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どうやって出版社を立ち上げたのか?に答えてみる

自己紹介の記事で「どうやって出版社を立ち上げたのか?」という質問をいただきました。これは以前からよく聞かれることのひとつだったので、この機会に振り返ってみることにします。


出版社を始めることになったきっかけ

 実は私、出版社を立ち上げる前から、北インド料理についての本を書いてきました。書き始めたきっかけは、当時インドに行ったり、日本でインド人と一緒に仕事をする中で深く知っていくことになる北インド料理の姿が、巷でよく聞く北インド料理のイメージと全く異なっていたことが気になったからでした。せっかくリアルな北インド料理に触れられる環境があるので、記録として本にまとめようと思ったんですね。そして今まで本に関わる仕事なんてひとつもしたことがなかったのに、いきなり「ZINE」という形態の本を作りました。出版社設立の前だったので、自分で原稿を作って印刷会社に入稿し製本してもらい完成(自分で印刷、製本してもOK)。そうしてできあがったのが北インドおうちカレー上・下と北インドの食卓の3冊です。

 同時期に、当時いろいろと仕事を頂いていた飲食店経営で調理師・フードコーディネーターの山本ジャーニー氏から“私のレシピ本を作ってほしい”という依頼が。自分で自分の本を作るのは、自分の頭の中にある情報を文字に起こすことに近い感覚だったんですが、人の本ということになるとそういう単純な話ではなくなってきます。話し合いを重ねて苦心して出来上がったのがこの「世界一周ナニソレシピ」という本でした。

 旅のエッセイ×レシピというテーマで取り組んだ本で、本を作りながら知らない土地の話を聞くことができました。人の本を作るということは、その人の世界に触れるということなんですね。そういう視点で周囲を見渡してみると、なんだか本を作ってみたくなる職人さんが知り合いにいらっしゃったんですよ。それで、せっかく人の本を作るんやったら、今度はきちんと本屋さんに流通させられるようにしてみようと思い、出版社を立ち上げることにしました。

どんな手順で立ち上げたのか

 出版社を立ち上げるために必要な作業自体は簡単で、日本図書コード管理センターに必要事項を届け出て、ISBN(国際標準図書番号)を取得して登録料を支払う、日本国内の書店さんに流通させてもらうために必要な書籍JANコードの利用登録をして登録料を支払う、これだけです。全て日本図書コード管理センターのウェブサイトから行います。

日本図書コード管理センターのウェブサイトはコチラ

ちなみに書籍JANコードの利用登録は、出版社の立ち上げには必須ではないので、ISBNさえ取得することができれば、一応出版社ができたことになります。
 また、この利用登録は個人、法人のどちらでも行うことが可能です。個人事業として出版社を始めたい場合は個人で登録することになりますが、所在地=現住所となってしまうことがあるので注意してください。出版社の名前と所在地は公表されます。

 自分の備忘録も兼ねて、もう少し詳しい解説もしてみます。本の裏側を見てみると、13桁のISBNと、その下にアルファベットのCとそれに続く4桁の数字、その右側に¥マークから始まってとアルファベットのEで終わる文字列、そしてそれらに隣接する形で配置される二段のバーコードが見つかります。
 ISBNは国際規格で、その数字からはこの本が“どこの国”の“どの出版社”から出された“どの本”なのかが分かります。Cから始まるものはその名もCコード(分類コード)、¥マークから始まるものは価格コードと呼ばれ、それぞれ、この書籍が分類されるジャンルと税抜価格を表していて、日本独自の規格です。ISBNとCコード、価格コードの3つを合わせたものを日本図書コードと呼び、二段のバーコードは日本図書コードをバーコード化したもので書籍JANコードと言います。

 出版社を始めるにはまず、日本図書コード管理センターのウェブサイトからISBNを自分の出版社に割り振ってもらうための手続きを行い、次に、日本国内の書店さんに向けた流通に対応するための書籍JANコードを使用するための利用登録を行います。どちらの手続きも登録料が必要ですが、ISBNは何冊まで書籍の出版が行えるか、書籍JANコードは書籍の売上げに応じて変わります。
 私は日本図書コードと書籍JANコードについて理解するのに最初苦戦しましたが、出版社立ち上げに必要な手続きは、ISBNと書籍JANコードの利用登録の2つだけです!

ちょっとおもしろい話

 納本制度、というのがあります。国立国会図書館に出版物は納本してくださいね、という話なんですが、実はこれが任意ではなく義務なんですね。出版物は例え個人の小さな出版社から出されたものでも納本制度の対象になります。国立国会図書館のウェブページには「納本された出版物は、現在と未来の読者のために、国民共有の文化的資産として永く保存され、日本国民の知的活動の記録して後世に継承されます。」とあり、納本された本の制作に関わった全ての人達の生きた証が国立国会図書館に残ることになります。

国立国会図書館

苦労した話

まずなんといっても資金繰りです。これにはめちゃくちゃ苦労します。まず本作るのに制作費はかかりますし、時間もかなり使います。本が完成すると印刷ですが、印刷にもある程度のお金がかかります。たくさん刷れば刷るほど1冊あたりの単価は下がりますが、そんなたくさんまとめて刷っても売るアテがなければどうしようもありません。印刷代は販売価格の3割に収めるのが良いと言われているようですが、一回で何万部も刷れるところと、せいぜい頑張っても2000部みたいな私のところでは1冊あたりの単価がかなり変わってきます。まとめてたくさん刷れば単価が下がるわけですが、そうでないと1冊にかけられる原価が低くなるんですよね。つまり、1冊あたりの原価予算を増やせれば、それは本の見た目をより良くするために使えたりもするわけです。
 そして本が刷り上がったあと、その本が売れればお金が入ってくる…かと思いきや、BASEなどのECサイト経由で販売する場合は一度ECサイトに売上が入り、そこから自分たちの口座に売上金が振り込まれます。これは毎月自動でやってくれるところもあれば、出金手続きが必要なところもありますが、いずれにしても売上の入金は即時ではありません。取次の会社さん経由で全国の書店さんに本を置いてもらう場合、その精算は半年後となる場合が多いようです。つまり売上が確定するのが半年後なのです。イベント出店などを行えばその場での現金収入にもつながることがありますが、イベント出店の機会は週末や祝日に集中しますので、いつでもどこでもというわけにはいきません。
 このように、私も出版社を始めてみて改めて実感した資金繰りの難しさがあります。出版社を立ち上げる前には、自分がどうやって本の在庫を売上に変えていくか、作戦を練ってみた方がいいです。

これから出版社を作りたいと思っている人へ

自分の出版社があるとどのような本を作るかをある程度自分の裁量で決められるようになります。出版社を立ち上げて何を成し遂げたいかは人によってそれぞれですが、私は「こんなレシピ本があったらええのに」というのを、それに必要な専門性を持っている方々と一緒に、少しずつですが形にしていっています。
 自分一人では生み出せなかったアイデアも形にすることができ、炊いて食べきりのビリヤニレシピ本「おうちで炊ける本格ビリヤニレシピ(星宮絢佳 著)」、いま手元にある野菜からレシピが探せる「カリ〜&アチャール辞典 冬春版、夏秋版(安川知廣 著)」は、既に多くの方々に手にとっていただけており、またこういう本が欲しかったという感謝の声もいただいております。あまり景気の良い商売とは言えませんが、なにか成し遂げたいことがあるという方には、もしかすると出版社はひとつのツールにはなるかもしれません。私は引き続き、こんな本が欲しかったと皆さんに喜んでいただけるようなレシピ本作りを今後も続けていく予定です。

ここまで読んでいただいてありがとうございました!
次回は世界放浪記その2、インドに行ったときにレストランのキッチンに入れてもらった話をしたいと思います。お楽しみに!

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