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JR東日本×KDDI「空間自在プロジェクト」が目指す、「ヒト起点」での分散型まちづくり

これまでこのnoteでは、JR東日本 品川開発プロジェクトチームのメンバーがJR東日本による高輪ゲートウェイ駅周辺一帯の品川開発プロジェクトの思想や取り組み、開発の具体的な内容をお伝えしてきました。
>>https://note.com/tokyoyard

今回は昨年末に発表された、JR東日本とKDDIの協業による、品川開発プロジェクトをコアとした新たな分散型まちづくりプロジェクト「空間自在プロジェクト」をテーマに、JR東日本の丸野幹人、KDDIの村西美幸と横田清夏がご紹介します。
>>https://nscity2020.com/

分散化と共鳴するバーチャルとリアルのアセット

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左から横田清夏/丸野幹人/村西美幸

──まず「空間自在プロジェクト」とはどのようなプロジェクトでしょうか。全体像を教えてください。

丸野:
JR東日本が高輪ゲートウェイ駅を中心に品川・高輪一帯ですすめる「品川開発プロジェクト」をコアシティに、分散拠点としてのサテライトシティを日本各地に創造するプロジェクトです。

鉄道事業者であるJR東日本がもつ物理的な移動のリアルネットワークと、通信事業者であるKDDIさんがもつネットワークをベースに、駅・街・移動の「リアル」と通信の「バーチャル」空間を融合させることで、場所や時間に捉われない多様な働き方やくらしを創出する新しい分散型まちづくりをコンセプトとしています。

──JR東日本とKDDI、それぞれのどのような考えが重なって協業に至ったのでしょうか。

横田:
JR東日本さんと協業の具体的な検討をはじめたのは2020年の4月。まさに昨年の緊急事態宣言下でした。新型コロナウイルス感染拡大を契機に生活スタイルや働き方、社会そのものの価値観が揺らぐ変革期を迎え、密を避けるうえでもヒトの流れの分散化が求められていました。

これまでは都心の会社に出社することが当たり前でしたが、テレワークが浸透し、必ずしも毎日出社する必要がないことも認知されました。ヒトのくらしに寄り添ってサービスをつくるにあたり、働く場所を生活圏に近づけていく空間の設計はより重要になると考え、リアルとバーチャル空間の両軸から分散化するまちづくりを検討するに至りました。

──そこで、それぞれがもつリアルとバーチャル空間のアセットが重なった、と。

村西:
そうですね。両者のアセットがリアルとバーチャルにあることはわたしたちも認識していて、手を組むことによりKDDIが提供するバーチャル空間での体験価値と、バーチャル空間では補えないリアルの体験価値をJR東日本さんのインフラを通して考えていくことができます。

丸野:
デジタルサービスを提供するKDDIさんの技術は、これまで物理的なインフラを中心に提供してきたJR東日本にはないものです。またプロジェクトをすすめる迅速性や柔軟性も、わたしたちに足りないところですから、協業によってお互いをより良く補い合えると考えています。

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丸野幹人:JR東日本事業創造本部品川まちづくり部門に所属。企業との協創プロジェクトに従事。特にKDDI株式会社とのサービス企画を担当。

横田:
わたしたち通信事業者は、これまでお客様の目に見えにくいネットワークインフラやプラットフォームの提供を本業としてきましたが、最近はライフデザインサービスといったお客様へ直接お届けするサービス価値の創出に注力しています。

また、お客様のくらしに必要なものをバーチャルな空間とリアルな空間で、場所に捉われることなく、両方のフィールドで提供することも非常に重要です。これを「空間自在」というコンセプトとしており、これまでバーチャル空間上で積み重ねてきたデータやノウハウを、いよいよ品川開発プロジェクトのまちづくりという大規模かつリアルな空間で活用し、実験を繰り返すことができる。これが大きな魅力でした。

「分散化社会」を実現するための、「ヒト起点」のまちづくり

──「空間自在プロジェクト」が分散型のまちづくりを掲げるのはどのような課題が起点になっているからなのでしょうか。

丸野:
きっかけとしてはコロナウイルス感染拡大がありつつも、「東京での都市開発はこのままのありかたでいいのか」という課題感が同時にありました。

──といいますと?

丸野:
これまでの都市開発は、ひと、モノ、資源・エネルギー、情報、テクノロジー、会社──すべてを都市部に集めて効率性を重視する「拠点集約型の都市づくり」でした。

つまり、ひとつの街のコンセプトありきでひとが集まってくるというものです。そうすると、土地の高度利用によって多くのひとを集めて収益をあげたいという、不動産開発事業者の都合で街ができあがっていってしまいます。

そうした事業者目線の街をつくるのではなく、人の暮らしに合わせて街を最適化させた「ヒト起点」で考えながら選択肢を提供し、都心や地域、ひと同士が有機的に結ばれながら共存していく。それがわたしたちなりの解決策であり、実現したい分散型のまちづくりだと考えています。

──「ヒト起点」で考えたまちづくりを行うにあたって、どのようなひとの課題やニーズにフォーカスしていきながらすすめていくのでしょうか。

横田:
空間自在プロジェクトでは、働く人/住む人/訪れる人に対して、「ワークプレイス」「モビリティ」「ビジターサービス」などの価値を提供していこうと考えています。

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横田清夏:KDDI経営戦略本部経営企画部 兼 ビジネスインキュベーション推進部に所属。企業との協創による新規事業立ち上げに従事。本プロジェクトでは、事業開発・プロジェクト管理を担当。

「ワークプレイス」は、どこにいてもオフィスと同等以上の生産性を発揮でき、欲しい情報にリアルタイムに繋がる、空間の制約を超えた働き方をできる空間を提供するサービス。「モビリティ」は、あたらしい街や周辺エリア、都市間を結ぶラストワンマイルのモビリティサービスの検討と実装、「ビジターサービス」は、誰もが高輪ゲートウェイ駅周辺に立ち寄りたくなるエンターテインメントなどのコンテンツの提供です。

それぞれ、2024年度のまちびらきまでに検討から実証実験、実装を段階的に行う予定となっており、まずは「働くこと」にフォーカスをあててプロジェクトを進めていきます。

──最初に「働く」ことに焦点をあてたのはなぜでしょうか?

村西:
人は1週間のうち5日間働くわけですから、当然働くことが人生の中では大きな割合を占めます。ですから、人はその働く場所を起点にして住む場所を決めますよね。働く場所に人がいて、家族がいて、生活が生まれていき、文化や地域、産業が形成されていきます。

しかし働く場所の選択肢が固定化されてしまうと、どうしても人の生活もそれに縛られてしまいます。これが東京の一極集中の要因のひとつでもあると捉えているので、まず「働く場所」のあり方を問い直す必要があると考えています。

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村西美幸:KDDI経営戦略本部ビジネスインキュベーション推進部に所属。新規事業の企画推進に従事。本プロジェクトでは主にコンソーシアムの企画運営を担当。

丸野:
従来の「一極集中型都市」のありかたを解消するために、ニュータウンやベッドタウン開発など、これまでに様々な都市開発が郊外で行われてきました。しかし、働く場所は都心にありつづけていたため遠距離通勤も発生しますし、郊外のニュータウンには「住む」という機能しかなく、結果的に経済圏は都心に集中したままです。つまり、「住む」と「働く」の距離は遠くなってしまいがちだったのです。

働くことと生活を切り分けた都心と郊外/地方の関係性ではなく、デジタルとリアルなネットワークでしっかりとコネクトすることで双方の距離を小さくし、都心と郊外/地方どちらでも同じように働くことができるようにする。それによって、都心と郊外のフラットな関係性をつくる。そう考え、まず「空間自在な働き方」の実現から取り組んでいくことになりました。

時間と空間を超え、「課題」で繋がるコアシティ/サテライトシティを

──「空間自在な働き方」の実現のために、具体的にどのようなサービスを提供していくのでしょうか。

丸野:
まず、コアシティである(品川開発プロジェクトでできる)あたらしい街で、5Gを前提とした通信インフラと都市OSをJR東日本とKDDIさんで構築します。警備や清掃、物流、駐車場、防災などの都市機能に必要なネットワーク・インフラサービスの提供も検討しています。

「働く」という点においては、これらのネットワークとインフラを構築することで、分散拠点である日本各地のサテライトシティ、さらには海外と時間と空間の制約を超えて繋がり、あたらしい事業を生み出すビジネス創造プラットフォームとしての機能を果たすことを想定しています。

──都市周辺・日本各地のサテライトシティではどのような取り組みをすすめていくのでしょうか。

横田:
まず、「空間自在な働き方」の実現の第一弾として、分散型ワークプレイスの開発による、働き方の分散化支援を進めていきます。具体的な機能としては、離れた会議室の空間が一体となった分散仮想プロジェクトルームや、入室と同時に社内と同じ環境に接続できる社内イントラ接続・切替機能の提供、ID連携によりプロジェクト環境を再現し、前回の続きから会議を再開できる保存可能な会議室の実装をそれぞれのワークプレイスで検討しています。

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村西:
テレワークがある程度浸透しつつあるなかで、現在もっともあらわになっている課題のひとつは、分散したオンライン環境におけるコミュニケーションの脆弱さです。

会社の会議やライブビューイングなどでの常時複数接続といった用途では、自宅などの回線スペックが追いついていないために、音声や映像に遅延が生じてしまうもどかしさを多くの方が感じているのではないでしょうか。また誰かの会話中、周囲は発言や雑談をしづらく、コミュニケーションというよりも一方的なスピーチのようになってしまいがちです。

映像の品質や実際の空間と同じような距離感での音の聞こえ方など、臨場感のある身体的なコミュニケーションに近づけることが可能で、これらは5月から実証実験が開始される予定です。

──日本各地のサテライトシティとのことですが、対象となる地域は決まっていますか。

丸野:
実証実験段階では首都圏を繋ぐところから始めようと考えており、東京、神奈川、埼玉のそれぞれハブになる都市を予定しています。

──なるほど。これからどういう基準でサテライトシティを決めていくのでしょう。

横田:
実証実験は、人が一番多く住んでいる首都圏とその中核都市、住宅中心に構成された都市になります。しかし、単純に場所でサテライトシティを定義し開発を進めるのではなく、ニーズや課題に分けて徐々に展開していく予定です。

働く人を例にした場合、いままで毎日都心に通っていたけれども、コロナ禍にあって東京まで出社することが難しくなったことが郊外のお客様の課題で、地方の課題は都心にいくことではなくその場所で自立した産業が発展していくことやひとを呼び込むことであったりします。

本プロジェクトは高輪ゲートウェイ駅周辺の新しいまちをコアシティと位置付けていますから、東京の都市部とその外にある街や場所を繋げるとなったとき、郊外/地方などの言葉を使うことはありますが、都心・郊外・地方の切れ目を定義して拠点をつくっていくというよりも、郊外フレキシブルワーク型・ワーケーション型、産業創造型など、それぞれの課題にあわせ、物理的制約を超越した空間サービスを提供することを目指しています。

丸野:
JR東日本はSuicaが持つ人の流れのデータ、KDDIさんはスマートフォンを用いた位置情報(企業が用いることができる範囲内)にもとづいたデータがあります。人が日常的にどのような目的でどこに向かっているのかの仮説を立てることができますし、そこから導き出す課題に合わせた環境構築を行っていきます。

新幹線ワークプレイスと「品川開発プロジェクト」というグリーンフィールド

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──分散型ワークプレイスだけでなく、「新幹線ワークプレイス」に向けた実証実験も予定(2021年2月実施)していますよね。ただ、私物や会社貸与のWi-Fiルーターを持っていれば座席で仕事はできてしまいます。具体的にどのようなところに違いがあるのでしょうか。

丸野:
通常の新幹線車内では、デッキに出て通話する必要があります。今回の実証実験で設定する「リモートワーク推奨車両」では、通話やウェブ会議が座席でできるという点が異なります。現在の実証実験としてはシンプルな考え方ではありますが、車内での通話やウェブ会議のニーズは高いと考えており、その障壁の突破はかなり大きいと考えています。今後、実証実験によって得たアンケート結果をもとにより多くの方が仕事をしやすい環境を車内に設けることを検討しており、新幹線ワークプレイスで働きたいからそこで働くというよりも、移動中においてシームレスに仕事ができる環境と選択肢をサポートすることをコンセプトにしています。

村西:
一方、KDDIでは全国に5Gの展開を進めておりますが、これからは新幹線オフィスのように移動しながら働ける空間にも、高速大容量で高品質な通信環境を提供していかなくてはと考えています。
そのため、今回の実証実験では、利用者が移動しながら働く空間として、新幹線でどのような通信のニーズがあるかなどを把握することで、今後、利用者にとって快適な環境を提供していくことに繋げたいと考えております。

──新幹線の活用と5Gの組み合わせは鉄道事業者であるJR東日本と通信事業者であるKDDIならではの試みだと思いますが、構想全体としてみたとき、このプロジェクトの独自性とはどのようなところにありますか。コネクテッドシティやスマートシティ構想は「品川開発プロジェクト」に限らず世界中で行われていると思います。

横田:
まず、品川開発プロジェクトのような広大なグリーンフィールドでのゼロからの開発は、世界を見渡してもそう多くはありません。街そのものが「実験場」というコンセプトで開発されており、ニーズを基盤にしてサービスを考えることができるフィールドというのは、一通信事業者としての立場を超えて魅力的です。

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そのうえで、私たちの掲げる分散型のまちづくりは、一般のスマートシティのようにある街や都市のなかをデジタル技術で制御しようとするのではなく、ニーズに合わせて街と街をより広い範囲にリアル/バーチャルの双方によって繋いでいくコンセプトを独自の取組みとしていきたいと考えています。

丸野:
エキマチ一体のまちづくりを行い、さらに駅を飛び出して外の地域と物理的なネットワークで繋がっているのは、このプロジェクトの独自性といっていいかもしれません。

さらに、コアとなるあたらしい街のエリアは鉄道はもちろん空港へのアクセスも至近なため、陸・空のアクセスポイントにもなっています。つまり訪れる人が非常に多いので、交流のフィールドにもなります。そこも大きな特色のひとつだといえます。

「空間自在コンソーシアム」ですすめていきたいこと

──空間自在プロジェクトのもうひとつの大きな特色として「空間自在コンソーシアム」の創設があるかと思います。「空間自在コンソーシアム」の目的とはどのようなものでしょうか。

丸野:
様々な領域のパートナーの方々が横断的に集まり、リアルとバーチャルの融合による新しい価値や文化の創出を目的としています。コンソーシアム自体は、KDDIさんからご提案いただきました。

オープンイノベーションという観点ではKDDIさんのほうが何歩も先をいっていますし、様々な参画者のみなさまからアイデアやアセットを募りながらプロジェクトをすすめていくべきだと考えました。

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──具体的には、これからどのような方々に集ってほしいと考えていますか。

村西:
スタートアップから大企業、自治体や有識者など、時間や場所に捉われないくらしという考えに共鳴していただける、あらゆる領域の方々関わっていただきたいです。

そのなかで、まずは5月から行われる実証実験にアセットを持ち寄ってともに企画・実証し、サービス化を進めていただける企業のみなさま、またワークプレイスを使いながら働き方や提供サービスに何を付加していくべきかを考えていただける方に参画していただきたいです。

丸野:
今後は、働く環境整備に悩みを持つ法人のお客さまやワークプレイスの提供サービスにノウハウを持つ事業者様とともに、情報提供や意見交換会、実証実験を行っていくワークプレイスコミュニティ活動をコンソーシアムのなかで開始します。まずは「働く」ことを起点に分散型のまちづくりを考えていきますが、「住む」「遊ぶ」など、「働く」ことの先にある暮らしに必要なものを見据えて構築していく必要があります。

品川開発プロジェクトほどの規模の都市開発はそれほど多い例があるわけではなく、JR東日本にとってもはじめてのことで、JR東日本とKDDIだけで実現できるものではないと考えています。ひとの繋がり方が常にかたちを変えていくなかで、ひとに必要な繋がりとは何なのか。「ヒト起点」にした分散型のまちづくりの価値に共鳴していただける皆様と、街をつくりながら考えていきたいと思っています。

インタビュー・構成:和田拓也
撮影:山口雄太郎
ディレクション:黒鳥社

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