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#926 記実の杜の端に、インダクチヴの神社あり

さて、『早稲田文学』第13号(1892年4月15日)には、「城南評論城主と逍遥子とのパーレー」「陣頭に馬を立てゝ敵将軍に物申す」とともに「没理想の由来」が掲載されています。時系列に沿えば、これを読み始めるのが順当なのですが、1896(明治29)年9月に春陽堂から出版された評論集『文学その折々』に再掲載された際には、次号の『早稲田文学』第14号(1892年4月30日)の「雅俗折衷之助が軍配」「入道常見が軍評議」「文珠菩薩の剛意見」「小羊子が矢ぶみ」を掲載したあとに、「没理想の由来」をまるで論争関連の締めを飾るかのように掲載する構成となっています。これまで見てきたように、没理想論争第三ラウンドは、逍遥が没理想論争を軍記物に仕立てて振り返るところから始まる、これまでとは毛色の違うものとなっています。おそらく、「没理想の由来」を物語の連載の途中に挟むと、まさに話の腰を折ってしまう状態となるので、最後に配置したのでしょう。ということで、『文学その折々』の再構成を重んじ、このまま逍遥が仕立てた軍記物を読み続けることにしたいと思います。

ということで、今回から「雅俗折衷之助が軍配」を読みはじめます!

"Cease to consult, the time for action calls;
War, horrid war, approaches to your walls!
Assembled armies oft have I beheld;
But ne'er tiil now such numbers charged a field:
Thick as autumnal leaves or driving sand,
The moving squadrons blacken all the strand.
Thou godlike Hector! (sheeplike Shoyo!) all thy force employ
Assemble all the united bands of Troy (thine)
In just array let every leader call
The foreign troops : this day demands them all!" - Pope.

上の文章はホメロスの『イーリアス』の一文です。「神のような神々しいヘクトール」に対して「羊のような意気地なしの逍遥」という言葉を差し挟んでますね。

蓊々鬱々[オウオウウツウツ]、老樹古木、重畳して梢をまじへ、森々として深きこと、幾里[イクサト]といふ限しらぬ、記実の杜の此方[コナタ]の端に、かたばかりなる、インダクチヴの神社[ミヤシロ]あり、そが寶前の花表[トリイ]の左右に、禿筆[チビフデ]の穂先を、幾つともなく染めぬいたる、限[カギリ]ある破幕[ヤレマク]を打めぐらし、没理想と只ひとしほばかりぞ、いとほのかに下染[シタゾメ]したる流旗[ナガレバタ]を、虚空に高く吹なびかせ、前進如意と聞えたる、方便の床几[ショウギ]に腰打ちかけ、歌舞伎座の左中将を、鳥羽絵にしたらん風情にて、味方の注進待貌なるは、わが没理想軍の俄[ニワカ]大将、小羊[コヒツジ]の逍遥子の、武者振とこそは知られけれ。

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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