嫉妬した白人プロデューサーが、脚本家に無理を言って書かせた物に違いない、嫌な役だけどこの映画で世界中の人々が私の顔を見れば、男も女も皆んな私に憧れる様になる。この役を引き受けてみよう)との思いに至っていた。

映画公開後の世界中のネット上は、真菜の容姿を誹謗中傷する言葉で溢れ返っていた。深く心が傷付いた真菜は高村芸能を辞め、日本の実家に引き籠もるようになってしまう。数年が過ぎ去り、世界中が真菜の事を忘れ掛けていた矢先、日本の週刊誌にとある記事が掲載された。それは秀雄の元愛人による手記で、それにはこう書かれていた「『真菜は元々絶世の美少女だったが、真菜の父親への復讐の為に整形手術を14回も受けさせて、化け物にしてやった。しかも真菜は高校中退の中卒だ。あの娘の人生はもう終わったんだよ。全ては中高時代、俺を小間使いにしていた弥一が悪いんだ、ざまぁ見ろだ、復讐大成功』と酔った秀雄さんは笑いながら話していました」と。

2週間後、秀雄の顔をナイフで切り刻み、その上から硫酸を掛けた弥一は携帯電話から 110番して自首するのでした。

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