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PAN-P ヴィジュアライズ

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ヴィジュアライズの練習を兼ねた作品集です。
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コマ

コマ

 過疎が進む山間の集落角が崩れ少し斜めになった急勾配石の階段の先には、白っちゃけた瓦の小さなお寺があった。

 その梺に在る極々小さな児童館に私は居た。

 年少から黄色組、赤組、青組の3つの組。過疎の集落だから、10名位の組みだった。私の母はその児童館で保母さんをしていた。実子の私は児童館では母を「先生」と呼ばなければならなかった。

 その日は木製のコマの絵付・・・柄の部分についたプラスチック

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【モーツァルト】

【モーツァルト】

 音もないくらい細かく細い雨があがって、淡く白に近い青空が顔を見せる。割れた雨樋からリズミカルに落ちる雫が薄暗い6畳のアパートに瞬間的に太陽を運んでくれる。
 今日は晴れらしい・・・スマホも携帯も無い天気予報も見ること無かった時代・・・天気は「感」だった。気持ちも空模様に連動して軽やかに晴れてくる。天然の癖の強い長めの髪をかき上げながら、私は布団を出た。

「海を見にいこう・・・」

 私はシルバ

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【大六天】

【大六天】

【大六天】

「そーれは山から大六天、悪魔を祓ってよ~いやさ~」
 
 山と山に挟まれた小さな集落は日が落ちるのは早く、夕焼けが過ぎ去った後のオレンジがグレーに馴染むころ、収穫が終わった棚田に子供達の声が響く。

 稲の切株を踏みながら、ウインドブレーカーを着た子供達が歌を歌いながら行進していく。

 私達の集落の産土神社になるのだろうか。大六天様を祭る神社を清掃、参拝したあと、万重箱の先を斜めに

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卵焼き

卵焼き

 エアコンなんてなかった頃、若干埃がこびり付いた透明な緑のプラスチックの羽の扇風機の前で、強 中 弱のボタンをガチャガチャとロボットを操作するかのように順番に押すのが好きだった。扇風機から卵焼きの匂いが風にのって流れてくる。

 おばあちゃんが居ない日はおじいちゃんがお昼ご飯を作ってくれる。作り置きのピーマンが入った茄子煎りは冷たいまま。温かいおかずは薄い黄色のふっくらと量がある厚焼き玉子風の

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【青に白の三角】

【青に白の三角】

霜焼けでザラザラした桃色の頬、鼻水をズビズビさせて口呼吸をしている。濃い水色に白線が3本入ったジャージと、半纏・・・田んぼと護岸工事された河川の間にある農道を走っている。手には黄色いバトンのような糸巻き、空には三角に大きな炎の吊り目がついた白いゲイラカイト。

上を見て、振り返り、上を見て、振り返り・・・

ゼ―ハーゼ―ハー・・・喉に鼻水が入って、咳き込む。

冬の乾いた空気、喉の奥が張りつく様な

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【彼女との出会い】

【彼女との出会い】

 片田舎の小さな飲み屋「ガパガポ」で行われた友人主催のハロウィーンパーティー。外壁がツタで一面覆われた古い喫茶店を改装した小さな洋風居酒屋さんで、地元の差ほど多くはないだろう若者向けに、手ごろな値段で気軽に飲みに行けるような敷居の低い店だった。20名程度で一杯になってしまうような薄暗い店内には、南国的というかサーファー的というか、海のイメージがあって、カウンター裏の酒棚にも、トロピカル系のリキュー

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【100年続きますように】

【100年続きますように】

毎日、朝起きると子供の寝顔をみる。
カーテンからこぼれる薄暗い光は、
布団を頭までかぶって寝ている娘と、
暑くて布団から出たけれど、寒くなってうつ伏せに寝ている息子を、
ぼんやりと浮かびあがらせる。

枕で頬を押し上げヒヨコみたいな口の子供達、
薄いピンクで温かい娘の頬に手を置くと、
ムッと怪訝そうな表情で布団に潜り、
あ~もう朝かともぞもぞしている。

寒くて白く冷たくなっている息子の頬

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【愛している】

【愛している】

 寝室に入っても子供達が騒いで眠れない時「しゃべったらお外ゲーム」をしていた。単純に話をしたら負けでお外に出すよだから静かにしてね~というゲームだ。その日は、ゲームを開始したにも関わらず、どうしても私が話をしたくて、ついつい話をしてしまったのだが、負けは負け…私はベランダに出た。

 コンタクトレンズを外したぼやけた視界は、月の光が辺りを青く包み込み、住宅の屋根や木々の枝葉のシャープな輪郭を薄

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