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【モーツァルト】

 音もないくらい細かく細い雨があがって、淡く白に近い青空が顔を見せる。割れた雨樋からリズミカルに落ちる雫が薄暗い6畳のアパートに瞬間的に太陽を運んでくれる。
 今日は晴れらしい・・・スマホも携帯も無い天気予報も見ること無かった時代・・・天気は「感」だった。気持ちも空模様に連動して軽やかに晴れてくる。天然の癖の強い長めの髪をかき上げながら、私は布団を出た。

「海を見にいこう・・・」


 私はシルバーのヘルメットを彼女に手渡した。
 雨で黒いアスファルトが淡いグレーに変わっていく。HONDA GB400は単気筒の低いドドドド・・・というエンジン音と振動はスピードを上げて、雨上がりでムッとする纏わりつくような空気を振り払ってくれた。


 道半ば急に振り出した雨・・・あっという間にジーンズが太ももにピッタリ張り付いてしまう。これじゃ雨宿りも意味がない・・・私達はアパートに戻った。


 冷え切った体を温めよう・・・私達はコーヒーやシャワーよりも良い術を知っていた。


 うたた寝から目覚めると、彼女の色素の薄い茶の瞳があった。


「モーツァルト」


 彼女は子供を見るように意地悪な笑みを浮かべそっと呟いた。


 ヘルメットでストレートになった長髪気味の髪の毛が、湿気で外巻きにカールしていた。


 これだから梅雨は・・・


 割れた雨樋からは絶え間なく雨が流れていた。軽やかとは言えない水のリズムはモーツァルトとして記憶された。

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