子供の頃からテレビや映画で見ていた「やられ役」ってやつにあこがれて、18の頃、ひょんなことから京都の東映撮影所に潜り込み、数年の間、ヤクザ映画やテレビの時代劇などでスタントマンや殴られ役・殺され役・斬られ役をやっていた。 やがて上京し、今度は演劇活動をしているうちに何故か声の仕事の世界に足を踏み入れる。CMナレーションを中心に、それほど多くはないがアニメや洋画の声の吹き替え、当時多数作られていたVシネマ、テレビドラマなどにもちょこちょこと顔を出している。 アニメではわずか
《愛と公平の京旅行》…3 ⑩*東映太秦映画村 助監督「はァーい、本番! 皆さんしばらくの間お静かに お願いしまーす!」 監督 「ヨォイ!…スタァートッ!」 カチンコの音が響き、ある屋敷の塀沿いの 道を美しい娘が駆けて来る。どうやら数人 のヤクザ風の男たちに追われている様子。 とそこへ、一人の若侍が通りかかる。 娘 「あっ、お侍様、お助けください」 ヤクザ「て、てめエ! じゃまだてしやがるとタダじゃ おかねエぞ!」 侍 「ほう
《愛と公平の京旅行》…2 ⑤*哲学の道 愛 「な~んかここロマンチックぅ。 …哲学の道? 京都っていいとこ いっぱいあんのねー」 公平「ああ、ここは女の人が一人物思いに 耽って歩いてる…なんてのが絵に なる場所だね」 愛 「………」 公平「…? どしたの? 急に黙っちゃって」 愛 「ふふ、あたし…絵になる?」 公平「…うん、どっちかっつーと…漫画」 愛 「んもォ! どーせあたしはギャグ キャラですよーだ! プリプリ!」 公平「(笑)ご
いつもより長めのストーリーになったので、 今回は全3回に分けて公開しますね。 《愛と公平の京旅行》…1 ①*嵐山・渡月橋 公平「上流がね、川下りで有名な保津川。 で、この橋の辺りが大堰川。 その下流からは桂川っていうふうに、 名前が変わるんだよ、この川」 愛 「ウソッ、ホントに?!」 公平「そ。あとねー、恋人同士が京都旅行をして この渡月橋を渡ると、そのカップルは必ず 別れるっていうウワサがあるんだ」 愛 「へえ、そうなんだ。へーえ…
《光の中の君》 いつものコーヒーショップ。 表の歩道には、 眩し過ぎるほどの夏の陽射しが降り注ぎ…。 君は、 そのほとんど真っ白に近い光の中で、 ガラス越しにこちらを覗き込んでいる。 こんなに近くにいるのに、 なかなか見つけられないようだ。 眉を八の字にして、 ベソをかいたような顔。 そこのドアから入ってくれば、 すぐに笑顔になれるのに。 でも、 そんな君がとても可愛い。 もう少しこうして見ているのもいいな。 あ、 ようやく気づいたのか、 君の瞳が輝いた
《いつもの人・その1》 うん、やっぱりね…、 コーヒーショップには、 女の子がいる方がいい。 その方が、 コーヒーもグッとおいしくなる。 別にナンパしようとか そういうんじゃないんだ。 いるだけでいい。そこにね。 ボクがいつも行く店にも、 カワイイ子がいる。 小学校の時の初恋の人に、 ちょっと雰囲気が似ていて、 清潔感のあるいいコなんだ。 しょっちゅう行ってれば 当たり前かも知れないけれど、 「コーヒー」って注文すると、 いつの頃からか、 ちゃんといつものや
《真田広之という男》 あれはオレが京都から上京して間もない頃だから、1980年頃のことだったろうか…。日付までは覚えていない。ある日の午後。東京・山手線新大久保駅ホームでのことだ。 オレはたしか外回り電車のドア脇に立っていた。そして客の乗降が終わり発車のベルが鳴りだしたその時だった。 突然ホームのほうから「あっ、富田さん!!」という声が聞こえて来た。フッとそちらを見て「おーっ、ヒロくん!!」とオレも思わず声を発していた。しかしすぐにドアが閉まり無情にも電車はホー
《 時間(とき)の流れに身をゆだね… 》 カフェ、 コーヒーショップ、 喫茶店にティールーム…。 呼び方はいろいろ。 お気に入りの店で、 私はいつもコーヒーを飲む。 私にとってそこは、 ただお茶を飲むだけの場所ではない。 そこは、“時間(とき)を過ごす”場所。 静かに…。にぎやかに…。 これもいろいろ。 どんな雰囲気であれ、 そこが“自然”であればいい。 その店独特の空気が、 何者にも邪魔されず、 何事にも惑わされず、 時間(とき)がゆっくりと流れる。 その
《海辺のコーヒーショップから》 もしもし… ハイビスカスの花が、 第一号が咲いたから、電話してみたんだ。 キミにもらったハイビスカスだから。 …何かきっかけがないとサ、 電話出来なくて…。 ねえ、 最近、月がまん丸いの、知ってる? きれいだったよ夕べ、とっても。 ベランダから部屋に光が射し込むんだ。 月の優しい光に包まれて眠るのは、 とても気持ちがいいんだよ。 ボクのケンタッキーカーネルはどう? 持ち直しそうかい? 今、キミの町に来てるんだよ。 何となく…
《男と女 〜ある午後の物語〜》 客もまばらな昼下がりのカフェ… ボクはいつものように ノースモーキングテーブルで、 原稿用紙に向かっている。 しかし、手にしたペンは一向に進まず、 体はお昼前に起きたけど、 思考機能の方はまだ眠っているようだ。 (ああ、締め切りが近いというのに…) アイデアのかわりに出て来るのは、 煮ても焼いても食えないタメ息ばかり。 コーヒーの表面からまっすぐに立ち上る湯気に、 そのタメ息がぶつかり、湯気の流れが乱れた。 その時、 テーブ
《 ギョウザ殺人事件 》 辰夫は、新宿からずっと憂鬱だった。 地下鉄丸ノ内線、池袋行き車内。 夕方、 恋人の智子を家まで送って行く途中である。 辰夫の憂鬱の原因は、 新宿駅から隣の座席に座ってきた、 帰宅途中のサラリーマンらしい男だった。 彼は息が臭かった。 ギョウザを食べたばかりだとすぐわかった。 仕方ないと思った。 ギョウザを食べてはいけないなんて法はない。 呼吸をするなとも言えない。 運が悪かったんだ。 どうせ次の乗換駅で降りるだろう。 それまでの辛抱だ
《別れの朝》 もうすでに運命は決まっていた。 いつとは知れず、ずっと前から、 全てがその方向に流れていたのだ。 女から告げられた別れの言葉は、 彼を激しく打ちのめした。 最後の朝…。 女の心は、もはや恋人のそれではなく、 心変わりを詫びる思いか、 あるいは、 哀れみにも似た母性の表れか、 いつになく優しいものだった。 そして男は…、 (いやだ。別れたくない…。 ボクはまだ彼女を愛している…) 突然我が身に降りかかった現実への、 女々しいとも言える抵抗、
《 Cafe 1430 》 とあるカフェ…。14時30分ちょっと過ぎ。 また会ったネ。 遅いランチ? 今日も、一人で? なんか、とっても疲れてるみたいだネ。 自分で肩を圧したり、首筋を揉んだり、 時々背中を伸ばしたり…。 他のお客が出入りするその向こうに、 そんなキミを見ても、 何ともしてあげられないのがもどかしい。 時折窓の外を、 ちょっと憂いをたたえた目で ボーッと眺めたりして、 一体何を考えているのだろう。 ふとキミの心の中、覗いてみたくなる。 一度
今回は、以前載っけた『テメェ、ジイさんに謝れ…心から』にも登場の俳優探偵・萬屋公介シリーズ第2弾です。 『静かにしろ! このブタ!!』 オレの名は、萬屋公介。 職業は俳優。得意はアクション。特に鍛錬はしてないが、殺られ役をやらせればそこいらのアクションクラブの連中に引けを取らない。 ただ、売れてないのが玉にキズ。売り込みが弱いのはわかっている。エージェントも弱小だが、オレ自身そっち方面の情熱が希薄なのも事実だ。じゃあどっち方面に情熱を注いでいるのかと言えば…、
*コレもまた、ショートストーリーというよりも、ある日ある時のワンシーン* 《オレンジ色の光の中で》 夕暮れ時のやわらかいオレンジ色の中で、 彼女は彼の肩枕で、 静かな寝息を立てていた。 電車の窓から吹き込む風が、 時おり、彼女の長い髪をすくいあげ、 彼の唇のあたりをくすぐる。 彼はそれを払いのけようともせず、 やはり目を閉じ、 ひたすら眠ったふりを続けている。 きっと、清潔なシャンプーの香りと、 その感触を楽しんでいるのだろう。 電車がどこかの駅に着いた時、
*今回はとってもショートなストーリー…と言うより「ワンシーン」と言ったほうがいいかナ* Noriko ~そんな彼女が好きなのサ~ そろそろ彼女がやって来る時間だ。 ボクは、近くのバス停まで迎えに出かけた。 彼女を乗せて来るバスは、 通りの向こう側の停留所に着く。 通りのこちら側にあるベンチにかけて、 ボクは彼女のバスを待った。 ほぼ定刻通りにバスはやって来た。 そのバスが行ってしまうと、 そこに彼女の姿が現れた。 ボクは軽く手を挙げる。 すると彼女は、小さく首を