地底世界

クリスの物語(改)Ⅳ 第58話 真実を胸に

クリスの物語(改)Ⅳ 第58話 真実を胸に

 生まれてきた子供は、ルキウスが断言していた通り元気な男の子だった。  カールした髪と形の整った鼻は、ルキウスにそっくりだった。グレーがかった理知的な瞳は、アメリアのものを受け継いでいた。  決めていた通り、子供はファロスと名付けられた。  ファロスは、まさに愛の結晶だった。  ファロスを手放し、母親が自分であることを忘れられるなんて耐え難い苦痛だった。しかし、この子のためにもわたしは使命を果たす必要がある。  アメリアは、何度も自分にそう言い聞かせた。わたしのいない世界を

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クリスの物語(改)Ⅳ 第57話 決断

クリスの物語(改)Ⅳ 第57話 決断

 そんなある日、仕事を終えて自宅に戻ると、玄関の前にひとりの女性が立っていた。  銀色の髪に、青い瞳をした背の高い女性だった。  身なりからして、ひと目で地底世界の人間ではないと分かる。かといって、地表人でもない。というより、地球人ではなさそうだ。  女性はアラミスと名乗り、銀河連邦からやってきたと言った。  証拠にと、アメリアの脳裏にアラミスは自分のデータを表示させた。そこには、銀河連邦の職員であることを証するアラミスの身分が映し出されていた。  たしかに、銀河連邦の人

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クリスの物語(改)Ⅳ 第56話 不審点

クリスの物語(改)Ⅳ 第56話 不審点

 ある日アメリアが出勤すると、イビージャが地底世界を追放されたと報告を受けた。  理由は、中央部も気づかぬ間に闇に侵されていたためだということだった。  正直、かなりショックだった。子供の頃からずっと一緒に過ごしてきたイビージャ。  彼女が闇に取り込まれていたなんて────。  どうりで、最近の彼女の言動がおかしかったわけだ。  原因が分かって、アメリアはほっとする面もあった。自分に対するイビージャの態度が、彼女自身によるものではないと分かったからだ。  どうにか彼女の

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クリスの物語(改)Ⅳ 第55話 意趣返し

クリスの物語(改)Ⅳ 第55話 意趣返し

 そんなイビージャの思いなど露ほども知らずに、アメリアは順風満帆な生活を送っていた。  ルキウスと生活を共にしてこそいないものの、頻繁に会っては愛を深めていた。仕事も順調で、公私ともに充実した日々を過ごしていた。  そして、いつしかお腹にはルキウスの子を宿していた。  そのことをルキウスに伝えると、これで正式に夫にもなれると言ってルキウスは泣いて喜んだ。  地底世界では、契約を交わすような結婚という風習がない。二人の間に子供ができたら、自然と夫婦関係とみなされる。  懐妊

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クリスの物語(改)Ⅳ 第54話 憎悪と遺恨

クリスの物語(改)Ⅳ 第54話 憎悪と遺恨

 その後、アメリアはルキウスからすべてを聞いた。  イビージャから聞いていた話は、全部イビージャの作り話だったこと。それにアメリアのことについても、イビージャはルキウスに対して嘘をついていたことなど全部。  最初、ルキウスがイビージャと別れて、わたしに乗り換えるために適当な嘘をついているのではないかとアメリアは勘ぐった。  しかし、そうではないことはルキウスの心から読み取れた。  純粋で誠実なルキウスは、心の中を読み取られないよう防御する術を持ち合わせていなかった。  ル

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クリスの物語(改)Ⅳ 第53話 再会

クリスの物語(改)Ⅳ 第53話 再会

 ある日、イビージャが仕事を終えて帰宅すると、リビングに静かに座るルキウスの姿があった。ルキウスは身支度を整えていた。  何も言わなくても、イビージャには分かっていた。 『今まで世話になった。感謝している』 『仕事、決まったのね』 『ああ』 『どこで働くの?』 『ホーソモスだ』 『そう』  ホーソモスといえば、自分やアメリアの生まれ故郷だ。  ホーソモスはセテオスよりも大きな都市で、人口が多く家具や生活用品の制作工房なども集中している。だから、外部からやって来た者はそこ

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クリスの物語(改)Ⅳ 第52話 苛立ち

クリスの物語(改)Ⅳ 第52話 苛立ち

 男の存在が頭から離れず、アメリアはその日仕事が一切手につかなかった。  ぼーっと窓の外を眺めては、自分へ向けられた誠実で優しそうな男の眼差しを思い出した。  とっさにオーラムルスで確認していたから、男の名前は分かっている。服装からしても、地表からやってきたばかりなのだろう。  きっと、次元の狭間に迷い込んでここへ辿り着いたのだ。それを監視局のイビージャが見つけた。  監視局へ連れてきたとなると、イビージャが気に入ってまた自分の家に滞在させるつもりなのだろう。  イビージ

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クリスの物語(改)Ⅳ 第51話 たくらみ

クリスの物語(改)Ⅳ 第51話 たくらみ

 そんなある日のこと、グオン地区に予期せぬ訪問者がやってきたからすぐに向かってくれとネイゲルから連絡が入った。  連絡を受けて、イビージャは少し緊張した。何かの拍子に次元の狭間を乗り越えて、様々な時代から偶然ここへとやって来てしまう地表人が稀にいる。恐らく、今回もそれだろう。  しかし、場合によっては闇の勢力の侵入者である可能性もある。重々注意しなければならない。  グオン地区まで、イビージャはドラゴンを飛ばした。  オーラムルスの地図表示に、その招かれざる客が表示されて

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クリスの物語(改)Ⅳ 第50話 自暴自棄

クリスの物語(改)Ⅳ 第50話 自暴自棄

『そう。それなら、きっとあなたは選ばれし者なのね』  話を聞き終えると、圧倒されたようにアメリアは言った。 『だったら、わたしも養成校へ行ったところであなたのようにはなれないわね』 『まあ、そうね』  イビージャは、安心した。もしアメリアが学校へ来たら、誰よりも魔法が優れているともてはやされていた自分の立場が危ぶまれる。そう思ったからだ。  自分の方が優れているのは間違いない。なぜなら、自分は選ばれし者だから。でも、アメリアの魔法の腕前はたしかだった。 『でも、あなたの

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クリスの物語(改)Ⅳ 第49話 イビージャとの出会い

クリスの物語(改)Ⅳ 第49話 イビージャとの出会い

 ある日のこと。  アメリアはいつものようにアーロンと公園で魔法と剣術の特訓をしていた。すると、それをじっと見つめる少女の姿があった。  歳はアメリアと同じくらい。色白でやせ細った小柄な女の子だった。  少女は公園の隅に設置されたクテアに座って、瞬きもせずにふたりの特訓に見入っていた。 『こんにちは』  視線に気づいたアメリアが少女のそばへ行って声をかけると、少女は何も言わずに立ち上がった。  そして突如、手にしていた杖で火玉を作り出した。それからツンとした顔をして、作っ

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