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卵焼き

 エアコンなんてなかった頃、若干埃がこびり付いた透明な緑のプラスチックの羽の扇風機の前で、強 中 弱のボタンをガチャガチャとロボットを操作するかのように順番に押すのが好きだった。扇風機から卵焼きの匂いが風にのって流れてくる。

 おばあちゃんが居ない日はおじいちゃんがお昼ご飯を作ってくれる。作り置きのピーマンが入った茄子煎りは冷たいまま。温かいおかずは薄い黄色のふっくらと量がある厚焼き玉子風の卵焼き。おじいちゃんは言う。

「フクラシコを入れると、量が多くなるんだ。戦争の時の知恵だ。」と。

 塩と味の素とネギが入ったホットケーキのような卵焼きは、いつも表面はコゲ気味で、固めの表面に箸をいれると夏でも湯気が立ち上がる。

 NHKのお昼のニュース、蝉の声、ねっとりとした暑さ、生ぬるい扇風機の風と音、南の窓に朝顔の影がうつる。

 私は卵焼きを食べながら、頭の中は学校のプールに飛んでいた。

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