【大六天】
【大六天】
「そーれは山から大六天、悪魔を祓ってよ~いやさ~」
山と山に挟まれた小さな集落は日が落ちるのは早く、夕焼けが過ぎ去った後のオレンジがグレーに馴染むころ、収穫が終わった棚田に子供達の声が響く。
稲の切株を踏みながら、ウインドブレーカーを着た子供達が歌を歌いながら行進していく。
私達の集落の産土神社になるのだろうか。大六天様を祭る神社を清掃、参拝したあと、万重箱の先を斜めに切ったような木箱に、紙垂を付けたモノが小学校六年生の長に渡される。
小さな集落なので、小一から小六まで集まっても、10名程度、
子供達は大六天様の使いとして、大六天の歌を歌いながら、集落の各家を回る。
「そーれは山から大六天、悪魔を祓ってよ~いやさ~」
家の前で大きな声で歌を歌うと、立てつけの悪い引き戸をガガガ・・・と引いて、前掛けをして手拭いを頭に巻いた叔母さんが出てくる。夕飯の準備をしている・・・お煮しめの匂いがする。
「ご苦労様・・・」と中に入れてくれる。
土間から小上がりになった今の掘りごたつには、小さく背中を丸めた、お爺ちゃんと御婆ちゃんが、茶色と黄色の格子柄の汚れた半纏を着て、掘りごたつで暖を取っている。よく来たね・・・そんな目でこっちを見て、ゆっくりとした動作で、掘りごたつから出ると、頭を下げた。
「そーれは山から大六天、悪魔を祓ってよ~いやさ~」
お爺ちゃん、お婆ちゃんの頭を木箱で円を描くように撫でる。痛い所があれば、そこも撫でて上げる。大六天様が木箱に移って悪魔を追い払ってくれる、仕組みだ。
「あ~元気になったわぁ~」
撫で終わると木箱にお賽銭を入れ、お菓子やみかんを渡してくれる。
「そーれは山から大六天、悪魔を祓ってよ~いやさ~」
の声は段々と小さくなって暗闇に消えて行った。
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