#873 理想主義を叙情詩の門の専有に帰し、実際主義を叙事詩の門の専有に帰す
それでは今日も森鷗外の「逍遙子の諸評語」を読んでいきたいと思います。
「シルレル」は、ヨーハン・クリストフ・フリードリヒ・フォン・シラー(1759-1805)のことでドイツの詩人・劇作家・思想家で、ゲーテと並ぶドイツ古典主義の代表者です。作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)の交響曲第九番、通称「第九」の第4楽章は独唱および合唱を伴って演奏されますが、歌詞には、このシラーの詩『歓喜に寄す』が用いられ、『歓喜の歌』として親しまれています。シラーは、スペインのアストゥリアス公カルロス(1545-1568)を主人公として、歴史的題材を舞台とした『ドン・カルロス』を1783年から1787年にかけて執筆し、1787年にハンブルクで初演されますが、鷗外はシラーが『ドン・カルロス』を執筆していたドレスデン郊外の家を、1885(明治18)年の冬に訪ねていますし、さらに、鷗外はシラーの処女作『群盗』(1781)を1885(明治18)年11月にドレスデンで観劇しています。
「ギヨオテ」は、ゲーテ(1749-1832)のことで、鷗外は1913(大正2)年に『ギヨオテ伝』を出版しています。鷗外にとって、ゲーテとシラーは、文芸・文化を思考する際のひとつの指標だったようです。
「ジヤン・ポオル」は、ドイツの小説家ヨーハン・パウル・フリードリヒ・リヒター(1763-1825)のことです。ゲーテやシラーの時代に、古典主義とロマン主義の間の特異な地位を占め、『巨人』(1800-1803)や文学論『美学入門』(1804)など、のちに出版される全集が65巻にも成る極めて多くの作品を出版しました。自ら「ロマン的ユーモア」と名づける文学理念を確立し、後進的なドイツの現実を、超越的な理想や夢に対比させつつ表現し、のちのリアリズム作家へ大きな影響を与えました。
ということで、この続きは……
また明日、近代でお会いしましょう!
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