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7才息子が「アクション映画」を観るのがイヤだったけれど。

父ちゃんは、映画が好きだ。特にアクション映画が大好きだ。戦ったり、勝ったり負けたり、殺したり殺されたり、殴ったり殴られたり、蹴ったり蹴られたり、銃で撃ったり撃たれたり、すんごいスピードで車を走らせたり、血がブシャッて飛び散ったりするような映画。「かっこいい」らしい。

私は、そういう映画が苦手だ。たとえばアバターの映画は物語が気になりすぎて見に行ったけれど、戦いのシーンも多くて長くて、映画が終わる頃にはもうヘトヘトだった。寝れば夢の中にもアバターの世界が反映されてしまい、寝た気がしなかった。そしてそういう強烈な映画を見ると、2〜3日くらいは頭の中でずっと映像がグルグル再生され続ける。それが1番しんどい。

そんな私のことを理解してくれたのか、父ちゃんは私をアクション映画に誘わなくなった。

そして、小学校1年生の息子を誘うようになった。



「日曜日、りんりんと4DXの映画みにいってみる。アクアマンっていう映画。」

父ちゃんは父ちゃんなりに「息子でも大丈夫そうなアクション映画」を選んでいるつもりらしいけれど。息子も父ちゃんと映画に行くのを楽しみにしているから、きっと映画の好みが合うのだろうけれど。

でも本音としては、私は息子が暴力的な映画をみることがイヤだった。「息子が暴力的になってしまったらどうしよう」までは思わないにしても、息子の心の中に暴力的な映像が刻み込まれることがイヤだった。戦いが「かっこいい」なんて思ってほしくなかった。

しかも今回は、4DXで3Dなんて。想像もつかなかったけれど、YouTubeで確認してみたら、やばかった。座席が映像に合わせて動いている。前から水がプシューと出てくるみたいだし、匂いも出てくるらしい。さらにメガネをかけて、映像が浮き出てみえるなんて。どんだけ刺激を加えてくるんだ。

まだ7歳。目に悪くないのか、刺激が強すぎないのか、心配になる。

でも、父ちゃんは息子と4DXで3Dを見たがっている。とりあえず1回見てみて、息子の様子を見てみればいいよね、と自分をなんとか納得させる。


そしてちょうど、私も気になっている映画があった。「窓ぎわのトットちゃん」だ。109シネマは6回みると1回無料になるのだけれど、ラッキーなことに無料分がたまっているとのこと。

家族で映画に行く。男組はアクアマン、母ちゃんは「窓ぎわのトットちゃん」を観る。そんな休日を過ごすことになった。




「窓ぎわのトットちゃん」みたいな学校を作りたい。

息子が通っているオルタナティブスクールは、そんな想いを形にしている学校だ。

「窓ぎわのトットちゃん」の本は、小学生のときに図書室で読んだことがあるような気がするけれど、ふんわりとしか覚えていない。そこまで覚えていないということは、小学生の頃の私の心には、そこまで響かなかったのかもしれない。

でも、息子の通っている学校の原点となっている本。その映画。大人になった私の心で観たら、どう感じるんだろう。観ておきたいな、と思っていたのだ。



結果、ほんとに観れてよかった、と思った。私の涙腺は、終始ゆるみっぱなしだった。

前半は、トットちゃんの学校生活を描いている。

涙腺がゆるむ、を通り越して、涙があふれてしまったシーンがあった。

おそらく近所の一般的な小学校に通う男の子たちが、トットちゃんたちの通うトモエ学園をバカにするシーンがあった。

「トモエ学園、ボロ学校!
入ってみても、ボロ学校!」

はじめはみんな言われっぱなしだったけれど、トットちゃんが立ち上がる。

「トモエ学園、いい学校!
入ってみても、いい学校!」

トットちゃんの声に合わせて、みんなもその言葉を叫びながら、バカにしてきた男の子の集団の方に、力強く歩いていく。


涙腺を崩壊させながら、「ここ、きっとそんなに泣くところではないよね」と思った。



「息子さん、全然普通の小学校に通えそうなのにね。」

「なんか普通の民家みたいな小学校やね。」

「宿題がないなんて、本当に大丈夫?」

「1年生が8人!?人数少ないんだね・・・」

私が心の底から素敵だと思っている、息子の小学校。でももちろん、理解してもらえないことがある。バカにされているとは思わないけれど、やわらかい言葉の裏に「私はそこがいいとは思わない」というメッセージを感じることがある。

「うん、そうだよね。私もいろいろ葛藤はあるんだけどね。」

そんなとき、私はそんな風に言葉を返していた。でも、心の中では「でもね、でもね!」と何か伝えたいことがあるような、モヤモヤとした気持ちがいつも残っていた。


「普通の小学校とはちがうところだらけだけど、いい学校なの!本当にいい学校なの!」

そうやってトットちゃんみたいに、胸をはって伝えたかったんだと気づいた。



映画の後半になるにつれて、話に戦争が絡んできた。

正直、いやだな、と思った。前半でのトットちゃんの何気ない学校生活があまりにキラキラしていたから、後半での戦争の暗さと、悲しさと、やるせなさがより際立つ。


印象的なシーンがあった。

トットちゃんが仲良くしていた小児麻痺の男の子が亡くなってしまう。お葬式の会場から飛び出して、トットちゃんが走り出す。

今から戦争に向かう兵隊たちが、
町を行進している。
旗をふって、それを見送る人たち。
戦争ごっこをする子供たち。
白い布に包まれたお骨を、
泣きながら抱きしめるおばあちゃんの姿。


そんな景色をみながら、トットちゃんは兵隊さんの行進の向きとは反対方向に、どんどんどんどん走っていく。

周りがどうであろうと、
私は私の「いい!」と思う方向へ進むんだ!

そんな力強さを感じた。


そしてトットちゃんが、トモエ学園の中にある木の前にたどりついて、トモエ学園でのキラキラした日常の回想シーンが流れてきたとき、なぜか前半でそれを見た時よりも、よりキラキラしているように見えた。

この物語には、「戦争」という暗い部分が必要だったんだ。もしも明るい部分だけを切り取っただけの物語だったら、前半の明るい部分が、今こんなにキラキラ見えていないのかもしれない。

そう感じた。


大切なことを「本当に大切なんだ」と深く理解するには、一度全く逆のことを味わってみる必要があるのかもしれない。

そう思った。





「自分の気持ちを押し殺して、
先生の言うことにただ従う生徒たち」

「自分の気持ちを押し殺して、
お国のために戦っている日本の大人たち」

戦争。暗い。絶望。楽しくない。




「自分の気持ちを大切に
人の気持ちも大切にしながら過ごす、
生徒たちと先生たち」

そうやって過ごした子供たちが作る
未来の日本は、どんな日本だろう。

平和。明るい。希望。楽しい。



そのコントラストを濃ゆく濃ゆく描くことで、子供たちにとって大切なことは何なのか、みんなが幸せになるためにはどんな教育が必要なのか、それを間接的に伝えてくれた映画のように思えた。


そして、「教育の形」が、
そのまま「日本の形」に
つながっているように思えた。





余韻に浸りながら、エンドロールを見届けていると、「ひっく!ひっく!」というしゃくり声が聞こえてきた。

私が座っていた座席の、ななめ前に座っていた女の子が号泣しているようだった。


エンドロールが終わって、劇場が明るくなっても、まだしゃくり声が止まっていない。

立ち上がってコートを着ていると、その親子の様子が見えた。泣いていたのは、小さくみつもって小学校2年生、大きくみつもっても小学校4年生くらいの女の子だった。トットちゃんと同じくらいの女の子じゃないだろうか。


「大丈夫?そんなにかなしいところあった?」

ケロッとした表情のお母さんが、ちょっと不思議そうに女の子にたずねている。女の子はしゃくり泣き続けている。

小学校低学年くらいの女の子が、この映画でこんなに泣いていることに、私も少し驚いた。どこか悲しい部分があって泣いているのか、どこか感動する部分があって泣いているのか、何かを自分と重ね合せているのか、ちょっぴり泣いたらなんだか止まらなくなっちゃったのか、それはわからないけれど。その女の子の心が大きく動いたんだろうなと思った。


トイレに行くと、泣いていた女の子と同じ年齢くらいかな?と思う女の子が、手を洗いながらお母さんと楽しそうに話していた。

「トットちゃん、かわいかったねえ~♪」

そんな無邪気な会話が聞こえてきたのだ。なんてシンプルな感想なんだろう。同じ年齢の女の子で、同じものを見たとしても、こんなに感じ方がちがうんだ、と思った。


映画が終わってからも、なんだか「コントラスト」を感じさせられる。



「トモエ学園、いい学校!
入ってみても、いい学校!」

頭の中には、あのシーンがずっと流れている。

人によって、こんなに感じ方がちがうのなら、「いい!」と思うことだって全然ちがうはずなんだ、とふと思う。

でももし、戦争や、暗いことや、悲しいことや、楽しくないことを「いい!」という人がいたらどうしよう、と突拍子もないことが頭に浮かぶ。

そんな人がいたら、もう仕方がないけれど。


「平和」を深く知るための、戦争。
「明るい」を深く知るための、暗い。
「希望」を深く知るための、絶望。
「楽しい」を深く知るための、楽しくない。

自分にとっての「いい!」を知るための
「いい!」と思えないものたち。

一人一人が人生を通して経験している暗いことの意味が、そうであってほしいなと思った。



「めーっちゃ楽しかった!」


息子7才、
アクション映画で、4DXで、3Dを
楽しめたようだった。


「よかったなぁ。楽しくてよかったね。」

そう言いながら、息子の頭をなでた。



「母ちゃんも、めっちゃ楽しかった!
めっちゃいい映画やった!」

私も映画の感想を言う。


「見れてよかったね。」

父ちゃんがそう言う。


映画の感想を話しながら、3人で帰る道。

平和だ。



家族みんなで、同じ映画をみなくてもいい。

家族だからといって、「いい!」と思うものを、同じにしなくていい。合わせなくていい。

戦いを知るから、平和がわかる。

黒を知るから、白がわかる。




窓ぎわのトットちゃんの映画をみて、
そんなふうに思えている今。


わが家にも
私の心の中にも
「戦い」は起こらない。


激しいアクション映画を見にいくために出かけていく男たちの背中を、前よりもちょっぴり心穏やかに、ちょっぴりやさしい気持ちで、見送れそうな気がしている。


最後までお読みいただき
ありがとうございます♪

2024年、初noteです(^^)

書くペースがのんびりになっていたり
あまり読めなかったりしていますが
できる範囲で、その時々のペースで、
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