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『リーグを面白くする"4"という数字』Bリーグ?Jリーグ?プレミアリーグ?買収するならどのリーグのどのクラブ?

IT企業の新規参入が増えてきたスポーツ界

欧州チャンピオンズリーグがレアルマドリードの優勝で幕を閉じ、国内ではBリーグのチャンピオンシップが開催され、宇都宮ブレックスが優勝を果たした。
また、直近のニュースとしては、チェルシーの売却に関連するニュースが多く目立った。

昨シーズンのプレミアリーグは、シーズン途中でニューカッスルユナイテッドがサウジアラビアの政府系ファンドに買収されたり、それ以外にもアーセナルの買収の噂なども上がるなど、ビジネス界からも非常にスポーツが注目されているといえるだろう。

日本国内でも多くの企業がスポーツ界に参入をしている。

例えば、サッカー界では、サイバーエージェントが町田ゼルビアの経営権を取得、メルカリが鹿島アントラーズ、ミクシィがFC東京の経営権を取得するなど、IT業界の企業によるクラブの買収が多くなってきている。

Bリーグにおいても様々な企業がバックにつき、強化が進んでいる。
千葉ジェッツの経営権を取得したミクシィや、バンダイナムコが2019年に経営権を取得した島根スサノオマジックなど、様々な競技に大手企業が参入してきている。

スポーツクラブを保有することのメリットや、活用方法・狙いは企業によってさまざまではあると思うが、スポーツが持つ様々な価値を活用できるのは、非常に大きな魅力だと考える。しかし、スポーツクラブを保有するだけでは意味がなく、やはりファンやサポーター、スポンサー企業が望むのは、結果も求められるだろう。

CL優勝を成し遂げたレアルマドリード

強豪チームのイメージといえば、有名な選手を多く囲い、巨額の給料を支払っているチームという印象があると思うが、実際にはどうなのかを今日は見ていきたい。
今回ピックアップしたのは、国内ではBリーグとJリーグ、海外ではプレミアリーグを対象とした単年度のみとはなるが分析を行った。

Bリーグにおける人件費と順位の関係性

天皇杯決勝にて(2022年3月)

2016年に開幕したBリーグは、2021/22シーズンはB1リーグに22チーム、B2リーグに14チーム、B3リーグに15チームの〇チームで構成されているプロバスケットボールリーグである。B1ならびにB2に所属する各クラブの決算概要は開示をされており、リーグの公式HPから閲覧が可能である。

<平均営業収入>
・B1クラブ:約9.6億円
∟最大:約20.3億円(千葉ジェッツ)、最小:約5億円(信州)
・B2クラブ:約3.1億円
∟最大:約5.4億円(群馬)、最小:約1.4億円(香川)

<平均営業費用>
B1クラブ:約9.7億円
∟最大:約19.5億円(千葉ジェッツ)、最小:約4.7億円(信州)
B2クラブ:約3.6億円
∟最大:6.1億円(群馬)、最小:約1.8億円(青森)

B.LEAGUE 2020-21シーズン(2020年度) クラブ決算概要

B1リーグでは、千葉ジェッツが営業収入、ならびに営業費用が最も多くなっていることがわかり、最も少ない信州ブレイブウォリアーズとの差は約4倍もあることがわかった。さらに細かい数字を見ていく。
次は、トップチームの人件費を見ていきたい。他のリーグと比較する為に、リーグ戦での結果のみを対象として、その年にクラブがかけた人件費との相関分析を行った。

東地区順位と人件費の関係(2020/21)

まずは東地区の順位と人件費の相関分析の結果について触れていく。上位のチームの人件費は比較的高く見えるものの、最も人件費をかけているアルバルク東京が6位となっていることもあり、弱い相関(R²=0.34)という結果になった。

西地区順位と人件費の関係(2020/21)

続いて西地区の順位と人件費の結果を見ていく。こちらも弱い相関(R²=0.30)となっており、人件費をかけるだけでは、よい成果を残すことができないということが言えるだろう。

東西の結果を見ても、強い相関関係は見られなかったため、人件費を他チームよりも多くかけるだけでは勝てるわけではないということが言えるかもしれない。しかし、東地区と西地区には、大きな違いも見られた。

<トップチーム人件費>
東地区平均:約4.7億円
西地区平均:約3.5億円

Bリーグ 経営情報より筆者作成

チャンピオンシップの結果だけで、一概に言えないが、東西のリーグを比較すると、東地区にいるクラブのほうが、西地区にいるクラブよりも1億円以上も人件費をかけていることがわかる。実際に、歴代のチャンピオンシップの優勝クラブを見てみると、すべてが東地区となっており、人件費をかけることも優勝には影響する可能性は多少はあると考えられる。
クラブの買収という行為を何に目的をおいて行うか次第ではあるが、どの地区のチームを買収するのかという判断も非常に重要になるのかもしれない。

Jリーグにおける人件費と順位の関係性

続いてJリーグについて触れてみる。

<平均営業収益>
J1平均:約42.8億円
∟最大:約69.8億円(川崎フロンターレ)
∟最小:約21.0億円(大分トリニータ)
<平均営業費用>
J1平均:約45.3億円
∟最大:約95.3億円(ヴィッセル神戸)
∟最小:約21.1億円(大分トリニータ)

2021年度 J1クラブ決算一覧より作成(2022/5/29作成)

まずJ1クラブの平均営業収益は、B1リーグの約4倍であることがわかった。クラブ間での比較を行うと営業収益が最大のクラブと最小のクラブの差は約3倍となっており、この点はBリーグとあまり違いが見られなかった。
次に営業費用についてだが、最大と最小の差は、Bリーグとほぼ同様の差となっており、約4倍の差があることもわかった。

Jリーグの順位と人件費の関係(2020/21)

それでは、Jリーグの順位と人件費の関係についてみていこうと思う。JリーグにおいてもBリーグと大きく変わらず、弱い相関(R²=0.37)であることがわかった。

前年度よりも順位を上げたクラブ

少し面白い結果となったのは、前年度よりも順位が上がったクラブを対象として人件費を見てみると、7クラブの中で4つのクラブが人件費を削減しているにも関わらず順位を上げているということがわかったことである。
この点に関しては、抱えている選手数なども踏まえて分析をするとより深い結果が見れると思うので、また時間があればここはやっていきたいと思うが、ただ単に人件費をかけるだけでは勝てないということを改めて認識する結果となった。

プレミアリーグにおける人件費と順位の関係性

2021/22シーズンを優勝したマンチェスターシティ

最後にお金をかけているクラブが非常に多いリーグであるサッカーのプレミアリーグを対象として調査を行ってみた。
アメリカのプロスポーツリーグでもよかったのだが、サラリーキャップなどもあることを踏まえ、比較的自由度高くお金をかけられるリーグを対象にしてみた。

プレミアリーグクラブの選手年俸ランキング(2021/22)※単位£

まず、プレミアリーグに所属するクラブの選手年俸をピックアップ。最も多かったのは、マンチェスターユナイテッドとなっており、約2.1億ポンド(約330億円)となっていた。最下位のクラブは、ブレントフォードとなっており、約0.18億ポンド(約28億円)であることがわかった。つまりトップのクラブと最下位のクラブの差は、なんと・・・・10倍以上となっているのである。

ちなみにクリスティアーノ・ロナウド選手の年俸が約0.26億ポンド(約42億円)と言われており、ブレントフォードの全選手の年俸以上を一人で稼いでいることになる。

それでは、実際に順位と人件費の関係を見ていく。これまでに触れてきたBリーグやJリーグと大きく異なるのは、順位と人件費の相関関係が比較的相関が強いことがあげられるだろう。(R²=0.52)
プレミアリーグのように人件費に費用をかけているトップクラブと下位クラブに大きな差が生まれると、やはり費用をかけているクラブが上位になることが多くなるようだ。

しかし、人件費がずば抜けている上位クラブを除いたデータを見てみると非常に興味深い結果となった。
かなり弱い相関(R²=0.25)という結果が見られたのである。つまり、トップのクラブは他のクラブよりも倍以上の費用をかけているクラブが中心となっているものの、JリーグやBリーグのように最小クラブと最大クラブの差が約4倍程度のラインでプレミアリーグをとらえると、相関関係が弱いということが見えたのである。

つまり、ビッグクラブを作ることによって、有名な選手を生で見れる機会が増え、リーグとしての価値は上がるものの、一定のラインを超えすぎてしまうと、上位争いはお金をかけなければ難しくなってしまうというリーグにもなってしまうということなのかもしれない。

リーグを面白くする”4倍”という数字

なぜかはわからないこの4倍という数字には非常に興味を持たざるを得ない。
クラブの買収検討をする上で、リーグ内での格差は非常に重要な指標になるかもしれない。お金を積めばプレミアリーグ優勝できる!って思う方もいるかもしれませんが、そもそも買収するためには数千億円の費用が必要であり、さらに投資をすることが求められ、大富豪にしかチャレンジができないような領域になってしまっているのも事実である。

選手を活かせるクラブが勝つ世界へ

そんな中で日本国内で人気が高まっているBリーグや、20年以上もの歴史を誇るJリーグの魅力の一つにあるのが、どのチームにも上位に行ける可能性があるということなのかもしれない。ただ単に人件費を投下すれば勝てるわけではないため、今後勝ち続けていくチームに求められることは、より細かいデータ分析やスカウティングを行うことも重要になるが、一人一人の選手を活かす仕掛けづくりが求められるのかもしれない。

例えば、選手間の相性や、監督と選手の相性も重要な指標になるといえるだろう。監督が発信する言葉が刺さる選手もいれば、それがストレスになる選手もいる。他にも守備的な試合が得意な選手もいれば、攻撃的な試合が好きな選手もいる。もしかすると、その選手のストレス耐性などが影響している可能性も考えると、このようなデータ活用は非常に可能性があると考える。

スポーツ庁や、プロスポーツチーム、強豪校などでの活用が増えているビノベーションレポートというサービスを知ったが、このようなツールを活用することで、選手の能力だけでなく、相性なども踏まえながらチームを作っていける可能性があると考える。


プロスポーツチームの買収について触れてきたが、勝てるチームになるためには、よい選手を連れてくるだけでは不可能であり、様々なテクノロジーなども活用していく必要があるということが改めてわかった。
プロスポーツチームの存在意義は勝つためだけではないため、それ以外にも様々な存在価値があると思うが、今日は「勝利」という視点から考えてみました。今後、その他の視点でもプロスポーツチームの持つ可能性について考えていきたいと思う。


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