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#1413 第二十一回は、祝賀の大饗宴でぶんせいむが挨拶するところから……

それでは今日も幸田露伴の『露団々[ツユダンダン]』を読んでいきたいと思います。

今日からいよいよ最終回の「第二十一回」に入ります!それでは早速読んでいきましょう!

第二十一回 あら尊[トウト]青葉若葉の日の光り
さき草の新殿に宜[ウベ]も富けり徳も寶[タカラ]も

年も改まりて陽気づきし頃、大統領始め朝野[チョウヤ]の名士數人[スウニン]を證人[ショウニン]として道徳高き大僧正何某[ナニガシ]其式[ソノシキ]を司[ツカサド]り、しんじあとるびなとの婚禮[コンレイ]はすみぬ。悦びには日の立つこと早く、「二人[ニニン]新婚の通知書」を洽[アマネ]く諸方[ショホウ]へ送りし跡に引續きて祝賀の大饗宴[ダイキョウエン]はぜねらす村に開かれたり。来客のいと多く、接待のいと濃[コマヤカ]なるは云ふもさらなり、にうよるくの母家[オモヤ]より此家[コノイエ]に續[ツヅ]く鐵道[テツドウ]の汽車止む間なく往来して汽笛の聲の絶えざるは數萬[スウマン]の職工等がぶんせいむ家萬歳[バンザイ]と叫ぶ聲に和し、雄壮[ユウソウ]の音楽天に響きて起[オコ]り、美くしき花火は星を凌ぎて眩[マバ]ゆし。電信脚夫[キャクフ]郵便脚夫[キャクフ]は諸方の紳士支店等よりの祝詞[シュクジ]をもち来[キタ]り、洋々[ヨウヨウ]として瑞気祥雲[ズイキショウウン]屋上に立ちしは、誠にこれ世界に鳴り渡りたる米國の大長者ぶんせいむ家の賀宴[ガエン]と目覚しき限りなり。

瑞気祥雲とは、めでたい雲のことです。

よき時分を圖[ハカ]りてぶんせいむは来賓一同に打向[ウチムカ]ひ、満堂の貴女紳士にぶんせいむ一家の長[チョウ]として其[ソノ]光臨[コウリン]の栄[エイ]を惜[オシ]ませられざりしを丁寧に謝したる後[ノ]ち、
ぶん「偖[サテ]予が茲[ココ]に一寸[チョット]大滑稽のお話と大眞面目[ダイシンメンモク]の御話をしませう。滑稽とは即ち余が奇異なる廣告[コウコク]を世間になしたりし事にて大眞面目[ダイシンメンモク]といふも矢張[ヤハリ]其件[ソノケン]で御座ります。滑稽とは予が老後の好朋友[コウホウユウ]を得んと欲するので、眞面目[シンメンモク]とは予が少女の良配偶[リョウハイグウ]を得んと欲したのです。然るにぶんせいむの幸福なるは一方に於[オイ]ては身を重[オモン]じて道に徇[トナ]へ、情を制して矩[ノリ]を踰[コ]えざる紳士を眞[シン]の試験外の試験に認め得て、少女の良配偶を得たるのみならず、他[タ]の一方に於ては才に任せて楽[タノシ]みを取り、気を抑へて巧[タクミ]に趣きをなすの奇人を實[ジツ]に計畵[ケイカク]なきの計畵に知り得たるなり。然[シカ]のみならず余は是を推しひろめて従来尊[タット]んずるにたらずとせし宗教の價値[カチ]を知り、また解する事なかりし風流の趣意を知るの幸福を得たり。満堂の紳士淑女よ。願はくば此[コノ]老人の滑稽の點[テン]に於[オイ]て十分笑ひ、眞面目[シンメンモク]の點[テン]に於[オイ]て充分悦ばれんことを望む」。
と傍若無人に云ひ放てば人々始めて廣告[コウコク]の眞意[シンイ]を悟りて拍手の音笑ひさヾめく聲[コエ]流石は大量無雙[タイリョウブソウ]の主人哉[カナ]と嘆[タン]ずる聲々[コエゴエ]鳴りもやまず。

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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