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『クラウドペイ』はスルリと“QRコード決済の乱立”を交通整理しちゃいそう。 【マーケティング戦略の観察】

今回は2019年5月16日に発表されたばかりの『クラウドペイ』の狙いとその“巧みさ”について分析する。

1、共通化システム『クラウドペイ』登場

少し前に『乱立するQRコード決済をどう交通整理するか? このままだと混乱するね』という記事を書いた。4月4日なので、まだ2ヶ月も経っていないが。

この記事では“各社による交通整理策”をまとめていて、例えば「QR決済事業者間でのアライアンス連合の推進」(メルペイとLINEペイ)や、「QRコード自体の統一規格化への挑戦」(経産省が後ろにつくJPQR)等を紹介した。

当記事以降も“なんちゃらペイ”のプレスリリースは着実に続いていて、セブンペイやファミマペイ、ゆうちょペイ、auペイ、などなど増え続け、主要なものでも20社ほど出揃ったのではなかろうか。いくらなんでも出過ぎである。

さて、そこに2019年5月16日、デジタルガレージによる決済共通化システム『クラウドペイ』の開始がリリースされた。そのサービス内容はこうである。(下記の日経記事より引用)

6月末に稼働する。スマートフォン決済のQRコードを束ねるシステムで、NTTドコモとLINE、メルカリ、中国のアリババ集団、騰訊控股(テンセント)の日中5社が参加する。今後も参加を増やす方針で、導入店が広がれば消費者の利便性が高まり、スマホ決済の利用が拡大する可能性がある。

クラウドペイは、1つのQRコードを店頭に設置するだけで、複数事業者のQR決済を可能にするため、各事業者ごとのQRコードをいくつも店頭のレジ前に並べなくてすむわけである。
店舗側も消費者側もわかりやすくてハッピーだ。
こういう設置物ね↓。

2、“中立性に特化” 巧みなプラットフォーム

これこそ“上手なプラットフォームづくり”の見本だなと思った。

僕はこういう各社間によるプラットフォーム戦略の競い合いにいつも注目しており、『“プラットフォーム”とは、お皿の下に差し込まれたお皿である。 』という記事でその競争原理の特徴をまとめている。
手前味噌だが、まさに今回のクラウドペイの動向は、“お皿の下に差し込まれたお皿”である。

“プラットフォームの争い”というのは、もうそのお皿だけでも成立しているのに、いつのまにかそのお皿の下に“そっと差し込まれたお皿”である。下へ下へと差し込み合う。
一番下にあるほど、上に乗っているものたちの課金を集めることができる。

その記事の中で僕は「現代のプラットフォームになるためのいくつかの“欠かせない条件”」を整理している。

1、ユーザーが集まっている (ユーザーがたくさんアクセスする機会を準備できる)

2、類似のことをやりたがっている企業が複数社あり、プラットフォーマー側は中立的にフラットに多くの企業を誘えるポジションにある

3、そのプラットフォームには後追いではつくりにくいユニークネスがある

今回のデジタルガレージは、特にこの「2」にある“中立性とフラット性”をうまく利用したなと分析できる。
デジタルガレージ自身は第三者的で、自身はQRコード決済事業者ではない。あくまで仲介業に徹したスタンスに立っている。

前述した「QR決済事業者間でのアライアンス連合」という方法には、この中立性が欠けるためどうしても難しさが残るが、デジタルガレージはそこをスルリと抜け出したといえる。

でもこういうのって、結局LINEがはじめると、“大きな陣取り合戦”がはじまっちゃって、楽天は楽天で仲間を募って“連合”をつくるし、ヤフーはヤフーで“連合”を作っちゃうんじゃないか。
でもまあ、それはそれで、今よりは収斂されるので良い流れと言える。
(引用元『乱立するQRコード決済を、どう交通整理するか? このままだと混乱するね』より)


3、小規模店舗の視点に立った多くのメリットの準備

あと、今回のリリースで上手だったなと感じるのは「アリペイとウィーチャットペイ」を一番はじめに押さえてあることだと僕は思う。

QRコード決済には大きく2つの形式があり、「消費者側がQRコードを見せるか(CPM方式)」と「店側に置いてあるQRコードを消費者が読みとるか(MPM方式)」がある。
今回『クラウドペイ』が共通化をはかったのは“あくまで後者のMPM方式”に特化している。

CPM方式
スマートフォンに表示したQR・バーコードなどをPOS端末で読み取る方式。
大手小売は販売管理のためにPOSシステムとの連動がどうしても必要なためCPM方式を主に採用する。

MPM方式
店舗に設置したQR・バーコードをスマートフォンで読み取り、金額を入力して決済する方式。
小規模店舗では安価に導入できるためMPM方式を採用するところが多い。

つまり、『クラウドペイ』の導入のターゲットは小規模店舗なのである。
そして、小規模店舗が具体的に興味があるのは、インバウンド需要だ
おおげさにいうと、日本人は現金かキャッシュレスかでも来客数は変わらないかもしれないけど、インバウンド需要の取り込みには“キャッシュレス対応の有無は大きそう”という“印象”がある。

そこの“印象”をうまく突いた顔ぶれを準備したな、と感心する。小規模店舗が『クラウドペイ』の導入を検討する大きな要因になるはずだ。

またそれと、ここがデジタルガレージの真骨頂だが、「運用面の簡略化」を提供価値としてきちんとおさえている。

クラウドペイの加盟店専用アプリであれば、すべてのQRコード決済の取引管理機能を提供。決済状況の確認やキャンセルをアプリ上で完結できるほか、売上金も決済手段にかかわらず一括入金されるため、経理業務の省力化も可能としている。

アプリをひとつですべて管理できる。各社バラバラの運用をやらなくてもすむように、整理整頓がされている。これこそ“プラットフォームの提供価値”と呼べる。


以上、
クラウドペイまわりの市場分析でした。

ビジネスモデルは開示されていないが、
加盟店への課金は「初期費用/月額固定費は0円で、加盟店手数料のみが一律3.24%
やや高めの手数料だが、加盟店からすればこの課金だけでMPM方式のQRコード決済はほうっておいても利用可能事業者が増えていくなら、許容範囲だろうか。
たぶん、決済事業者とのあいだでこの手数料から数%をデジタルガレージの利用料としてウラで流す契約なのだろう。
まさに“お皿の下のお皿”とは、このことである。

(おわり)

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