「あなたのしたいこと、すべてが詰まっている島で」【#マルタ語学留学3weeks】
隣の部屋から、フラットメイトの女の子が電話する声が小さく聴こえてくる。いつもより話す速度がはやく、楽しそうな響きがする。時折Youtubeなんかの音も聞こえてくるけど、どうやら私たちが共に学んでいる言語ではなさそうだ。
ブラジル人の彼女。たぶんこれは、彼女の母国語の、ポルトガル語の響きなのだろう。残念ながら、私にはポルトガル語を聞き分ける能力は備わっていない。彼女がただ今、笑顔でいるだろうことが分かるだけ。
フラットメイト、というものを私は人生で初めて得た気がしている(否、そういえばシェアハウスしていたわ、まあそれはいいとして……)。同じ玄関、同じキッチン、同じバスルームにトイレ。個別の部屋は、だいたい7畳とか8畳とか、それくらいだろうか? 部屋の中にはシングルベッドがふたつ。
今は贅沢にもこの部屋を1人で使わせてもらっているけれど、6月から迎えるこの島のベストシーズンには、部屋は当然2人仕様になるし、フラットも満員の8人になったりするのだろう。今はこのフラットは、まだ5人だ。
隣の部屋は、この学校にすでに6ヶ月通っているという、頼もしい日本人の女性が暮らしている。学校の中では有名人で、私は「洗濯物はどこに干したらいいか」とか「スーパーはどこか」とか、「マルタ島では一体どこに観光に行ったらいいのか」とか、はたまた「ねぇ彼と彼女はどういう関係なの?」とか、そういった諸々のことを、隣の彼女から教わる。
韓国から来た22歳の女の子は、先週末にイギリス・ロンドンへと渡ってしまった。マルタの語学学校に3週間通って、次はロンドンの語学学校に、2ヶ月間通うらしい。自由でいいね、と私は言う。あなたも、と彼女は返す。そうだ私も、フィリピン・セブの語学学校から、渡り鳥のようにマルタへ来た。
フランス人の彼女は、夜な夜なパーチャビル、と言う名前のクラブ街へ出かけてゆく。先ほどのブラジル人の彼女が、22時とか22時半とか、毎夜規則正しく眠って起きて暮らす様に比べると、随分と対照的だ。深夜1時、2時でもまだ踊り続けられるこの島は、ある人にとってはパラダイスのように映るのだろう。
「You can do anything what you want.(やりたいことなんでも自由にできるのよ)」と語学学校の先生は言ってた。やっぱり自由だな、と私はいつもマルタで思う。
フラットの扉を、誰かがノックする音がする。まるで遺跡みたいな語学学校の敷地内には、プールを中心に教室とフラットが並び、クラスメイトたちは「ねぇねぇ今日は何をする予定?」とよく尋ね合う。
「あーそーぼ!」みたいな誘い方をし合うのは、なんだか高校生の頃、いやもしかしたらもっと前かもしれない。小学生の頃を思い出すみたいで、少し楽しい。
ここでの毎日は、「英語を学ぶ」というよりも「英語の中で暮らす」と表現した方が近い気がする。
「リラックスした空気の中で、英語を話しながら身につける」。様々な国の人に囲まれながら。常識なんか全部取っ払って。
突き抜けるような青い空と、信じられないくらい美しく透き通り輝く海。バスに乗れば、世界遺産の街並みがすぐそこに広がる。地中海までは歩いて10分。ただ、ここにいないのはあなただけ。それでも「磨いて帰るから」と言い訳をして、私は今日も英語を話すために街に出る。
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