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映画感想 ゴジラVSコング

 ゴジラとコングが59年ぶりに激突!!

 1962年公開映画『キングコングVSゴジラ』では日米スタッフがお互いに気を遣いすぎたために最後まで決着が付かなかった。タイトルも日本がアメリカのキャラクターをゲストとして招待する……という形を取ったためにタイトルも「キングコング」が先だった。あれから59年ぶりの再戦となったわけだが、タイトルはキング・オブ・モンスターである「ゴジラ」が堂々と先頭。しかも今回の戦いではしっかり「決着が付く」ということが宣伝に盛り込まれた。
 制作はもちろん俺たちのレジェンダリー・ピクチャー。配給はワーナーだが、日本のみ東宝が配給している。こういうところで日本が尊重されていることがわかる。
 制作費は1億6000万ドルに対し、世界興行収入4億7000万ドル。公開初日だけでも2150万ドルと予想を上回る稼ぎを叩き出し、その後も口コミで評判が広がり、世界的に大きなヒットとなった。
 批評集積サイトRotten Tomatoesでは批評家スコアが75%であるのに対し、観客スコアが91%。とにかくも観客支持が大きかった作品だった。ただ批評家からは「人間のドラマが薄い」ということが批判部分となった。
 今回はNetflixにて視聴したわけだが、映画が公開された当時、Netflixは2億ドルのお金を提示し、配信権を得ようとしていた。制作費全額肩代わりする……という提案だね。しかしワーナーがHBO Maxによる独占配信案の提案を支持したため、Netflixは配信権を失った。それで1年近く経ってようやくNetflixに登場……というわけだ。

オープニングのワンシーン。これまでの戦いがトーナメント形式で示されて、その最後で「ゴジラVSコング」というカードが示される。この場面がやたらと格好いい。

 出演者を見てみよう。

 本作の主人公格として登場するのがネイサン・リンド。アレクサンダー・スカルスガルドが演じる。コメディ、シリアス双方を演じ分けられるタイプの俳優。私の知っている作品で言うと『ターザン:REBORN』のターザン。今回は「学者」という役柄なのでそうは見えないが、実はかなりのマッチョであるはず。
 元モナークだったが、とある実験に失敗したために落ちぶれて、とある大学の研究員になっている。

 アイリーン・アンドリューズ。髑髏島に滞在してコングの研究・監視を行っている。孤児となってしまったジアを保護している。

 ジア。髑髏島先住民。暴風雨襲来のために一族全員が死んでしまったが、その最中コングに救われ、以来コングと精神的な繋がりが生まれた。孤児となって以後はアイリーン・アンドリューズに保護され、耳が聞こえなくなってしまっているために手話で交流を取る。
 アイリーンに保護されたために、かなり洗練された今風の暮らしをしている。元先住民だったことを示すバンダナと首飾りを付けているが、普通にシャツとスニーカーを身につけている。
 子供の顔はやはりアイコニックなイメージになるため、いいシーンになるとジアの顔が挿入されたりする。

 マディソン・ラッセル。もう一人の主人公格として登場するキャラクター。演じるのはミリー・ボビー・ブラウン。最近の代表作といえばなんといっても『ストレンジャー・シングス』シリーズのヒロイン・エルちゃん。2019年公開映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の時は映画初出演だった。今ではすっかり貫禄の女優である。

 マディソン・ラッセルの父親。カイル・チャンドラーが演じる。
 不思議な話だが、彼はピーター・ジャクソン監督の2005年の映画『キング・コング』でも出演していて、キングコングと遭遇するのはキャリア2度目である。俳優の世界で2回もコングと遭遇したのは、おそらく彼だけ。

 芹沢蓮。名前から察せられるように、あの芹沢猪四郎博士の息子。現在はエイペックス・サイバネティクスの主任研究員で、少し怪しげな研究に手を貸している。
 演じるのは小栗旬。他の出演者達は「ガッジィーラ」と発音しているが、彼だけ「ゴジラ」と発音している。

 他にも出演者はいるけど、ここでの紹介は以上。
 あとで詳しい情報を調べているうちにわかったことだが、出演者の中にはチャン・ツィイーとジェシカ・ヘンウィックの名前もあった。二人はちゃんと撮影現場に招聘され、出演シーンもあったようだが、なぜか編集の都合上全カットされている。事情はよくわからない。小栗旬出演シーンも本当はもっと多かったらしい。

 そいでは前半のストーリーを見ていこう。


 髑髏島に穏やかな朝日が差し込んでいた。目を醒ますコングはゆったりと起き上がり、滝で身を清める。その後、木をもぎ取って枝を払い落とし、槍にすると、頭上に向かって投げる! “空の一部”がはじけ飛んだ。空に見えていたあそこはモニターだった。髑髏島は全面が巨大なドームで覆われ、その外は激しい嵐となっていた。

「やあリスナー諸君。「大怪獣の真実」ネット放送246回だ。今日の放送が最後になるかも知れない。俺はエイペックス社に潜入して5年だが、ついにやる。この会社が密かに行っている悪行を暴き出してやる」
 ……ネットラジオに胡散臭い情報を流し続けているバーニーはエイペックス社に技術者として潜入していた。その日、バーニーは知り合いになった技術者の1人に声を掛けて情報を盗み取る。そのまま逃走しようとすると……突如警報が鳴った。
 ゴジラ出現だった。バーニーはこれ幸いとエイペックス社の最深部に潜入する……。

 そんな胡散臭いネットラジオを真剣に聴いていたのがマディソン・ラッセルだった。
 ゴジラが人間の施設を襲う……ということは前代未聞のことだった。なにか理由があるに違いない。マディソンは数年前にゴジラに救われた記憶があって、特別な想いを寄せていたが、まわりの大人達はゴジラに対し警戒感ばかり示す。誰も意見を聞いてくれない。
 そこでマディソンはあのネットラジオの主・バーニーを探し始める。

 フィラデルフィアの大学に、すっかり落ちぶれたネイサン・リンドがいた。元モナークだったが、その現場を離れ、執筆に手を付けるがまったく売れず返本の山を抱えていた。
 そんなネイサン・リンドのもとにエイペックス・サイバネティクスのCEO・ウォルター・シモンズと芹沢蓮が訪ねる。ウォルターと芹沢蓮はネイサンが「地球空洞説」を唱え、かつて地底探索に挑戦していたことに目を留めて、スカウトに来たのだった。
 しかし地球最深部では「重力の逆転現象」が起き、そこに到達するのは不可能。ネイサンの兄は地球最深部を目指して死亡した。その兄の死がネイサンが落ちぶれた理由だった。
 ウォルターは「重力の逆転を乗り切れる乗物が発明されていたら……」と問いかける。HEAV(ヒーヴ)。こいつであれば重力の逆転を乗り切ることができる……!
 そこへ行くにはコングに道案内してもらわなくてはならない。ネイサンはかつての同僚・アイリーンとともにコングを連れて南極を目指すのだった……。


 とこんな感じで前半20分終了。

 前半部分でよくわからなかったこと、といえば髑髏島をドームが包んでいたこと。説明がなかったのだが、前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』でギドラが嵐を呼び寄せたために、髑髏島は嵐の中に閉じ込められるようになってしまった。ジアの一族が全滅してしまったのはこのため。
 その嵐とコングの寝床を守るために、モナークが巨大なドームを作っていた……という話。
 もう一つ、オープニングを見ていて「あれ?」と気付いたのが髑髏島の位置。ハワイの南東辺りになっている。たしかオリジナル設定は「スマトラ島の南西」だったはず。名称は同じ“髑髏島”だがある意味で別の場所。ひょっとすると今回のコングは過去作のコングと別個体かもしれない……。
 そう思ったのは、今回のコングは直立二足方向をすること。2006年の『キング・コング』はナックルウォーク。2006年のコングは体長7メートル。ギガントピテクスの進化形とされていて、かなり「動物」の側に近い。
 一方、本作におけるコングは体長119メートルのゴジラと並ぶほどに巨大。直立二足歩行するし、滝で水浴びをして身を整える場面もある。知能が高く、かなり人間の側に近い存在として描かれる。同じユニバースであれば、「別の種」ということかも知れない。

今回のゴジラは、ほぼ同じ体格の霊長類と対戦するため、動きが非常に機敏。

 前半25分の間にゴジラが暴れるシーンはあるものの、ゴジラとコングが対決する場面はない。ゴジラとコングが対決する「第1回戦」は35分から。予告編でよく描かれているように、戦艦の上での殴り合いとなる。

 今回のストーリーは、「ゴジラとコングが対決する理由は?」とうところに絞られている。
 ゴジラとコングはその以前から宿命的な対戦相手であって、何度も遭遇して戦っていた……ということになっている。オープニングで昔ふうの絵でゴジラとコングが対決している様子がいろんなスタイルでたくさん描かれていたが……うーん、ちょっと待って。ゴジラは2億7000万年前からいた、という設定ではあるが、その後長らく眠っていて、核実験で地上の放射線量が多くなってから目覚めた……という設定だったような気がする。本当はその間にもしょっちゅう目を醒まして、世界中の文明に記録されるほどコングと喧嘩していた……ということなのか。
 それでえんえん決着がつかず、現代まで来ている……というのは変な話というか、「いつまでやってんだ、アンタら」という感じ。
 とにかくも、ゴジラとコングは特に理由はなくとも対決する……という設定なので、ここは特別な理由を作り込む必要がない。髑髏島がドームで覆われているのは、嵐がやまなくなってコングの生息域を守るため、ではあるが、その一方で目覚めてしまったゴジラとコングを戦わせないためでもあった。

 ゴジラとコングがいかにして戦うのか? その理由付けのために物語が作られている。
 映画シナリオの基本であるが、「物語」と「ドラマ」は定義が違う。物語は「解説」の場面であり、ドラマこそが作り手が見せたい場面。物語とドラマは深く結びついていた方がよく、この2つの関連が甘いと、ドラマをどんなにうまく作っていても上滑りする。逆に物語がしっかりできていたら、たいしたドラマでなくても感動させることができる。
 この「ドラマ」の部分は映画のジャンルによって変わる。アクション映画であればアクションシーンになるし、ホラー映画だったらホラーシーン、エロ映画だったら濡れ場。映画は、25分から30分ほどの間で区切りを作ることができて、その間に一回は見せ場があるように作られている。たいていのアクション映画は分解すると、25分に1回アクションが入っているはずだ。
 では『ゴジラVSコング』の場合は? 最大の見せ場はもちろんゴジラとコングの対決する場面。この決闘の場面を見せたいはず。
 しかもゴジラとコングは太古から宿命のライバル関係である……という設定が作られている。この設定であれば、物語を作り込むまでもなく、「目と目があえば対決」とポケモンなみに簡単に物語を作動させることができる。
 でもそれだと「映画」にはならない。ゴジラVSコングの対決に情緒あるドラマが生まれない。単純に「目と目が合えば決闘」という以外の、もう一つの理由を両者の間に作らなければ、映画にならない。なんのために戦うのか? の理由付けが必要になる。今回のお話しはほとんどそれを解説するために作られている。

 そこで出てきたものが「地球空洞説」。
 おーい、マジか。
 地球の裏側に別世界があって、しかもそこへ行くためのハイテクマシンが登場する。
 こうなったら今回のお話しは「SF」というか、かなり「冒険ファンタジー寄り」なお話しになる。
 まず、引っ掛かりとして今作のゴジラが人間に襲いかかる……という場面が描かれる。ゴジラは今まで、モンスターのみと相対していたはずなのに、なぜ? 人間側がゴジラに不審を抱くようになっている。
 一方、コングは人間とすっかり共存する存在になっている。ゴジラが悪役であるかのように見えている。
 これはどういうことだろう……というところでいかにも怪しいエイペックス・サイバネティクスという謎企業が描かれ……。そのエイペックス・サイバネティクスが地球最深部を目指して、そこに埋蔵されているエネルギーを獲得したい、という。いったいなぜ? この辺りが今作の物語で引っ掛かるように作られている。
 この物語を通り抜けてから見ると、ゴジラが暴れ回っている理由がわかり、コングとの戦いの意味も変わってくる……という構造になっている。
 しかも最終的にはあれだけ対立しあっていたゴジラとコングが「共闘」する展開が描かれ、そこが一番の盛り上がりとなっている。この作り方は非常に良い。

 ただ、この辺りの理由はそれなりに作動しているとはいえるけども……。
 でも変だなぁ、と感じるところは一杯ある。
 地球最深部へ行く時、コングを道案内人として連れて行く必要あった? 地球最深部には巨大なエネルギーが埋蔵されている……ということは地表からも観測できていた。だったらコングに道案内させる必要もなく、自力でその場所を探り当てることはできたんじゃない?

 コングに道案内させて、その果てで謎の施設に到達する。施設のサイズがコングサイズだし、その入り口のところにコングを象ったレリーフがあることから、おそらくはコングの御先祖が作ったものだろう。
 床が滑らかに切り出しているところから、コングが一杯いた時代ではそれくらいの文明を作るくらいの力があったということだろう。コングに関する真新しい解釈である。実はコングは、人類と同じくらいの知能を持ち、どこかの時代では洗練された文明を築いていたのだ。
 で、そのコング・テクノロジーが起動されたとき、ゴジラっぽいレリーフが床に浮かび上がる。地下に埋蔵されているエネルギー源って、ゴジラのなにかしらだった? それって核エネルギーのことじゃないかと……。だったら地上で精製できるんじゃない?

 一方、地上ではバーニーが香港行きの謎の輸送物を突き止め、その輸送船の中へと(うっかり)潜入する。
 これは「ジオ・プレイン」だ。
 ジオ・プレインとは要するに地下を飛ぶ飛行機のこと。地上の空を飛ぶのは天候の影響を受けやすいので、“理論上”は地下にトンネルを掘り、その中を飛ばした方がエネルギー効率もよく、危険も少ないのだ……という。ただ、それも“理論上は”というやつで、現実に可能かどうか、というとほぼ不可能。
 それに国家間を通り抜けさせようとすると、それぞれの国とのコンセンサスを取らねばならない。これが難しい。なぜならこの地底トンネルから相手国を侵略ができてしまうから。結局は空を飛ばした方がリスクはあるかも知れないが“安心”できるってことになる。
 今作におけるジオ・プレインはどうやら電磁力で浮かび上がって、バビューンと飛ばしているらしい。台詞に「リニア」とあるから、電磁力でしょう。
 この地下を抜けるリニアによって、アメリカから一気に香港へ移動してしまう。
 まず、いつ、どうやって香港までの直通トンネルを作ったのか。どうやって各国首脳の同意を得たのか、なぜその建設計画が国民に知られずに進行させられたのか……。というかこの辺りの諸々の設定、単にクライマックスを「香港にしたい」という理由だけで展開させてないか? 設定的に香港である必要がまったくない。エイペックス・サイバネティクスの本社が香港にあるから……というのが理由付けになっているが、これもクライマックスを香港に移すための方便でしかない。
 今回のお話しは、「画作り」のために設定のほうに無理を通しているところが結構あって、南極の地底へ行く展開も、そういう場面を作るための無理矢理感が出ている。その無理矢理のために、それぞれのキャラクターの心情を作動させているところがかなりある。だからキャラクターそれぞれの動機付けがいまいちよくわからない……というところが出てしまう。
 クライマックスでは香港に到着したゴジラが熱エネルギーで地面をえぐって、その大穴が地底の空洞まで到達してしまう……という展開があるが。これもゴジラとコングを出会わせるためのかなり無理矢理な場面作り。
 地球の直径は1万2756キロメートルあるので、その中間にある空洞まで穴を開けたのだから、5000キロに及ぶ大穴……ということになるけど。ゴジラのエネルギーがそれだけの力がある……なんて今まで描かれなかったし、その大穴に飛び込んで地上まで到達するのにどれだけ時間が必要だろうか……。それ以前に、地底の逆転世界から大穴に飛び込んだとしても、途中で重力が逆転するはずだから、途中からえんえん“よじ登る”必要があるような気がするが。

 ただ画作りに関してだけはバッチリで、「映える画」はしっかりできているんだ。そこがしっかりしているから、「おお!」となる。地下世界にいく展開も、「冒険ファンタジー」として楽しめるように作られている。戦艦での対決シーンも見応えたっぷり。その画作りだけでだいたい楽しんで見られる。
 画作りのセンスで値段分以上の価値がある。というのはビジュアルセンスの高い作家にありがちなこと。細かいツッコミどころはあるけれども、それはさて置きとして、割り切って楽しんじゃおう。

 で、今回のお話しがなんだったのかというと、ゴジラが“何か”に反応して、抑えられなくなって暴れ回っている。それに対してコングが「まあ、落ち着けよ」とやっている。最終的にゴジラが暴れる理由が解消されて、去って行く……というお話しとなっている。
 その狙い通り物語は作動しているけれども、対決の場面がそれ以外の物語とほとんど絡んでいない。戦うことそのものにドラマが生まれていない。例えば『ベスト・キッド』みたいに、それまでの物語と戦いの場面が結びついている感じじゃない。それとは別で、ただ単にゴジラとコングの決闘シーンが格好いい……それだけのお話になっている。
 そうはいっても、怪獣の決闘に物語を絡ませるのは難しい。怪獣はダニエルやロッキーじゃないからね。

 今回はかなり妙なお話だったが、最初から「冒険ファンタジーだ」と割り切って楽しんで、次々にやってくる面白いシーンを楽しんでしまおう。それをくぐり抜けるととにかくも最高な決闘シーンが待ち受けている。「プロレスなんだ」と思えばいい。もとよりハリウッド版ゴジラは「超重量級プロレス」として作っているので、そういう意味では間違いなく高いクオリティで描かれている。決闘シーンの画作りがとにかく最高なので、充分に楽しめる作品になっているはずだ。
 ただ、そこに至るまでのシーンは多少スキップしても構わないかな。


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