見出し画像

#938 没理想城は陥落しない!

それでは今日も坪内逍遥の「雅俗折衷之助が軍配」を読んでいきたいと思います。

何をもてしかいふぞ、と問はせたまへ、たとひ将軍がInvincible armyの力をもてするも、方便として築きたる逍遥子が没理想城は到底陥落[オチイ]ることあるまじければなり。そはまた何故ぞ。曰はく、逍遥は理想無しといはずして、理想見えずといへばなり、かるが故に、将軍假令見えたり、とのたまはすとも、その見えたる理想が、唯一絶対の眞理にして、古き哲学系はしばらく措く、尠くとも他の幾系の新哲学を悉くしりぞけ得べき價値あること、正に此くの如し、と分明に確實に、将軍の證明する能はざる限は、逍遥が没理想論は、南山の壽の如く、かけず崩れざるべく、不懐金剛の盤石の如く、芥子刧[ケシコウ]に亘りて依然たるべし。

「Invincible army」は、「全勝軍」のことです。

「南山の寿」は、長寿を祝う語です。
『詩経』には、こんな言葉があります。

如月之恒、如日之升。如南山之壽、不騫不崩。如松柏之茂、無不爾或承。

月の恒なるが如く、日の升[ノボ]るが如く。南山の壽の如く、騫[カ]けず崩[クズ]れず。松柏の茂るが如く、爾[ナンジ]に承[ウ]くる或[ア]らざるなし。

三日月が満ち、日が昇るように、南山の寿が欠けず崩れないように、松柏が茂るように、あなたに承り従わぬものはない

南山は、西安の西南にそびえる終南山を指します。この山は堅牢な岩石から容易に壊れない山といわれており、「不壊」を意味します。

で、ここから「不壊金剛[フエコンゴウ]」へとつながります。通常は「金剛不壊」と表記され、決して壊れない「盤石」で堅いことを意味します。

「劫」は、古代インドのとてつもなく長い時間の単位のことです。
上下四方40里の城いっぱいに芥子[ケシ]を満たし、3年ごとに1粒ずつ芥子を取除いて、すっかり芥子がなくなってしまう期間を「芥子劫」といいます。さらに上下四方40里の岩を、天女が天から3年ごとに下ってきて、羽衣でひと触れしているうちに、その岩がすりへってなくなってしまう期間を「磐石劫」といいます。「不壊金剛」と「劫」が「盤石」でつながるわけです。40里の場合を「小劫」とし、80里の場合を「中劫」、120里の場合を「大劫」とする場合があります。「小劫」は、人間の寿命を8万4000歳とし、100年ごとに1歳ずつ減少していって寿命が10歳になるまでの期間、そして10歳のときから100年ごとに1歳ずつ増加していって8万4000歳となるまでの、この1増減のサイクルを指します。この「劫」は、世界の成立から無にいたるまでの4期の分類にも使われ、自然界と生物が成立する期間を「成劫[ジョウゴウ]」、自然界と生物が安穏に持続していく期間を「住劫[ジュウコウ]」、生物が消滅し自然界が破壊される期間を「壊劫[エコウ]」、そして破壊しつくされ何もなくなってしまう期間を「空劫[クウコウ]」といいます。この4分類のそれぞれの期間は20小劫かかります。

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,902件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?