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おもてなしの天才"ダニー・マイヤー"から学ぶホスピタリティ経営

ダニー・マイヤーDanny Meyerの経営哲学が素晴らしい。

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彼はユニオン・スクエア・ホスピタリティ・グループ(USHG)最高経営責任者CEOとして知られており、主にレストランビジネスを手掛けている。日本ではあまり有名な経営者ではないかもしれないが、ハンバーガーショップシェイクシャックShake Shack」の創業者と言えばピンとくる人もいるだろう。

最近、彼が出版した本「おもてなしの天才 ニューヨークの風雲児が実践する成功のレシピ」(原題:Setting the Table: The Transforming Power of Hospitality in Business)を読んだ。

コンパクトな本でありながら、どのページも金言だらけだったので、気になる点を note にまとめてみた。飲食店関係者だけでなく、「おもてなし」に携わる人たちに是非読んでほしい一冊である。

□ ホスピタリティはビジネス哲学の基盤である

ダニー・マイヤーは、レストランの総支配人として「ホスピタリティ」を第一と考えている。しかし、利益を優先するのがビジネスマンであり、当然「数字」も気にしなければならない。そんな彼が紆余曲折を経て分かったのは、「ホスピタリティはビジネス哲学の基盤」である。ホスピタリティがあるからこそ会社は成長するのだ。

ホスピタリティはわたしのビジネス哲学の基盤である。どんな商取引においても「相手をどんな気持ちにさせるか」は重要だ。相手のためを思ってなにかをすれば、それがホスピタリティになる。相手に対してただなにかをするだけでは、ホスピタリティとは言えない。「相手のために」か「相手に」か、その違いは大きい。

人は赤ん坊のあいだに、人生における最初の贈り物を四つ受ける。目をあわすこと、ほほえまれること、抱きしめられること、そして食べ物だ。この四つこそがもっとも純粋なホスピタリティの受け渡しであり、人がその後、一生求め続けるものなのである。

レストランはおいしい料理を出すのが仕事だと、わたし自身も思っていた。しかし、もっと重要なのは、人の経験にとって、また人と人との関係にとってもプラスになり、気持ちを高めるような結果を生み出すことである。ビジネスは、人生と同じく、人の心をどう動かすかがすべてなのだ。単純でありながら、とても難しいものなのである。

□ ホスピタリティについて

ダニー・マイヤーのホスピタリティ精神は、大学生の頃に父親が経営する旅行会社を手伝う中で育まれた。ツアー客の中で一番気難しそうな人を見つけ、ツアーの終わりにはその人の旅が特別なものになるように工夫していた。たとえば、ローマのアットホームなトラットリアtrattoriaに連れていき、絶品料理を教えてあげた。お客さんはもちろんのこと、お店のオーナーにも喜んでもらえることができ、両者からチップをもらっていた。

(ツアー)ガイドの仕事はもてなしの心を養うブートキャンプだ。時差ぼけで機嫌の悪いお客様を満足させるのは厳しいが効果のある訓練だった。

ダニーマイヤーは、サービスは「独り言」、ホスピタリティは「対話」であると言っている。サービスは一方的なコミュニケーションだが、ホスピタリティは双方向性があるコミュニケーションなのだ。そして、ホスピタリティはチームスポーツのようなもので、チーム内の攻守の連携が大切である。

おもてなしはスポーツ選手の心構えでする。「攻撃」と「守備」どちらもこなし、勝利の秘策を探るのである。「攻撃」は、こちらからしかけて、お客様によい経験、よい思い出を作ること、「守備」は同じ失敗を繰り返さず、お客様が気分を害される原因を減らして、少しずつ確実に店をよくしていくことだ。

魅力あるもてなしを提供するためには、(スタッフに)楽しむ気持ちがなければならない。

ダニー・マイヤーがパリの三ツ星レストラン「タイユヴァン」で素晴らしい時間を過せたことに礼を言ったとき、支配人のジャン・クロード・ヴリナは謙遜して次のように答えた。このときの経験は、自分なりのホスピタリティを磨き続けることの大切さを教えてくれた。

「真剣にサービスをさせていただくことが、わたしどもの楽しみです。完璧と言っていただけるなら、失敗を隠すのがことのほかうまいのでしょう。」

サービスが過剰なことをホスピタリティとは言はない。「サービス」と「ホスピタリティ」は別物で、両者があって最高の店になれる。

心のこもっていないサービスはいかにエレガントでも、お客様の記憶には残らない。

サービスは「独り言」、ホスピタリティは「対話」である。お客様の側に立つというのは、お客様の言葉に耳を傾け、五感すべてで気持ちをくみとり、思慮深く、礼儀正しく、適切な対応をすることだ。素晴らしいサービスと素晴らしいホスピタリティのどちらもそろってこそ、最高の店になれる。

□ お客さんに興味を持つ

注意深く観察すると、お客さんを心地よくもてなすための情報を得ることができる。お客さんを気分よくさせることができると、お客さんはお店のファンになってもらえるかもしれない。ファンのような固定客を持つことは、レストランにとって重要だ。

わたしはお客様にごく普通の経験をしてもらうために日々がんばっているのではない。「あなたのレストランが好き。料理も好きだけれど、こうして来店するのはスタッフがなによりもすばらしいから」という言葉を聞きたいのだ。

ダニー・マイヤーは、マネージャーに「ABCD(Always Be Collecting Dots)」を指導している。これは、いつ何時も点々を集めるという意味である。「点」は情報で、「点々を集める」とは情報を収集することである。つまり、「情報収集を常にしなさい」と言っている。

マネージャーたちには、一日に十分はかならずお客様に関心をもつこと、三回は予想もされないような意思表示をすることを指示している。一年たてばひとり一千回の意思表示だ。わたしのレストランには百人のマネージャーがいるので、どれほどの回数になるか想像してもらいたい。

情報は、表情といったお客さんが発するものだけでなく、店内の湿度、ニオイ、騒がしさ、店のスタッフ(楽しく働いているか、仕事に集中しているか)などを含む。

情報が多ければ多いほど点々つなぎがしやすくなり、これはお客さんを気分よくさせるだけでなく、ビジネスで利益となるような重要なつながりも生みやすくさせる。

人は自分に興味をもってくれる人に興味をもつものだ。互いに関心を抱き、その場を共有することでよりよい人間関係ができる。お客様に積極的に関わっていけば、店がコミュニティであるという感覚と、店の共同所有者にも似た感情が生まれるのだ。

共同所有者に似た感情は、お客様がレストランを自分の店のように話すときに生まれる。友人とも共有したいと思うのだろう。共同所有しているのは、食事をした経験だけでなく、大切にされ愛情をもって接せられた経験だ。それが信頼感を育て、受け入れられ認められたという感覚を生み、結果、度重なる来店につながるのである。

お客様はトライアルとリピート、二段階のチャンスをくださる。わたしたちは、そのどちらでも勝利しなければならない。レストラン経営者にとって、はじめてのお客様を迎えるのはとても幸運なことだ。この第一ラウンドで、最高の印象を与えて勝利を収めることが大事だ。はじめてのお客様よりも、常連のお客様を大事にする店や会社が多いように感じられる。どちらのお客様も大切なのは言うまでもないが、最初がよくなければ常連のお客様にはなり得ない。

人は素晴らしい体験をしたら他の人にシェアしたくなる。たとえば、失敗体験があってもその結末がよければ、それはおもてなしの「伝説」となり、人はそのことを話したくなる。

満足していただいたお客様は、店の常連になるだけでなく、強力な支持者となる。店のよさを周囲に話して、販促活動をしてくださるのだ。できるだけ多くのお客様に、わたしのレストランで食事をすることを自慢に思っていただけるようにしたい。わたしたちの仕事は、お客様がだれかに話したくなるようなストーリーを提供することでもある。

点々集めをしてお客さんを喜ばせると、いい口コミとなるかもしれない。いい口コミは巡り巡って新しいお客さんを連れてきてくれる。いい口コミのタネをまくためにも、点々集めをすることは重要である。

どんな仕事も口コミに大きく影響される。とくに記念日、誕生日、クリスマスなどをどこで、どのように過ごしたかは話題になりやすいので、口コミを広げるよい機会である。

食事を提供するだけでなく、人という点を結びつけるミートアップのようなこともしている。人と人を結びつけることは、コミュニティ作りにも役立っている。

店のコミュニティ作りのためにわたしたちは、業種や趣味が似ているお客様の席を近くにとったり、お互いを紹介したりして、結びつけるようにしている。チャンスに満ちた出会いからは、料理以外にもよいことがうまれるかもしれない。

テクノロジーを活用して点々集めをすることも可能だ。

グーグルなどの検索エンジンは「点々集め」に役立つ。予約者リストで見つけた名前を検索し、おもてなしに有用な情報を得ることもある。

□ 既存のルールに縛られない

ダニー・マイヤーは、新しいレストランを考えるとき、自分が愛することをメインテーマにし、さらに自分が楽しめることを大切にしながら、それに合う新しい「場(雰囲気、状況)」を想像している。だから、既存のルールに縛られず、既存の筋書きに新しい何かを加えるようにしている。

たとえば、今となっては目新しくないが、国際的なワインリストを作ったり、リストのワインを原産地ではなく風味で分類したり、お客さんに向けて年に2回ニュースレターを発行したり、カジュアルに高級レストランの料理が食べられるなど、当時では新しいと思われていたことを色々としていた。

起業家のひらめきとでも言おうか、わたしは、いま存在するものとは違う食と「場」の組み合わせを作ろうと直感することがある。そのようなときは、現状をよく見て、挑戦すれば可能なのかと自分に問うてみる。「そんなルールをだれが決めた?」と問うのである。

レストランの印象をよくするために、高級地域の住所が必要だという考え方にはわたしは反対だ。しゃれた場所を手に入れられても、その多額の経費はお客様に食事代として負担させることになる。優れたレストランが高価なレストランと混同されるゆえんだ。物件のレベルを少し下げても、わたしのレストランがにぎわえば、その地域をよくできるはずだ。長期間、低い賃貸料で経営するので、お客様にも低価格でよい商品を提供できる。それによって懸命かつ冒険好きなお客様が来てくださり、ほかのレストランや企業も集まり、地域が発展する。万が一、店をたたむことになっても、市場以下の賃貸料なので譲渡先を見つけるのも容易だろう。

お店を「フランス料理」「インド料理」のようにカテゴライズするのは常識的だが、「ユニオン・スクエア・カフェ」は型にはめるようなことをしなかった。

『ユニオン・スクエア・カフェ』が長年、型にはまらない折衷料理の店でいられたのは、わたしの実験の場であったからだ。お客様の経験を豊かにしたいと願って、旅先で知った新しい味を再現してみる店だったからだ。

「立地」よりも「場」を優先とした店作りをすると、自然と既存のルールから外れた新しいものとなる。

「場」(状況、雰囲気)のふさわしさがすべてだ。適したタイミング、適した立地、適した価格、適したアイデアがあり、さらに適した「場」を得る機会と情熱があったからこそ、わたしは起業家として成功してこられた。市場分析には左右されない。情熱をもって興味のある物を新しい形で表現できるチャンスだと直感すれば、全力投球するのだ。

当時、人気のバーベキュー店は都心から離れたところにあることが多かった。だが、ダニー・マイヤーは友人のバーベキューに魅了され、都心にバーベキュー店を開くことにした。田舎のバーベキュー店という「場」のいいところとニューヨークらしさを織り交ぜ、「ブルー・スモーク」を開店した。

人々に愛されているバーベキュー店は、片田舎や街の中心からはずれたところにあることが多い。お客様は最高のリブを食べるために遠出をするという行為そのものも楽しむのだ。行動を起こし、わざわざその「場」に行くことがおいしさを増す。野球場で食べるホットドッグがおいしいのと同じだ。「場」が重要なのだ。

ダニーマイヤーは、高ランクのレストランで食事をする予約を手配するとき、ひとり客であるために断れることが多かったことを経験していた。なので、自分の店ではひとりの客でも受け入れるようにし、他の客と同じように大切にもてなすようにしている。

ひとり客に対する店員の態度の違いは、「払う料金は半分なのにひとつのテーブルを占領している邪魔な客」と考えるか、「たくさんあるお店から選んでくれたありがたい客」と考えるかの違いである。

ひとりのお客様もレストラン経営に重要な役割を担ってくださっている。よいもてなしを受けたら、まわりに勧めてまわって(もてなしのできない店は、もちろんこきおろして)くださるだろう。ひとりのお客様を心をこめておもてなしすることは当然であり、ビジネスとしても賢明である。

ニューヨーク市がレストランでの禁煙を推し進める(1995年)よりも早くお店を禁煙にしていた(1991年)。

禁煙には反論もあった。しかし、妻の母もわたしの父も肺癌で亡くなっており、わたし自身の健康と従業員の健康のためを考えて、またなによりライバル店に先んじて人の健康に影響することに強く積極的な姿勢をとりたいとも思った。わたしにとってホスピタリティはスタッフをまず大切にすることである。おもしろいことに、禁煙にしたあと、店の人気が上がり、業績も向上したのだった。

「お客様は神様」という言葉にあるように、お客さんを一番大切にすべきだと考える人たちは多い。一方で、ダニー・マイヤーは、一番大切なのは「従業員」だと考えている。従業員を大切にすることが、結果的にお客さんを大切にすることに繋がるのである。(詳しくは後述の「開かれたホスピタリティ」を参照。)

一番大切にすべきホスピタリティは、スタッフがお互いを思いやることだ(お客様が一番だなんて、そんなルールをだれが決めた?)。それができたうえで、次に大事なのがお客様への心をつくしたもてなしである。その後、順に、コミュニティ、仕入先、投資家への心遣いをする。

「シェイクシャック」は元々チャリティーイベントに出店するホットドッグの屋台だった。安くて超おいしいホットドッグだったので、大人気となり、市の公園管理局からマディソン・スクエア・パークに常設の店を開くオファーをもらって開店した。

ホットドッグの屋台に、高いクオリティとホスピタリティは無縁だなんて、そんなルールだれが決めた?

ウェブ予約を導入することになったのも、お客さんのためだった。

わたしは、ウェブによる予約システムの導入を最初はためらった。電話を受けるスタッフの温かみや人間らしさがわたしの店の長所であるのに、それが失われると思ったのだ。しかし、オンライン予約をしたい人への扉を閉ざすのは、ホスピタリティの欠如だと考え直した。店の営業時間外の深夜にパソコンで予約をするほうが便利なお客様がいる。電話では話し中だったり、確認すると言って保留にされた挙げ句テーブルはあいていないと答えられたりして、腹立たしい思いをするお客様もいるのだ。そのようなことを考え、わたしは結局、オンライン予約を導入した。

□ 事業拡大よりもブランド確立

核となるブランドが確立していないのに、事業を拡大するのはビジネスにおいて基本的な間違いである。起業したばかりであれば、事業を拡大する前に、自分たちのことをよく知り、一番になれる分野でブランドを確立することが重要である。

汝自身を知れ。なにを、だれに売ろうとしているのかをまず認識する。焦点をしぼったビジネスをし、そのなかで一番になれば、店の価値が高まり、お客様もその商品をいつ、どのような折に買えばいいかを知るようになる。

ダニー・マイヤーのレストランが素晴らしいのは、コミュニティと密接な関わりがあることである。ニューヨークのユニオン・スクエアに初出店するとき、父親からあるアドバイスを受けて店名を「ユニオン・スクエア・カフェ」にした。当時、ニューヨーカーにとってユニオン・スクエアは特別に良い場所ではなかったが、サンフランシスコから見れば一等地だった。「お前の店が、ニューヨークのユニオン・スクエアを一等地にするんだよ」という父親のアドバイスは、自分たちのレストランがコミュニティの繁栄に貢献するという考えの元となった。また、コミュニティの繁栄があるから自分たちのレストランが繁栄するとも考えている。だから、主体的にコミュニティと関わり、コミュニティへ積極的に投資している。そうしているうちに人々はコミュニティに素晴らしいことをしてくれるお店として認識し始め、食事を通して応援したくなる。他のお店もコミュニティと寄り添うようなかんじで出店されている。

(マディソン・スクエア・)パーク再生のためには、周辺に美しい景観と活気をもたらし、地域住民が納得して利用したいと思うようになることが大事だ。コミュニティに投資しよう。潮が差せばすべての船がもちあがる。

コミュニティの繁栄がよい影響を及ぼし、投資者にも繁栄をもたらす。前庭を美しく手入れすることで、家の価値が下がることはない。さらには、一軒が手入れをはじめると、隣家もそれにならうものだ。

『シェイクシャック』は売上の数割を家賃として、マディソン・スクエア・パーク管理委員会とニューヨーク市に支払うので、お客様がバーガーやシェイクに出したお金が公園の活性化に一役買うことになる。営利団体の成功がコミュニティの財政と計画に貢献できるよい例になった。老若男女、多くの人々が公園に足を向け、みんなが公園への投資者となり、公園を美しく安全で楽しい場所として維持する可能性を広げたのだ。

□ スタッフの採用&育成

ホスピタリティというチームスポーツで優勝するには、素晴らしい人材を採用し、彼らにいい仕事をしてもらう必要がある。

会社が信念を守りながら成長し、成功を収めるためには、よい人材を惹きつけ、採用し、長く働いてもらう必要がある。「人」がレストランに命を与えるのだ。店の成功は、どんな食材より、内装より、ワインの種類より、ロケーションより、「人」に左右される。なぜならホスピタリティは対話だからである。わたしがスタッフとして採用するのはお客様の心をつかみそうな人だ。

チーム全員が、他人の喜びを作り出すというシンプルな目的のもとに集まっている同じ立場であることを忘れないで欲しい。自分の店はスター選手の集まりではない。もてなしはスポーツだ。個人の野心はチーム作りの妨げとなる。

ダニー・マイヤーが求める理想な人材は、情緒面での能力が51%、技能面での優秀さが49%の人である。多くの人手を必要とするレストランにとって、この条件を厳しく守ることは難しい。しかし、条件を満たす人材でなければ、人材不足でも採用を見送るべきだと考えている。

高いクオリティを提供しながら、温かいおもてなしをするために、情緒面と技能面の両方に注意してスタッフを採用する。理想的な候補者を100とすれば、技能面での優秀さが四十九%、もてなしに必要な生来の情緒面の能力が五十一%となる。

ビジネスは電球にたとえられる。電球の目的は蛾を引き寄せることだ。さて、蛾が寄ってくる理由の四十九%は明かりの質(明るさが電球の技能)、残りの五十一%は電球が放つ温かさ(熱が電球の情緒)と考える。ビジネスの場で、明るい光は発するものの、温かみのない蛍光灯がいかに多いことか。技能面で完璧な四ツ星レストランより心のこもった二ツ星や三ツ星のほうに、ずっと多くの人々が夢中になる理由だ。わたしのスタッフは五十一%の情緒と四十九%の技能を持つ百ワットのきらめく電球であってほしい。

従業員はとにかく五十一%の人々を採用しなければならない。技術的な研修は容易であるが、情緒面の能力を教えて修得させることはほぼ不可能だ。五十一%の人々ならば技術の研修にかかる時間や経費も少なく抑えられる。五十一%の人々はまた最高のリクルーターにもなる。

情緒面での能力が51%の人たちには、5つのスキルがある。

五十一%の人々には五つの核となるスキルがある。ホスピタリティというチームスポーツで優勝したいのなら、この五つのスキルをもったスタッフが必要だ。

①楽天的な温かさ
心からの親切心、思いやり、グラスの飲み物がつねに半分以下にならないように気づくセンス。

②知性
頭がよいだけではなく、学ぶことそれ自体を目的に、学びに飽くことのない好奇心を抱く。

③仕事に対するモラル
自分に出来得る最高の仕事をするという生来の傾向。

④共感
「他人がどう感じるか」と「自分の行動が他人をどういう気分にさせるか」を意識し、気づかい、結びつけて考えること。

⑤自覚と誠実さ
なにが自分をその気にさせるかを理解し、正しいことを誠実に最善の判断のもとにおこなう責任をもつこと。

他人の世話をすることが自分のためになるという人、つまりホスピタリティを提供することで、自身が成長するという資質をもつ人を採用することがビジネスの成功の秘訣だ。彼らホスピタリアンのエネルギー源が枯れることはめったにない。他人を大事にする機会があればあるほど彼らの満足度は上がるのである。

「トレイリング」と呼ばれるシステムを導入し、研修と面接試験を同時に行っている。そうすることで試用スタッフが自分たちの求める人材かどうかを判断することができる。また、試用スタッフは、自分が働こうとしている会社が雇い主としてふさわしいかどうかを実際に働きながら判断することができる。

どれほど注意を払って採用しても、失敗は起こる。技能的な強みや欠点は比較的見つけやすいが、情緒面の能力は判断しづらく、適材かどうかを見きわめるには、職場でともに過ごす時間がある程度必要だ。

ダニーマイヤーは、採用担当者に次の3つの仮定を立て、自分の直感がどういう反応を起こすのかを参考するようにと言っている。3つの仮定すべてで肯定的な答えが思い浮かべば、採用したほうがいい。

・仮定1 伴侶や親友、両親、兄弟など、知人のなかで、人を判断する才能に長けている人を思い浮かべる。その知人をまじえて、あなたと候補者がディナーの席をもったと仮定する。二時間、三人でいろいろな話をするだろう。候補者が去ってドアが閉まった瞬間、その知人は開口一番なんと言うだろうか。「すぐに採用だ!」か「きみはどうかしているよ!」かどちらだろう。

・仮定2 一番のビジネスライバルを思い浮かべる。ヤンキースならレッドソックスだ。候補者に入団通知を出したところ、こういう答えが返ってきたと仮定する。「ちょうどレッドソックスからもいい条件の申し出を受けたんだ。レッドソックスに入ることにするよ」これを聞いてあなたの反応は「しまった。大失敗」か「助かった!」か、どちらだろう。

・仮定3 レストラン批評家や奇譚のない意見を聞かせてくれる常連のお客様は、わたしたちのビジネスに大きな影響力をもつ。このような人が前触れもなく店を訪れたと仮定する。空いているテーブルはひとつしかなく、そのテーブルを担当しているのは試用スタッフだ。あなたの反応は「いいぞ!」か「困ったな」か、どちらだろう。

採用が会社にとってプラスとなるかどうかも見る必要がある。

(その人材は)将来トップ3になる可能性があるだろうか。トップ3になれないような人物は採用しない。わたしたちはいまよりさらに向上し、チャンピオンになるための力を必要としているのだ。

ずば抜けて強い候補者やずば抜けて弱い候補者を見つけるのは簡単だ。そのような「ずば抜けた」候補者は採用すべきではない。なぜなら組織に長期にわたるダメージを与えるからだ。

わたしたちのレストランは、各店独自の料理を出し店舗デザインもそれぞれだが、ホスピタリティは全店同じである。

コストをかけて新聞や雑誌で求人を出しても、ひとりも採用できないことがある。そんなときは工夫して求人する必要がある。

わたしは、『ユニオン・スクエア・カフェ』のお客様に送るニューズレターに、「どこかのレストランで、『ユニオン・スクエア・カフェ』で働いてほしいと思うスタッフに出会ったら、ぜひご紹介ください」と書いた。紹介してもらったスタッフが採用となった場合は、推薦者にお礼として料理かワインをサービスした。実際、この方法で、料理人とウェイターを数人、さらにはトップマネージャーも見つけることができた。

レビューサイトや雑誌でお店の評判がよければ、よい人材が集まる可能性も高くなる。

高いパフォーマンスを保ち続けていれば、才能あふれる人材が集まり、さらに高いパフォーマンスが生まれる。格式あるニューヨーク・タイムズやザガット・サーベイから高い評価をもらうと、業績が上がるだけではなく、よいチームを作るきっかけにもなるのだ。

採用だけでなく、優秀な従業員たちに長く働いてもらえるような環境づくりを整えることも重要である。

採用も大事だが、最高のスタッフに長く働いてもらうこともまたたいへん重要である。敬意と信頼をもって接したり、新しい技術を教えたり、成長する機会を与えたりしないために、優秀な人材を失うことは多い。

ホスピタリティはチームスポーツである。個人が活躍することは素晴らしいが、「個人の勝利はチームのもの」だと思える人でなければならない。

わたしの店はスター選手の集まりではない。もてなしはチームスポーツだ。個人の野心はチーム作りの妨げとなる。

スタッフがキャリアを高めるために、店の名前を利用することがあってもかまわない。また、レストランの名前と同じくらいに有名なシェフもいる。しかし、個人の勝利はチーム全体のものであるべきだ。さもなければチームを崩壊させる。

チーム全員が、他人の喜びを作り出すというシンプルな目的のもとに集まっている同じ立場であることを忘れないでほしい。ひとりでも、自分がみんなより重要な存在だと感じたり振る舞ったりすれば、チームは弱体化し、分裂してしまう。「成功は他人の力次第」というのは真実なのだ。

優れたシャンパンを作るように優れたホスピタリティチームを作り、どのお店でも共通した一貫性のあるおもてなしを提供するように努力する。

優れたシャンパン・ハウスは、年によってブドウのできが違うことを了解したうえで、毎年一貫した上質の味を作るために努力を重ねている。過去の異なる種類のヴィンテージを、すべての要素が完璧にバランスがとれるまでブレンドし、前の年と同じ味のものを作り出すのだ。これがハウススタイルと呼ばれるものだ。(中略)お客様にはワインテイスターのごとく、どの店での経験にも共通した一貫性を認めていただけるようにしたい。この一貫性を作り出すために、最高の心遣いと知性、それにホスピタリティの才能ある人々を注意深く選んでブレンドする。これこそがわたしたちのハウススタイルになるのだ。

□ リーダーの役割&育成

レストランの現場リーダーはマネージャーである。いいマネージャーがいることで、チームとしていい仕事ができる。経営者はマネージャーが自分の分身となって動いてもらえるように、会社が大事にしていることを伝えなければならない。

優れたリーダーシップには、事業についてのビジョンを明確に示すこと、高いクオリティを保ち続ける責任をチームの者にももたせること、企業としての文化的優先事項と譲歩できない価値観を定義し伝えることが必要だ。もちろん、真の指導者は、チームの者に要求することを、自分自身も責任をもっておこなうべきである。

自分にとっての中心を知り、それをはっきり示し、固執し、信じること。一緒に働く者は、あなたがなにを大切にしているかを知り、その確固とした価値観を敬い、尊重するだろう。内なる信念は苦境にあってもあなたを導いてくれる。問題解決のために新しい手段を試すのはいい。だが、核となる価値観を譲歩するのは、仕事から手を引くときだ。

人事ほどビジネスの成功を左右するものはない。なかでも重要なのがマネジャーの採用だ。マネジャーがほかのスタッフを採用し、事業の基本姿勢を定める。それらスタッフがどれほどまで高いクオリティやホスピタリティを示せるかは、マネジャーの行動にかかっているのだ。マネジメントチームの仕事が順調ならばスタッフも順調であると、わたしは信じている。

コミュニケーションは、いかなるビジネスにおいても、強みと弱み両方の源である。

マネージャーの役割や育成については、次のように語っていた。

成長には、手放す勇気が必要だ。レストランにかぎらず、ビジネス拡大のプロセスには課題が多い。細かなことまで自分でコントロールしたがる人がリーダーシップをとっている場合は、とくに難問が発生するだろう。リーダーは手放さなければならない。代わりを務められる人たちをそばに置こう。リーダーと同じように人と接し、目標達成と意思決定の方法を知っている代理人である。

わたしの店では、隔月で新人マネージャー全員に研修をおこない、マネージャーとしての仕事はほかのスタッフの仕事とどう違うかを繰り返し伝えている。料理人やウェイター・ウェイトレスなど現場のスタッフは、お客様とのあいだに満足のいく関係を作り出すのが仕事だ。一方、マネージャーは、チームメンバーの成功を助けるのが仕事になる。

テーブルの上の物はすべてあるべき位置が決まっている。それらを何度動かされようと、わたしはつねにあるべき位置にもどし続ける(コンスタントに)。あなたたちにも同じことをしてもらいたい。もどすとき、動かした人を否定するような手段はとらない(穏やかに)。だが規範は規範だ。つねに目を配り、なにかが移動していれば、からなずもとにもどす(プレッシャーを)。こうして高いクオリティを最優先で維持していきたい。

リーダーは人の上に立つ存在なので、ある程度の影響力を持つ。影響力は使い方次第で良くも悪くもなることを忘れてはいけない。

マネージャーは自分が発する言葉がどれほどの重みをもつか、また多くの人に影響するものであるかを自覚し、レストランの価値観と目標を体現する存在として、お客様だけでなくスタッフからも注目されていることを心に留めておかねばならない。

従業員は自分たちのリーダーが寛大で、親しみやすく、意見をきいてくれると思えたときに、最高の生産性を発揮する。わたしたちはマネージャーに、スタッフには「コンスタントに、穏やかに、プレッシャーを」与えつつ、抱負や不満につねに耳を貸すようにと指導している。リーダーはドアを開けるだけでなく、自らドアの外に出たり、人々をすすんで招き入れたりしてほしい。

マネージャーはスタッフよりも力をもつ。それによって両者の関係に不均衡が生まれるのはたしかだ。マネージャーはその力をレストランの利益になるように、また事業を前進させられるように、賢明に使わなければならない。一方、チームのスタッフは、マネージャーたちにさらに高い規範を求める権利がある。この相互の作用は「好循環」となる。

リーダーは、恐怖で人を支配しようとするのではなく、他者を信頼するチーム作りをするべきである。「恐怖による経営」と「信頼による経営」では、次のような差異が生まれる。

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ビジネスを効果的に進めるには、問題を排除するのではなく、創意に富んだ解答を見つけられることが大事だ。持続力のある解答を導きだすためには、適切なチームメンバーに声を上げさせ、意思決定の責任をもたせるとよい。リーダーひとりの考えで進めるよりもずっと時間がかかるが、対話や歩み寄り、さらに力を共有しようという好意的な気持ちが必然的に生まれる。

リーダーは、「だれが、なにを、いつ、なぜ」知るべきかを理解したうえで、情報を伝える必要がある。自分に影響のある決定について事前に知らされないと、人は混乱し、怒り、傷つく。

コミュニケーションの問題は、ミスコミュニケーションよりも、人の感情を無視したことで起きる。

ダニー・マイヤーは情報を事前に伝えることの重要性を「スイレンの葉」という理論で説明している。

水面にスイレンの葉がいっぱい浮かんでいる池がある。葉の上には一匹ずつカエルが乗っている。少年が小石をその池に投げると、小さなさざ波が立ったが、カエルはほとんど気づかず動かなかった。つぎに、少年はもう少し大きな石を池の真ん中に投げた。今度は大きなさざ波が立ち、スイレンの葉が一斉に揺らいだ。何匹かのカエルが水に飛び込み、残りは振り落とされまいと葉にしがみついた。さざ波は全部のカエルに影響を与えたことになる。さらに少年はもっと大きな石を投げつけた。たいそう大きな波が起こり、すべてのカエルが葉からたたき落とされた。「石が投げられる」という情報をカエルが前もって知ってさえいれば、自分から飛び込むなど、対応を考えられたはずだ。波が起きても影響はなかっただろう。

景気が悪いときにこそ、リーダーの手腕が試される。リーダーは、来客数が少ないから収益が少ないとただ静観するのではなく、クリエイティブな発想で困難を乗り切る必要がある。

景気が悪いときでも、たとえ一点でもクオリティの基準を下げることは許されない。切り詰めてしのぐより、豊かな思考を生み出すためにお金を出し、想像力を使い、勤勉に働いて乗り切ろう。

リーダーは「自覚」が大事である。

優れたリーダーは「なぜみんなは自分についてきてくれるのだろう」とつねに自問し、説得力のある理由がきちんと浮かぶようでなくてはならない。

リーダーシップはなにを成し遂げたかではなく、なにかを成し遂げたときに一緒に働いた人がどう感じたかで評価されるものだ。他人の気持ちがわからないリーダーは共感する能力がないのだ。

昇進する人は野心があったからではなく、会社の望む特質を体現できていたということなのだ。

□ メディアとの付き合い方

ビジネスが大きくなると、メディアで批評されるようになる。最近ではマスメディアだけでなく、個人がSNSを使って批評している。メディアはいいときには味方になり、悪いときには被害を与える存在で、「諸刃の剣」だと言える。メディアとうまく付き合うことは重要だが、メディアに惑わされないで目の前の仕事に集中して取り組むことを忘れてはいけない。

ビジネスは看板を掲げた瞬間、世間からの意見や厳しい目にもドアを開いたことになる。自らの核となる部分には忠実でなければいけないが、建設的な意見には耳を傾け、応え、調整を行うことが大切だ。

マスコミ対応は重要なカギだ。マスコミは、順調なときにはすばらしい味方となるが、失敗したり、人気が下がったりすると、ダメージを与える存在となる。

お客様の声に耳をすまさないで過ごすと、つぎはメガホンを通じて大声で聞かされることになる場合がある。

日々、世の中にあふれるほどある情報のなかで、人々の意識にわずかでも残ろうとするなら、効果的なメッセージを送らなくてはならない。しかもそのメッセージは、自分たちのビジネスを支持する「場」で発する必要がある。さもなければ、混乱を招くか、被害を受けることにもなりかねない。

なにごとにおいても成功すれば、そのつぎはより一層高い期待と厳しいチェックがついてくる。だが、チャンピオンならば、厳しいチェックを受け止め、あきらめることなく、期待以上の成果を出し、すばらしい成果を生み出すものなのである。

人はすばらしいことも、ひどいこともたくさん言う。だが自分は人が言うほどすばらしくもなければ、人が言うほどひどいわけでもない。ただ大事なことに集中して、自分の本質を知り、ゴールに向かって努力し、つねに寛大であり続けよう。

□ 失敗に対する考え方

失敗が起きることは必然で、失敗にどう向き合い、どう対処するのか考えることは重要である。

「失敗から学び成長すること」「毎回新しい失敗をすること」「失敗を失望に変えないように、失敗の後に素晴らしい結末を迎え入れるように執筆書きすること」など、ダニー・マイヤーの失敗に対する考え方から学ぶことは多い。成功への道は失敗へのうまい対応で踏み固められている。

ビジネスにおいて完璧はあり得ない。会社の方針に完璧を掲げるのは危険な場合もあり、また完璧を追求するあまりチームが知的なリスクをあえて冒そうとする意思をくじくことにもなりかねない。リスクを避けて慎重になるばかりでは、「ホスピタリティ伝説」の数々を生み出すことなど期待できはしないのだ。

人間であるかぎり、だれもが失敗の可能性を抱えている。レストランだけでなく、どんなビジネスにおいても、成功したいと思うなら失敗の必然性を受け入れなくてはならない。重要なのは、起きてしまった失敗から学び、成長し、利益につながる機会として受け入れ、認めることである。

波は失敗に似ている。波がひとつ去ってもつぎの波はかならずやってくる。つぎこそは乗り切る覚悟で、サーフボードの上で待機するのだ。難しい波が来たときに会社がそれにどう乗るか、つまり失敗にどう対処するかが、その会社の心と魂、才能を定義づける。それ以上のビジネススキルなどありはしない。わたしたちの会社にいるのはたくさんのサーファーである。

最悪の失敗とは、失敗のあとで結果的によりよくなるような対処法を見つけられないことだ。わたしたちは、よりよくなる対処法を「すばらしい最終章の執筆」と呼んでいる。どんな失敗も、起きてしまったものは仕方がない。当然のことながら、失敗について知りたがる人がいれば、全部筒抜けになることも予想できる。起きたことを消せはしないが、少なくとも続きの物語はわたしたちが望むような結末を迎えるように、最後のエピソードを書き加えることはできる。失敗を前向きなものに変えられるのである。最終章には、創造性、丁寧さ、寛大さ、そして誠意をもりこまなければならない。失敗を起こしたのがお客様であっても、すばらしい最終章を執筆してさしあげるべきだ。

効果的な失敗対処法ー5つのA
Awareness気づき
だれも気づかず、なんの対処もされずに放置されてしまう失敗が多い。失敗に気づけない人材は、いないも同然である。
Acknowledgement認識
「給仕係が失礼をいたしました。いますぐ新しい料理をご用意します」
Apology謝罪
「このようなことになり誠に申し訳ございません」
Alibi(言い訳)は5つのAに含まれない。言い訳(「人手が足りない」など)は不適切であり無益だ。
Action行動
「しばらくこちらを召し上がっていてください。すぐに新しいものをおもちしますので」
Additional Generosity付加する寛大さ
失敗のお詫びとして、お客様になにか付加的なもの(無料のデザートやデザートワインなど)をサービスし、穏便に済ませてくださったことへの感謝を示す。失敗の深刻さによって、料理を一皿あるいは食事代全額を無料提供する場合もある。

失敗への対処で、時間は決定的な要素になる。

最終的に問題が解決できるとわかっていても、発生後すぐに対処すれば、かかるコストがずっと少なくてすむものだ。

人というのは、遭遇した災難の話をだれかにしたがるものだ。それならば、話してもらいたいような結末を書き加えよう。想像力と創造力を駆使して、対応を考えるのである。

失敗のひとつひとつを従業員の教育ツールにする。倫理観を欠くような失敗でないかぎり、失敗をした人は新たな改善の機会を提供したことになり、チームの役に立っている。

日々新しい失敗をする。同じ失敗を繰り返すことで時間を無駄にしてはいけない。

すばらしいもてなしと優れたサービスで知られるようになったとは言え、あるいは、そうであるからこそ、わたしたちのレストランに届くお客様からの苦情の手紙はほかの店に変わらず多い。これは、わたしたちがクオリティの基準をとても高いところに置いているからだ。そのためお客様の期待はとても大きくなり、なにか不都合があると、苦情の手紙によく書かれるとおり「完全なる失望」になってしまうのだ。

長期的な勝利を考えれば、短期的に払う高いコストはそれに見合う価値がある。与えれば得られる、しかも多くを与えるほど多くを得られると、わたしは確信している。少しの例外はあるとしても、寛大な精神と問題解決のための丁寧な対応が、ビジネスが長期的な信用を得るのにもっとも効果がある。

失敗によって関係を壊してしまうのではなく、失敗を関係の修復と強化の機会としてとらえることで、ビジネスは自らの進む成功と幸運への道を踏み固めていくのである。

いま直面している失敗を乗り切ってもその後ろにはつぎの失敗が待っている。失敗にうまくアプローチすることで、自分自身と会社を差別化しようという心構えができれば、着実に仕事を成し遂げていけるだろう。

□ 「開かれたホスピタリティ」の好循環

ダニー・マイヤーは、自分たちが表すホスピタリティの相手を5つのグループに分け、次のように順位づけしている。

1.従業員
2.お客様
3.コミュニティ
4.仕入先
5.投資先

この優先順位は、会社が意思決定するときの指針となる原則となっている。そして、順位ごとに優先すれば好循環が生まれることが長年の経験で分かっているので、この順位づけを「開かれたホスピタリティ」と呼んでいる。

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この順位づけの裏側には次のようなロジックが働いている。

もてなしの心がもつ力を理解し、うまく活用したいという思いが、これまでの成功のカギとなった。わたしがもてなしの心を差し出す相手は、まず従業員、つぎにお客様、そのあと順に、コミュニティ、仕入先、投資家である。この優先順位はお客様第一の視点から見ると違和感があるかもしれないが、わたしは「開かれたホスピタリティ」と呼ぶこの考え方をこれまでのビジネスにおける選択の基礎としてきた。

ビジネスマンとして、わたしはレストランの利益を上げ、投資家のみなさんに継続的に配当を分配したいと思っている。しかし開かれたホスピタリティのモデルにおいては、まず上位四つの利害関係者に十分な配慮をしたあとでのみ、五番目の投資家への気配り、つまり健全かつ長期的な利益の配分ができる。この優先順位を変えると、開かれたホスピタリティの好循環を崩すことになり、高いクオリティ、成功、信用、そして大事な「魂」を、会社が手にする機会を損なうことになるのだ。

投資家の利益を五番目にしたのはお金を稼ぐ気がないからではない。一般的なビジネスの優先順位を逆にすることが、結果的に、より持続的でより大きな経済的成功につながると信じているのだ。それは関係するすべての人たちの暮らしに、目に見える価値をもたらす成功でもあると言える。この開かれたホスピタリティは、組織の理論として、レストランビジネスやほかの分野にも応用できる。

仮に投資家に喜びをもたらすことを最優先すれば、投資家は早くに経済的成功を受けるだろうが、それは長続きするものではない。スタッフは、自分たちやお客様の喜びが重視されない企業に勤めていることに気づき、仕事に対する誇りもモチベーションも熱意も感じられなくなって去っていくだろう。従業員が入れかわってばかりの企業になってしまうのだ。

優先順位五番の投資家のためには、そこに関わりをもっていることを誇りに思ってもらえるような優れた企業作りをしなければならない。すばらしい従業員がいて温かいもてなしがあり、選りすぐった納入業者との強いつながりもある。そしてコミュニティにおいて積極的な役割を担っている。そんな会社にするのだ。投資家は配当だけを目的としているのではなく、その会社を包括する理念との結びつきにも賭けているのである。

従業員について

お客様よりも従業員を優先するのは、まずチームのメンバーがやる気をもって仕事に来てこそ、賞賛されるビジネスを長く続けることができ、お客様とのたしかな絆を保てるからである。

スタッフはまず互いを思いやることが大切だと理解できてこそ、お客様に対し意義のあるもてなしができるのだ。レストランだけでなくどのような分野でも、メンバーが互いに尊重しあい、信頼しあうことで、エネルギーにあふれ、しっかりと動機づけのできた勝てるチームを作っていける。また優れた従業員は、仕事から得るもののなかでも、共に働くすばらしい仲間をなにより貴重だと考える。そのような仲間との出会いを用意できる企業に魅力を感じるのだ。

ホスピタリティとは、だれかを喜ばせるためになにかをするのが純粋にうれしいと思うことである。それこそがスタッフにとって仕事の第一のモチベーションであってほしい。わたしたちは、自分たちがもてなされたいようにお客様をもてなすことを目指している。それは、どんな経営戦略よりも大きい効果を生むのではないだろうか。

どのような職種でも、お客様の最初の窓口となる従業員がいる。空港のゲート職員、病院の受付、銀行窓口、役員秘書などだ。その人たちは、会社の代理人としてお客様に会うだろうか、門番としてお客様に会うのだろうか。門番は他人を閉め出す。わたしたちが求めるのは代理人である。スタッフは自分の行動を監視する責任がある。自分は代理人になり得ただろうか。あるいは門番になっていただろうか。

こちらのよい態度が相手のよい態度を生むと、わたしたちは信じている。

挨拶をするとき、お客様がわたしたちに抱く第一印象は、シンプルだがお客様への心配りを物語る強力なものでなければならない。「このお店の人たちはわたしたちに会えて喜んでいるだろうか?」というお客様の疑問に、心から「イエス」と即答する挨拶である。

ほかにはないもてなしを提供できるかどうかは、人の気持ちに敏感なスタッフの注意力と直感力によるところが大きい。スタッフには独自の行動スタイルを開発して、より高みを目指すよう求めている。

コミュニティについて

ダニー・マイヤーは、コミュニティに富を生み出すことは、持続的な社会変化を実現するのに効果的ということを知り合いの経営者から学んだ。レストランの成長はコミュニティの成長に伴うことから、コミュニティに積極的に関与し、投資している。

同僚たちが、通常の仕事の枠を超えて働き、奉仕し、また一緒に楽しめば、間違いなく以前よりも互いをよく知り、協力がうまくなって仕事にもどってくる。強力なリーダーシップを生み、固く結ばれたチームメイトとなるのである。

コミュニティに投資するとは、コミュニティのために富を生み出すことでもある。それが、企業の成功を持続するために必要ななにかと結びつくことも少なくない。

レストランはお客様に栄養を与え、育むことで生計を立てているのであり、コミュニティで暮らすめぐまれない人々に食事を提供することも関わりがあると考えるのは自然である。

スタッフには、どのプログラムに参加しろ、あるいはどれには参加するなといった指示はしないが、大切だと自分で考えるものに関わり、リーダーシップをとるように勧めている。スタッフからわたしたちに支援を求められるのも歓迎だ。

地域とつながり、地域を支援しようとする努力は、コミュニティとビジネスの両方において報われてきた。

わたしの仕事、そしてわたしの喜びは、また行きたいと思ってもらえるレストランを作ることであり、コミュニティが与えてくれるのと同じかそれ以上を返し最終的にコミュニティに貢献できるような事業を起こすことなのだ。

仕入先について

わたしたちが仕入先を選ぶとき、製品が気に入るかということだけではなく、その会社の方針が自分たちの信念と一致するかどうかも考慮する。まずはこちらのビジネス価値と目標を明確にし、それから相手の価値と目標を理解しようとする。共通点の多い相手を探すのである。

優先順位四番目の仕入業者や納入業者に対するホスピタリティは、互いに尊敬しあえる忠実な関係を築くこと、また双方に利益のある取引を進めることで表される。そのためには、できることとできないことを正直に伝える必要がある。

普通は一番よい価格を提示する相手と取引するだろう。しかし、わたしたちにとっては、価格はもちろん大事だが、高いクオリティとホスピタリティ、そして価値観が同じであることもまた、業者を選定するうえで重要なのである。

投資家について

子どもにとって、だれかとなにかを分けあうことは難しい。分け合えば自分の取り分が少なくなるからだ。しかし、成長とともに忍耐を知り、交渉と妥協を覚え、ようやくおもちゃやお菓子、あるいは友だちさえも、だれかと分かちあうことが人生を豊かにすると学ぶのである。

自分の分け前が少なくなることで、結果的に多くのものを得る。

外部の投資家を迎え入れることで、ビジネスの成長に必要な燃料を供給できたばかりでなく、情報、助言、知恵、人間関係、そして影響力の幅を広げることにもなったのである。

□ 新規事業に問う「YES」の判断

ビジネスが順調だと、様々なところから素敵なビジネスオファーをいただくようになる。また、未来のニーズを予見し、将来を見据えて会社を進化させていくことが必要である。しかし、会社の人や金といったリソースは無限ではない。もし会社がこれから新しい事業に取り組む場合、自分たちの社風・ミッション・提供するバリューなどがどんなものなのかを考え、それらをベースに新しい事業に対して「イエス」か「ノー」かを判断する基準があると、自信を持って決断することができる。

新しい事業に取り組むときは、会社を大きくするためではなく、探究と学びの機会と考えている。がむしゃらに多くのレストランをオープンするのは無謀だし、魂のある人間同士の触れあいに基盤を置くわたしの会社にとってはあり得ないことだ。

どのような会社なのかを知ろうとするとき、その会社がどんな仕事をしてきたかと同様に、どんな仕事をしなかったかによっても多くがわかる。つまり、これまでのわたしたちの成功は、多くの機会に「ノー」と言ってきた結果なのだ。

ギャラリー・オーナーのように、すばらしい絵画を選び、合わせる額や照明に細心の注意を払うのはもっともなのだが、まずは「この絵はこのギャラリーにふさわしいか」という重要な問題を検討しなければならないのだ。

なぜわたしは山を登り続けるのか? それは、目の前にいつも高く険しい山があるからだ。頂上からの眺めがすばらしいとわかれば、どんな危険な条件にも立ち向かっていきたいと思う。それは新しいレストランにかぎらず、どのような事業をはじめるときも同じだ。

新規事業に問う「イエス」の基準

① わたしたちの会社の戦略目標と目的に合致し、それを高めるもの。
② 革新的、先駆的、新鮮なビジネスを生むチャンスになる
③ 会社が高いクオリティを保ったまま成長できるタイミングである。
④「市場の隙間」のビジネスであっても、そのカテゴリーでリーダーになれる
⑤ 新しい機会を追求しつつも、既存のビジネスが恩恵をうけ、より向上すると確信できる。
⑥ そのアイデアに期待と情熱を感じる。事業を遂行することが学び、成長し、楽しむ機会になる。
⑦ そのコミュニティでビジネスをすることに喜びを感じる
⑧ 場が適正である。わたしたちの店とスタイルが、その立地にも調和する。
⑨ 綿密な分析を行い、賢明かつ安全な投資であると確信できる。

タイミングが悪く、すべての基準を満たさずに新規事業に対してノーという決断に至ることもある。なにごともすべてタイミングだが、イエスかノーを決断するだけでなく、いつかその事業をやりたいかどうか知ることは大事である。オファーをしてくれた会社と将来的に手を組んで仕事をする可能性はゼロではないので、チャンスが来たときにそのチャンスをものにするような準備をしておくことは大事である。

なにごともタイミングがすべて。イエスかノーかの決断だけでなく、その先いつかそのような仕事をしたくなるかどうかを知ることは重要だ。とくに、タイミングが合わないという理由で断念する場合は、将来パートナーになるかもしれない相手と連絡をとり続けていくべきである。

新規事業に問う「イエス」の基準の中で、「場」がふさわしいかどうかはとても重要である。

長年、耳にしてきたのは一にも、二にも、三にも「立地」だった。小売業の成功のカギは正しい立地を選んで店を構えることだという鉄則である。しかし、わたしの経験では、それよりもはるかに成功を左右するのが状況や雰囲気、つまり「場」なのだ。

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